9 / 67
第一章 討伐騎士団宿舎滞在編
8 振り返ればもう……
しおりを挟む「ケイ様~!今日のご飯はなんですかー!?」
新米騎士団員のルーがやってきた。
彼はまだ成人してないので騎士団の仕事にはついていけない。だからいつも訓練以外の空いた時間に私の手伝いをしてくれている。
最初は私の事を怖がっていたのだけど、なんか気付いたら懐いていたので良しとする。
「んー……今日は風の日だっけ?じゃあ、カレーにしようかな?」
「カレー!?やったー!ボク、カレー大好きです!」
「玉ねぎいっぱいだよ?」
「……そ、それを乗り越えても!カレーは美味い!」
玉ねぎ、の単語に嫌な事を思い出したのか、ルーは怯んだけど、その後の美味しさも同時に思い出したようでやる気に満ち溢れている。
カレーは万人にウケる。
それはこの世界もそうであったようで、初めてカレーを出した日は奪い合い、後、おかわり戦争の喧嘩勃発したほど。
死人が出るかと思ったね。
あれ以来何度かリクエストがあってカレーが出まくったけどいまではおちついたものよ。
……思い出すとちょっと遠い目になりそう。
嬉しい事に食材なんかの呼び方は私仕様に変換してくれるみたいで、玉ねぎは玉ねぎ、じゃがいもはじゃがいもって変換して聞こえる。
見た目も似たり寄ったりだからそれっぽいものが地球で言うそれ、みたいな感じ。
いや、これは流石に……っていう見た目のもの、まあいわゆる異世界ならではな食材は……
「ルー、これ何?」
「それですか?……んっと、○□■■ですね!」
「……そっかー!」
……な、時もあるし。
「これは?」
「それはタケノコです!」
「これが……タケノコ……」
……な時もある。
ちなみに今持ってるタケノコらしきものは見た目でっかいキノコである。
うん、キノコ。しいたけ寄りの見た目のキノコ。
多分食べたらタケノコの味がするんだろうな。
そっと元のカゴの中にもどした。
今日は風の日。
この世界……レイスディティアは、七日を一周として、それを4回繰り返してひと月。
そしてひと月を12回繰り返して一年としてるので、地球とまるで同じで数えやすかった。
ただひとつ違うのは曜日の呼び方で、光の日、火の日、水の日、土の日、風の日、闇の日、女神の日……って呼んでる。数え方は、2週目の火の日、とか火の日の2とかバラバラで、日にちという概念はなかった。
だから誕生日とかも、2の月の3週目の土の日……みたいに言うらしい。
わかればいいでしょ、ていうアバウトさが異世界っていう感じがする。
そんでもって、それぞれに神が居て、それを祀る日……らしい。担当の神の力が強くなるんだって。
これはスキルとか魔力、滅多にないけど加護とかに関係あるから重要らしく、例えば魔法を使うなら闇の日がやりやすいとか、魔力があがるとか、魔物が出やすくなる……とか、そういうことらしい。
とにかく生活に関わることだから、各曜日?は気をつけた方がいい日と過ごしやすい日があるからそれを参考にして生きているそうだ。
うーん、何ともサバイバル。
例外は女神の日ってのがあって、この世界を統べる頂点の女神様の事らしく、この日は穏やかで女神が護ってくれるから仕事とかもお休みして神殿にお祈りに行くんだって。
行けない人はお祈りだけでもいいみたいだけど、長くそれを続けると加護が薄くなる?とかでどこかで必ず近くの神殿に行くんだそうだ。
自分で神棚みたいなの作る人もいるらしいけど、それは貴族とかが多くって、基本、神殿に行くのが常識なんだそう。
地球でいうミサ?みたいなもんかな?
ここの討伐騎士団は自分達の簡易神殿があって、それは遠征に行く時にもっていく用なんだそうで、ここ宿舎には無い。
だから普段は宮廷の神殿に預かってもらってるらしいし、お祈りしに行くって言ってた。
多分、女神の日の女神様が私が話した、あの優しい女神様だと思う。今度、女神の日になったら神殿行ってみようかな、報告がてら。
あ、でも他の人に会うのは嫌だし、特にあの馬鹿王子とは死んでも会いたくない。それに、司祭様と顔を合わすのもなんだかな……気を遣わせてしまうかもしれない。だから、ちょっと考えものだ。
そんでもって今日、風の日は日本で言うと金曜日にあたる日なので、なんとなくカレーにしてみた。
ほら、海軍の人は曜日感覚が無くならないように金曜日はカレーの日ってしてたじゃん?私はそこの出身じゃ無いけど、なんとなくね。日本恋しいで、習慣にしてみようかなって。
こんな話したら絶対ルーが食いついてくるだろうから、今は内緒にして。
私は嫌な顔をするルーに大量の玉ねぎを押し付けて、ひとり黙々とじゃがいもの皮を剥く作業に没頭する。
――……あれから、どのくらいたっただろう。色々ありすぎて遠い目になる。
少し過去を振り返ることになるのだけど。
団長さんに、有無を言わさないイケメンビームをくらったあと、私はあれよあれよと用意されてた部屋(団長さんが絶対私を保護すると前もって他の騎士さんにお願いして整えててくれた)へと連れていかれ、そのまま寝た翌日の話。
私は、今日も小鳥の鳴く声で起きた。
やはりこの世界の人達、朝がめっちゃ早いみたいで夜明けから活動してる。
神殿の皆様みたいに日も登らぬうちに、なんてことは無いけどそれでも騎士団の皆は訓練だとか、周辺警備だとかで忙しそうだった。
掻い摘んで聞いた所、この国には大きくわけて王家や貴族、宮廷の事を守る近衛騎士団、国を脅威から守る討伐兵団があって、ここは討伐騎士団の部隊宿舎のうちの一つなんだとか。
もうひとつは傭兵団ってのがあるけど、それは平民や冒険者が集まった民間兵団であって、国とは別で、独自ルールの元、街を守るんだって。
この討伐騎士団は国を脅威から守るってだけあって、宮廷周辺や、国境、領地、あらゆる場所に現れた魔物を討伐することを生業としている言わば実力主義、剣技だけが己を誇示する!……っていう、力こそ我なり!みたいな集団だった。
だからこそ身分なんて関係無いらしく、平民も貴族もごちゃ混ぜ。なんせ力があれば入れるからね。
反対に近衛騎士団は貴族様が集まるお飾り騎士団らしく、宮廷警備とか、王族や貴族をお護りするのが主な仕事。だから嫡男以外の貴族の次男、三男が入る所らしい。そんでもって、あの嫌味ったらしい馬鹿王子が騎士団長してるらしいよ?もうその時点でうわぁ……お察し、って感じだよね。絶対近付かないでおこう。
そんな感じで団長さんに教えてもらった。
夜だったから、と朝から討伐騎士団の宿舎を案内してもらっているのだ。
まあ、案内はついでで、本当は食堂に行く道すがら案内されているんだけどね。
宿舎は三階建てで、下が食堂とお風呂や武器庫、その他色々あって、見習いの部屋などがある。
2階が騎士団員の部屋で、3階に団長の部屋がある。上に行けば行くほど偉い人用の部屋なのはわかるけど、私は3階に部屋を設けられた。
まあ、この騎士団の中で唯一女だから、って言う理由らしい。
そりゃそうだよね……いくら私が普通の見た目でも(あ、馬鹿王子のムカつく発言思い出した)一応、女であればこの男ばかりの中では、何があるかも分からない。それを未然に防ぐなら……って所でしょう。私でもそうしている。
そんな話をしながら食堂に着いた。
昨日とは違って沢山の騎士達が溢れかえっていて、楽しそうに歓談しながら食事をしている。
その中を団長さんが姿を表すと、それまでガヤガヤとしていた食堂は一気にシーンと静かになってしまった。
――……うん、上司がいると食べにくいよね、ごめんなさい。
「……普段は、自分の部屋で食べるものですから」
団長さんが申し訳なさそうに言う。
うん、だろうね。この反応をみたらわかるよ!!
団長さんが進めば団員がすっと道を作る。
モーゼか何かなのかな?
なんかすごく……不自然なほどに恐れられてない?
空いているテーブルが無かったのに、団長さんが座ると気を利かせた団員が退いてくれた。
「ケイ様、ここに」
「あ、ありがとうございます……」
なんとなく居心地の悪さを覚えつつ、素直に促された席に座る。
団員達の視線が気になるけど、団長さんは慣れているのか平然としている。
うーん、こんなもんなのかな?わからん。
「私は食事を取りに行ってまいりますので、少しお待ちください」
丁寧に断りを入れて去っていく団長さんの背中を見ながら、周りを見渡す。
昨日はよく分からなかったけど、食堂は大きな窓があって、そこから気持ち良い光が差し込み、食堂を照らす。そしてその先は訓練所がみえる。訓練所から直通で来れる仕様なんだろうな。
そりゃ動いたらお腹も空くし、訓練後は早くご飯食べたいよね。
なんて考えてたら団長さんが食事を持ってきてくれた。やっと確認出来る、異世界の食事!
期待を半分に、初めて触れる異界の文化。
だけど私は目の前に置かれた食事を見て……さけんだ。
「な、なんじゃこりゃーーー!!!!」
謁見の間以降の、大声だったと思う。
12
お気に入りに追加
215
あなたにおすすめの小説
通称偽聖女は便利屋を始めました ~ただし国家存亡の危機は謹んでお断りします~
フルーツパフェ
ファンタジー
エレスト神聖国の聖女、ミカディラが没した。
前聖女の転生者としてセシル=エレスティーノがその任を引き継ぐも、政治家達の陰謀により、偽聖女の濡れ衣を着せられて生前でありながら聖女の座を剥奪されてしまう。
死罪を免れたセシルは辺境の村で便利屋を開業することに。
先代より受け継がれた魔力と叡智を使って、治療から未来予知、技術指導まで何でこなす第二の人生が始まった。
弱い立場の人々を救いながらも、彼女は言う。
――基本は何でもしますが、国家存亡の危機だけはお断りします。それは後任(本物の聖女)に任せますから
異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。
死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~
未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。
待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。
シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。
アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。
死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。
公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)
音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。
魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。
だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。
見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。
「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
秘密の聖女(?)異世界でパティスリーを始めます!
中野莉央
ファンタジー
将来の夢はケーキ屋さん。そんな、どこにでもいるような学生は交通事故で死んだ後、異世界の子爵令嬢セリナとして生まれ変わっていた。学園卒業時に婚約者だった侯爵家の子息から婚約破棄を言い渡され、伯爵令嬢フローラに婚約者を奪われる形となったセリナはその後、諸事情で双子の猫耳メイドとパティスリー経営をはじめる事になり、不動産屋、魔道具屋、熊獣人、銀狼獣人の冒険者などと関わっていく。
※パティスリーの開店準備が始まるのが71話から。パティスリー開店が122話からになります。また、後宮、寵姫、国王などの要素も出てきます。(以前、書いた『婚約破棄された悪役令嬢は決意する「そうだ、パティシエになろう……!」』というチート系短編小説がきっかけで書きはじめた小説なので若干、かぶってる部分もありますが基本的に設定や展開は違う物になっています)※「小説家になろう」でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる