10 / 67
第一章 討伐騎士団宿舎滞在編
9 塩しお潮!!ここは海か!私は魚か!!?
しおりを挟む「ど、どうしました、ケイ様?」
私の近くに居たにもかかわらず復活が早い団長さんが、いきなり大声を出した私を心配してくれてる。けど、私にとってそんなことどうでもよかった。
何故なら……。
「団長さん……申し訳御座いませんが、食事の説明よろしくお願いいたします……」
「はあ……至って普通のスープとパン……ですが?」
また絶叫しそうになった。
至って?普通の?スープとパン、だと……?
これを日常的に食べていると言うのか?
団長さんがスープとパンと言って持ってきたものは、私からするとカップじゃなく、皿で汲んだお湯と平たいビスケットと言えるものだった。
申し訳程度に玉ねぎが入っているスープはオニオンスープらしく、味は塩味で出汁もコンソメもなし。
平たいパンはフォカッチャを思い出させる形だけど、小麦粉を適当に練って焼いただけのガチガチの……グルテンの塊。
おかずというか、目玉焼きと付け合せにサラダがあるのだけど、それはただ切ったものをのせただけで、ドレッシングも何もかかっていない。塩とオリーブオイルのみだ。これはこれで美味しいが、野菜です!!という主張が激しい。
目玉焼きは日本でいう片面焼きのサニーサイドアップではなく、両面焼きのオーバーターンにする前、ぐしゃぐしゃに黄身を混ぜてからひっくり返しました、みたいな……もちろん、味はついていなかった。
朝だから控えめなのかな?と思ってそれ以上はツッコミはせず、塩味しかしない朝ごはんを食べ、昼を待ってみた。
……結果、石のように硬い形だけクロワッサンもどきと何の肉か分からない焼きすぎて硬いステーキ、朝と同じサラダとスープが出てきた。
「……塩味」
「ケイ様?……あの、どうかなさいましたか?食事になにか不満でも……?」
おずおずと団長さんが問い掛ける。
周りを見ればわたしたちと同じような食事で、皆何も疑問を持たずに食べている。
と、言うことは、だ。この世界の基準はこれかこれ以下という事。だってここは曲がりなりにも宮廷付属の討伐騎士団。肉が出てるだけでもきっと凄いことなんだと思ったし、実際そうなんだろう。もしかしたら塩味であることさえも……いや、もう考えない。
材料の野菜などはどれも新鮮でおいしいから、ドレッシングがいらないって言うのはわかる。
でもって肉も筋張っていて顎が破壊されるかなと言うくらい焼き過ぎなだけで素材そのものの味は良い。何の肉か分からないのが怖いけど、ちょっと塩分多めっていうのも……まあ、わかる。訓練で疲れた身体を塩で補う的なね!
そう、素材そのものはいいのだ、全て。
味が無くても美味しく食べられるんだろう。
しかし、パン……お前はダメだ。
硬いパンもどき!いや、パンと呼ぶのもおこがましい!これはグルテンの塊でしかない!人でも殺すんか?ってくらい硬いし!これはいけない!!!保存の為なのか塩の味もする!塩分過多だよ!こんなん食べ続けてたら高血圧まっしぐらだわ!!
「団長さん……ここの食事はいつもこのようなものなのですか?」
「そうですね、夜も大体同じような内容で、パンが蒸かし芋になるくらいでしょうか」
「味は?調味料は?」
「調味料……とはなんですか?」
「……マジか……そうきたかー……」
チートうぇーい!とか女神様サービス良すぎない?とか思ってたけど、こういう事か……。
居るだけでいい、楽しんでって……食事がこれだと楽しみたくても楽しめないよ!
女神様、絶対こうなること分かってたな……?
だから調味料無限大チートなんだな??
異世界人が居るだけでその世界の文化が進むってこういう事なのね……。
私がため息をついていたら、何を勘違いしたのか団長さんが謝ってきた。
「すみません、ケイ様……」
「なんで団長さんが謝るんですか?」
「ご不満があるのに、何も出来ず……申し訳御座いません」
しょんぼりゴールデンレトリバー……。
団長さんが悪いわけじゃないのに、そこで謝っちゃうのがこの人のいい所であるし悪い所でもあるんだろうな。
私なんか地球では普通の一般人なのに、この団長さんは何故か私の事を聖女のように扱ってくる。
確かに私が聖女の能力があったら護衛する役割を担ってたって下地があったにせよ、ちょっと過剰じゃないかな……なんて思った。
でも、優しくしてくれるのはとても嬉しいし、感謝している。たった1日ちょっとだけど、この人は常に私にとても気を使ってくれるし過ごしやすいように何とかしようとしてくれる。
そんな人を悲しませたくはないよね?
「団長さんが謝ることじゃないです、私の住んでた世界の基準で物差し測っちゃっただけなので」
「……やはり、ケイ様のお口に合わなかったのですね」
「いえ、素材自体はとっても美味しいんです。……ただ……」
「ただ?」
首を傾げる団長さん。
イケメンのくせに可愛いとかやめろ。
咳払いをして、意を決して言う。
「塩味しかないのが……辛い……」
私の心の中で、キヨミズの舞台から飛び降りる位の勇気を使った。
人間、贅沢に慣れていたら二食で塩味縛りの食事に限界迎えて涙することになるからお前ら覚えておけよ!!
私の訴えに団長さんは少し考え込む仕草を見せると、にこり、と笑った。不思議に思った私が団長さんに目で訴えると、そのままの笑顔で頷く団長さん。
なにか考えがあるんだろうか?
「わかりました、それではケイ様にこの宿舎の調理場をお見せします。それで元いた世界と同じような食材や調味料?があれば自由にお使いください」
「え!?いいんですか!?」
「はい、それはもう。ケイ様に心穏やかに過ごしていただきたいので」
「ありがとうございます!!」
飛び上がらんばかりの私を、団長さんが破顔のイケメンビーム飛ばす勢いで見詰めるから反射的に真っ赤になって固まってしまった。
やめて、なんでそんな笑顔で見つめるの怖い。
胸のときめきを自覚しつつも、怖さが先に来てしまったので、誤魔化すように水を飲んだ。
「食事も終わりましたし、こちらに」
塩たっぷりの食事を終えた私に団長さんは促した。
素直について行くと、先程言っていた調理場に案内された。
調理場に、と言っても食堂と調理場はくっついていて、雰囲気は学生食堂って感じだ。
カウンターには食事を受け取るスペースと、食べ終えた食器などを置くスペースがあって、今は皆食べ終えたばかりなので大量の食器を前に忙しいそうに洗い物を頑張っている中学生位の子が見えた。団長さんがそこから直接その子に声をかける。
「ルー、今いいかい?」
「へ?……わ、わああ!?だ、だんちょ……じゃなかった!ウルファング士団長様!!わ、私のような下のものに、何か御用でしょうか!?」
「そう畏まらなくていい、ちょっとお願いがあるんだ。食堂に来てくれないか?」
「は、はい!ただいま!」
中学生位の子……ルーと呼ばれた男の子は、団長さんが声をかけると皿を割らんばかりに狼狽えていたけど、威勢の良いハキハキとした感じがとてもいい印象だった。
そして声をかけられて数分、泡だらけのまま急いで走りながら食堂にやってきた。
カウンター越しだったので、一旦調理場から出たあとぐるっと回って食堂に来たらしく、息も絶え絶えになっていたのが少し不憫に感じた。
「お、おまたせっいたし……ましたっ」
「急がせてしまったね、悪かった」
「い、いえ!!……そ、それで……御用というのは……?」
「ああ、まずはこちら。知っているだろうが、召喚の儀にてこちらの世界にこられたケイ様だ」
「え、あ……はじめまして、ボク……じゃない、私はルーと申します」
「あ、はじめまして……」
団長さんに紹介されたルーは、私を見るとビクッと身体を跳ねさせるも、直ぐに立て直り一礼をしてくれた。
けど、なんだかわたし恐れられていないか?
昨日から若干感じ取っていたけれど、周りの騎士達の反応が微妙なんだよね……。
騎士団の中で私が唯一女だってのもあるし(この男の世界に何故女が?みたいな反応あるし)見慣れないんだろう。ましてや異世界から来たってのもある。
そこはちゃんと事前説明して通知してたらしいけど……やっぱりあれか?ステータスか?
今現在私のステータス、団長さんに説明してもらったんだけどレベル的には幼児くらいなんだそうで。普通だったら有り得ないんだそうです。それはなんとなく謁見の間の時に聞いたような気がする。
普通なら庇護せねばならぬ存在……それを知らないのに教えもせずに放り出すなんて外道しかない、だからこそ団長さんが必死こいて昨日探し回ってくれたらしいよ。
そんなこと宮廷の人なんっも言ってくれなかったけどね!!
まあ、私が啖呵切ったからしょうがないんだけど。
そんな状態なのにその他が大人クラスだからバランスが取れてなくて存在自体が危ないって。だから団長さんめっちゃ過保護なのかな?と思ってる。
そんなちょっと扱いにくい人物を前にして、ルーを初めとする騎士達の反応は当たり前か。
……なんて妙に納得してしまった。
「それでだな、ルーにはケイ様と共に調理場の案内をして欲しいのだ。私は調理場の事は分からぬからな」
「ぼ……っ、わ、私がですか!?」
「空いてるのはルーしか居ないだろう?他の騎士はこれから討伐に行くそうだ」
「う、あ……は、はい……」
なんかめっちゃ嫌そうなんですけど!!
大丈夫か!?
私が不安そうに二人の会話を聞いていると、ルーが恐る恐るこちらに近付く。
「あ、のっ……どうぞこちらにっ」
めっちゃ緊張されてる……本当に大丈夫か?
12
お気に入りに追加
216
あなたにおすすめの小説
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜
はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。
目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。
家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。
この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。
「人違いじゃないかー!」
……奏の叫びももう神には届かない。
家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。
戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。
植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。
問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』
山口 犬
ファンタジー
――その国の王となるには、次期王候補者と精霊使いは、四つの属性の大精霊と大竜神の祝福を受けなければならない。
『ニュースです。昨夜、銀座のビルのテナントの一室で起きた爆発事故で、連絡が取れなくなっていた従業員とみられる男女四人の遺体が発見されました。』
女子大生のハルナはMMORPGにどっぷり浸かった生活を送っていたが、PCパーツ貧乏となり親族のお手伝いで夜のアルバイトへ。不慮の事故により異世界へ転生し、精霊と出会う。
ハルナは失踪した精霊使いの少女と似ていたため、この世界の事情に取り込まれていくことになる。
※大変申し訳ありません。現在家庭の事情で、創作活動が滞っております。現在、書き溜めもすべて放出している状態です。すみませんが、これからの更新は不定期になります。
【以下のサイトでも掲載中です】
小説家になろう様
https://ncode.syosetu.com/n6489fn/
エブリスタ様
https://estar.jp/novels/25497426
カクヨム様
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893181287
ノベルバ様
https://novelba.com/indies/works/913633
ノベルアップ+様
https://novelup.plus/story/867233065
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
俺の召喚獣だけレベルアップする
摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話
主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った
しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった
それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する
そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった
この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉
神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく……
※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!!
内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません?
https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる