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どれだけ共感しようとも、他人を理解することは不可能である。
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ナニカ「いらっしゃいモドキ! 今日はナニカが議長だよ!」
モドキ「え、ええお邪魔します······。·········元気でよろしいことこの上ないのだけれど、ねえナニカさん。私まだ玄関すら跨いでないのよ。というか、そもそも私達って、普段から議長を立てるような仰々しい会議なんてしていなかったはずよね? 学級会じゃあるまいし、規律正しく取り決めるものもないでしょうが。それに一体一の議長と議員って何よ、ただの対談じゃん」
ナニカ「えっへん、本日の議題ですがー」
モドキ「聞けや、無視か。よくそれで議長とか言えたな。·····ごほっごほっ、あらやだ。らしくなさすぎて口が悪くなっちゃったじゃないの。私もらしくないったらないわ。どうしたの? 玄関先で話し始めるぐらい気になることがあるの?」
ナニカ「この間ね、本を読んでたんだけど――」
モドキ「ちょっと、ねえ、聞いて? 人の話を聞けないぐらい気になることなの? それにしたって、人間社会において、人の話は聞くものだし、話すタイミングはしっかり見極めるべきよ、ナニカ」
ナニカ「ごめん·····。そうだよね、いつもお茶とか用意してからだもんね·····。モドキと話したら楽しそうだなって思ったらいても立ってもいられなくなっちゃって、先走ってしまった·····。えっとね、内容としては、どちらかと言えばこう、色んな意見をたてて話をじっくりことこと煮詰めて楽しむ感じのやつなんだ」
モドキ「あら、そうなの? もう、それならそんな風に息巻く必要もないでしょうに。まあいいわ。どうせ話題が何であれ、あなたと話をしに、私はここに来ているんだもの。いつも私の話に付き合ってくれているんだし、是非とも付き合うわ」
ナニカ「わーい! まずはお茶の準備だね!」
モドキ「ええ、そうしましょう」
モドキ「――さて。続けましょうか。よろしくね、議長さん?」
ナニカ「ありがとうモドキ! じゃあ改めて――えっへん、では、始めよう」
モドキ「はいはい、何かしらー?」
ナニカ「モドキは、ドッペルゲンガーって分かるかい?」
モドキ「ドッペルゲンガー? あの世界に三人いるかもっていう?」
ナニカ「うん、諸説あるけど、そういう類のやつ。ナニカもこの間、本を読んで知ったばかりだからとっても詳しいわけじゃないのだけれどね。自分と同じ顔に会ったら死ぬ――三回会ったら死ぬ、だっけ? まあ、総じてそれらの存在は『自分』として扱われるだろう? 自分というか『もう一人の自分』というか·····。そういったキャラクターや表現を色々な物語で見かけるけれど――さて、それらは本当に『自分』と同義だと言えるのだろうか?
ドッペルゲンガーとは言ったけども、正しくはもっとこう、コピーに近い存在を思い浮かべてほしい。『自分と同じ顔をした別人』ではなく、同じ顔、同じ性格、同じ思考回路の、まさに表現するなら『もう一人の自分』は、便宜上ではなく事実としての同じ個体――〝自分自身〟と言えるのだろうか。どこまで同じであれば『同じ個体』、つまるところ同一人物であると言えるのだろう?」
モドキ「物語に出てくる『もう一人の自分』って言葉に関しては、描写としての比喩であることも多いから、なんら疑問ではないけれど·····」
ナニカ「うーん、そうじゃなくってね。疑問に思ったきっかけが『ドッペルゲンガー』だったからとりあえずそう表現しただけで、ナニカが今、思い浮かべている――モドキに思い浮かべてほしい存在が、正しくは何という名前の存在なのかは、ナニカも分からないんだよう」
モドキ「ふふふ、なるほどね。ごめんごめん、大丈夫よ、理解しているわ。比喩ではない『同じ個体』の定義を探したいのよね。それは私としても、質問をたくさんしてしまいそうだわ。だから議長なんて言ったのねー。茶目っ気があるだなんて、人間らしいじゃないの」
ナニカ「いや、それは気分!」
モドキ「返せ私の納得。――·····こほん、嫌だわ、なんで私がハグレみたいなツッコミをしなきゃならないのよ·····。こういうのはキャラじゃないのに」
ナニカ「それで、モドキならどう考える?」
モドキ「今日のナニカったら、全然話を聞いてくれないわ·····。ハグレ助けて·····」
ナニカ「惜しむらくもハグレは今日、隣町の何とかって人間達と喧嘩中だよ。さあ、続きをしよう」
モドキ「喧嘩してくるって予定を伝えてから向かうあたり、あの人も律儀よねえ。
――いいわ、改めて真面目に考えましょ」
ナニカ「わくわく」
モドキ「そうね、私は、同じ顔だろうが同じ〝思考回路〟だろうが、人間は住んでる地域一つ、見えてるもの一つ違うだけで大きく違った成長を遂げるはずよ。どれだけ似通っていたとしても、それは避けられないと思う。例えば私とよく似た境遇でも、友達を信用しているかどうか、心の拠り所があるかどうかで生き方が随分と楽になるように、何かが一つ違うだけで、限りなく似ていてもそれは『同じ』ではないわ。つまるところ、それは同じ個体ではない――『同一人物』ではないってことになるんじゃないかしら」
ナニカ「なるほど、確かにそれは一理あるね。たしかバタフライエフェクトってやつだろう? それじゃあ、その僅かな環境一つとっても同じであれば、それは自分と同個体と言える?」
モドキ「そもそも環境が全く同じ、というのは有り得ないわ。気温一つ、建物一つ、風向き一つとってもそれは環境と一絡げよ? 双子ですらそうはいかないわ。それに、その人の思考回路が自分と同じでも、表情一つ、さらには周りの人の感覚や言動一つ違うだけで、人は違う方向に育つはずよ。バタフライエフェクトっていうのはそういうことよ。ほんの些細なことでも、後の人間にとっては大きなものになるわ。それなら、たとえ限りなく同じであっても、一つ、ほんの少し――そうね、接続詞ひとつ違うだけで、もうそれは別個体になると思うわ」
ナニカ「なるほど。じゃあそれすら同じならどうだろう?」
モドキ「それすらって·····。うーん、というかね、脳細胞一つでも違えば別の個体であると私は思っているから、クローンでもない他人はどうしたって同個体にはなり得ないと思う」
ナニカ「たしかに別のところで何の関係もなく産まれたならば〝別の個体〟と言えるかもしれないね。では、今モドキが例えとして挙げたそのクローンなら、同じ個体と言えるのではないか? 自分の複製だ、科学的にも見た目は同じで、脳だって複製なのだから、同じ個体だろう?」
モドキ「うーん、そもそもクローンとして自分と〝分けた〟時点で別の個体じゃないの? クローンだって、細胞が同じなだけで、まったく同じものを見て育つわけじゃないわ。それは別の個体よ」
ナニカ「分けたら別の個体――なるほど。確かにそうだね。それなら、そうだなあ、少しファンタジーな内容になるけど、並行世界の自分ならどうだろう? 並行世界なら『同じ環境』『同じ思考回路』がなんのしがらみも無く成立するから、モドキのいう同じ個体の定義に当てはまるんじゃないか?」
モドキ「あー、並行世界かあ。でも、並行世界の自分が自分を認識したら、その時点で『自分ではない自分』を認識してしまっているわけだから、そこで思考回路が変わると思う。だって、どちらかがどちらかを認識した時点で『認識した自分』と『認識された自分』が出てくるでしょ、〝お互いが認識し合った〟としても、自分ではない自分を認識をするわけだから、その時点で明確に自分とは違う存在として扱われるはずだわ。それは『同じ』ではないわ」
ナニカ「ふむ、たしかに自分では無いものと認識したらいくら背格好や思考が似ていようとも別の個体と言えるのかな」
モドキ「ええ。それに相手というのは切り離した時点で何を考えているのか読み取ることはほぼ不可能だから、その探り合い――この人は何を考えているのだろう? と思って向き合った時点で、それは別の存在、別の個体と考えても私の理論的には相違ないわ」
ナニカ「では、〝認識し合っていない〟ところで存在していたらどうだろう? 〝お互いがお互いを知らない〟、環境も周りの言葉も、人の顔も何一つ変わらない、自分が発する言葉一つとっても違わない存在は、今度こそ『同じ個体』なのかな?」
モドキ「根本的に」
ナニカ「うん」
モドキ「根本的に――自分だろうが他人だろうが、誰かが認識した時点でそこには『二人存在する』ことになるから、認識として、それは『別の個体』として扱われるべきで、逆に誰も何も――自分すらも便宜上のドッペルゲンガーを認識していないならば、それは別の個体同じ個体云々の前に〝存在していない〟ことになると思う。存在の有無とは他者からの認識であると私は考えているからね。認識をした時点で、それぞれは別の個体よ」
ナニカ「なるほどなあ。道理だとは思うよ、理解もできる。けれどナニカとしては、お互いを認識したからと言って、〝 『同じもの』を『同じように認識した』ことになる〟のだから、それはまだ同じ個体として扱われるのではないか?」
モドキ「自分と対峙した時点で自分では無いって言ったじゃん。対峙ということは、よ? 自分の背後は誰にも見えないように、景色が違ってしまうじゃない。もうそうしたら記憶が一つ違うことになるわよね? つまるところそれは、私の考える『別の個体』の概念に区分されるはずよ」
ナニカ「うーん、そうかあ。そうだよなあ」
モドキ「そもそも〝自分と同じ思考回路をしている〟のよね?」
ナニカ「ああ。全く同じだ」
モドキ「今まで生きてきた環境、話した内容、語りかけられた内容、境遇全てが同一なのよね?」
ナニカ「そうだよ。一言一句、一時たりとも変わらない」
モドキ「だとするなら、対象物――ここでいう自分を見て思うことも全て一緒なのよね?」
ナニカ「モドキが潰してきた選択肢を加味するなら、定義としてはそうだね」
モドキ「そう。それなら、そもそも〝会話にならない〟んじゃないかしら。『自分』を見て思うこも、言葉にすることも、何もかもが同じなら、相手に話しかけるという行動も、相手が何をしてくるだろう?と考える内容も、それを受け取る心理や口から出す言葉も全部が全部、一緒でなくっちゃ、私の考える『同じ個体』とは言えないわ」
ナニカ「ほう·····」
モドキ「だから私は思うのだけれど。ここから導き出せる〝私の概念の定義に当て嵌めた答え〟は――たとえ過去や環境、言動の一挙手一投足、さらにはドッペルゲンガーと邂逅した先に見える景色や世界すら同じだったとしても、目の前の『それ』と〝会話になった時点で〟『別の個体』になる。だと思うのだけれど、どうしかしら?」
ナニカ「うーんと、つまり、「あなたは誰?」に対して「〇〇だ」と名乗った時点で『問いかけた自分』と『答えた自分』に分かれる、分かれたのなら、別の個体である、ということか?」
モドキ「そうよ。本当に全てが同じなら、同じタイミング、同じ抑揚、全て同じ行動をして、同じ未来が待ってるはずだもの。そうなると会話にならないでしょ? どちらも凸なら噛み合わないわ。そうよね?」
ナニカ「ふんふん、なるほど。とっても興味深い意見じゃないか! ねえねえ、もしそうだと仮定するならば『会話になる前までは同じ個体』とも言えるのかい?」
モドキ「うーん、邂逅した時点で別の個体だと思ってるけど、極論、見えてる世界も全部一緒だとするならば、そうね、そうとも言えるかも。細胞一つ挙げても、何もかも全く同じなら『同一人物』と言える存在って事になるんじゃないかしら。えーっと、まとめると『会話になった時点で別の個体、それまでは同じ個体』これでファイナルアンサー、でどう?」
ナニカ「ふむ! たしかにその通りかもしれない、納得できたよ。正解ではないかもしれないし、色んな人間の色んな意見があるだろうけれど、ナニカはその意見がしっくりきたー!」
モドキ「うふふ、納得できたなら良かったわ。議長さん」
ナニカ「うん、面白い話だった」
モドキ「そうね、いい議題だったわね。私もとても楽しかったわ」
後書きと補足と言い訳とかうんぬん。
これは弟と晩ご飯を食べている時に話した内容を要約したものになります。
今回、前置きがとても長かったのは、それが原因です。晩ご飯をさて食べようか――という時に弟が「さっきちょっと考えてたんだけどさ」と口火を切ったのが始まりだったので、そのノリを冒頭で表現させていただきました。
(「え、今? 今晩ご飯食べるところなのに?」「うん、でね」「いや聞けよ、ご飯食べようや」みたいな感じでした。)
さて、今回の題材『どこまで一緒なら同一人物と言えるか』ですが、モドキが最後に言った『会話になった時点で別の存在』が私達の結論になります。
この結論に至った経緯のところどころに、説明のない私の持論が含まれていて、そこを理解出来ないと、この結論に対しての理解も共感もできないかもしれないな、とはこれを書いている時に弟と懸念していましたが、空気感をありのまま伝えたくて、あえてそのままぶっ込んでみました。
存在は認識である、がそれにあたりますが、それはまた別の時に掘り下げたいなと思ったり思わなかったりラジバンダリ。
最後に、本文でも申し上げた通り、この結論が全て正しいと思っているわけではございません。
あくまでも、私達姉弟が納得した終着点です。
色々な意見があると思います、むしろたくさんの意見が集まって、討論会のタネになったらいいのに、色んな話が聞けたなら楽しそうだなと心から思っています。
皆さんはどうお考えでしょうか?
ありがとうございました。
モドキ「え、ええお邪魔します······。·········元気でよろしいことこの上ないのだけれど、ねえナニカさん。私まだ玄関すら跨いでないのよ。というか、そもそも私達って、普段から議長を立てるような仰々しい会議なんてしていなかったはずよね? 学級会じゃあるまいし、規律正しく取り決めるものもないでしょうが。それに一体一の議長と議員って何よ、ただの対談じゃん」
ナニカ「えっへん、本日の議題ですがー」
モドキ「聞けや、無視か。よくそれで議長とか言えたな。·····ごほっごほっ、あらやだ。らしくなさすぎて口が悪くなっちゃったじゃないの。私もらしくないったらないわ。どうしたの? 玄関先で話し始めるぐらい気になることがあるの?」
ナニカ「この間ね、本を読んでたんだけど――」
モドキ「ちょっと、ねえ、聞いて? 人の話を聞けないぐらい気になることなの? それにしたって、人間社会において、人の話は聞くものだし、話すタイミングはしっかり見極めるべきよ、ナニカ」
ナニカ「ごめん·····。そうだよね、いつもお茶とか用意してからだもんね·····。モドキと話したら楽しそうだなって思ったらいても立ってもいられなくなっちゃって、先走ってしまった·····。えっとね、内容としては、どちらかと言えばこう、色んな意見をたてて話をじっくりことこと煮詰めて楽しむ感じのやつなんだ」
モドキ「あら、そうなの? もう、それならそんな風に息巻く必要もないでしょうに。まあいいわ。どうせ話題が何であれ、あなたと話をしに、私はここに来ているんだもの。いつも私の話に付き合ってくれているんだし、是非とも付き合うわ」
ナニカ「わーい! まずはお茶の準備だね!」
モドキ「ええ、そうしましょう」
モドキ「――さて。続けましょうか。よろしくね、議長さん?」
ナニカ「ありがとうモドキ! じゃあ改めて――えっへん、では、始めよう」
モドキ「はいはい、何かしらー?」
ナニカ「モドキは、ドッペルゲンガーって分かるかい?」
モドキ「ドッペルゲンガー? あの世界に三人いるかもっていう?」
ナニカ「うん、諸説あるけど、そういう類のやつ。ナニカもこの間、本を読んで知ったばかりだからとっても詳しいわけじゃないのだけれどね。自分と同じ顔に会ったら死ぬ――三回会ったら死ぬ、だっけ? まあ、総じてそれらの存在は『自分』として扱われるだろう? 自分というか『もう一人の自分』というか·····。そういったキャラクターや表現を色々な物語で見かけるけれど――さて、それらは本当に『自分』と同義だと言えるのだろうか?
ドッペルゲンガーとは言ったけども、正しくはもっとこう、コピーに近い存在を思い浮かべてほしい。『自分と同じ顔をした別人』ではなく、同じ顔、同じ性格、同じ思考回路の、まさに表現するなら『もう一人の自分』は、便宜上ではなく事実としての同じ個体――〝自分自身〟と言えるのだろうか。どこまで同じであれば『同じ個体』、つまるところ同一人物であると言えるのだろう?」
モドキ「物語に出てくる『もう一人の自分』って言葉に関しては、描写としての比喩であることも多いから、なんら疑問ではないけれど·····」
ナニカ「うーん、そうじゃなくってね。疑問に思ったきっかけが『ドッペルゲンガー』だったからとりあえずそう表現しただけで、ナニカが今、思い浮かべている――モドキに思い浮かべてほしい存在が、正しくは何という名前の存在なのかは、ナニカも分からないんだよう」
モドキ「ふふふ、なるほどね。ごめんごめん、大丈夫よ、理解しているわ。比喩ではない『同じ個体』の定義を探したいのよね。それは私としても、質問をたくさんしてしまいそうだわ。だから議長なんて言ったのねー。茶目っ気があるだなんて、人間らしいじゃないの」
ナニカ「いや、それは気分!」
モドキ「返せ私の納得。――·····こほん、嫌だわ、なんで私がハグレみたいなツッコミをしなきゃならないのよ·····。こういうのはキャラじゃないのに」
ナニカ「それで、モドキならどう考える?」
モドキ「今日のナニカったら、全然話を聞いてくれないわ·····。ハグレ助けて·····」
ナニカ「惜しむらくもハグレは今日、隣町の何とかって人間達と喧嘩中だよ。さあ、続きをしよう」
モドキ「喧嘩してくるって予定を伝えてから向かうあたり、あの人も律儀よねえ。
――いいわ、改めて真面目に考えましょ」
ナニカ「わくわく」
モドキ「そうね、私は、同じ顔だろうが同じ〝思考回路〟だろうが、人間は住んでる地域一つ、見えてるもの一つ違うだけで大きく違った成長を遂げるはずよ。どれだけ似通っていたとしても、それは避けられないと思う。例えば私とよく似た境遇でも、友達を信用しているかどうか、心の拠り所があるかどうかで生き方が随分と楽になるように、何かが一つ違うだけで、限りなく似ていてもそれは『同じ』ではないわ。つまるところ、それは同じ個体ではない――『同一人物』ではないってことになるんじゃないかしら」
ナニカ「なるほど、確かにそれは一理あるね。たしかバタフライエフェクトってやつだろう? それじゃあ、その僅かな環境一つとっても同じであれば、それは自分と同個体と言える?」
モドキ「そもそも環境が全く同じ、というのは有り得ないわ。気温一つ、建物一つ、風向き一つとってもそれは環境と一絡げよ? 双子ですらそうはいかないわ。それに、その人の思考回路が自分と同じでも、表情一つ、さらには周りの人の感覚や言動一つ違うだけで、人は違う方向に育つはずよ。バタフライエフェクトっていうのはそういうことよ。ほんの些細なことでも、後の人間にとっては大きなものになるわ。それなら、たとえ限りなく同じであっても、一つ、ほんの少し――そうね、接続詞ひとつ違うだけで、もうそれは別個体になると思うわ」
ナニカ「なるほど。じゃあそれすら同じならどうだろう?」
モドキ「それすらって·····。うーん、というかね、脳細胞一つでも違えば別の個体であると私は思っているから、クローンでもない他人はどうしたって同個体にはなり得ないと思う」
ナニカ「たしかに別のところで何の関係もなく産まれたならば〝別の個体〟と言えるかもしれないね。では、今モドキが例えとして挙げたそのクローンなら、同じ個体と言えるのではないか? 自分の複製だ、科学的にも見た目は同じで、脳だって複製なのだから、同じ個体だろう?」
モドキ「うーん、そもそもクローンとして自分と〝分けた〟時点で別の個体じゃないの? クローンだって、細胞が同じなだけで、まったく同じものを見て育つわけじゃないわ。それは別の個体よ」
ナニカ「分けたら別の個体――なるほど。確かにそうだね。それなら、そうだなあ、少しファンタジーな内容になるけど、並行世界の自分ならどうだろう? 並行世界なら『同じ環境』『同じ思考回路』がなんのしがらみも無く成立するから、モドキのいう同じ個体の定義に当てはまるんじゃないか?」
モドキ「あー、並行世界かあ。でも、並行世界の自分が自分を認識したら、その時点で『自分ではない自分』を認識してしまっているわけだから、そこで思考回路が変わると思う。だって、どちらかがどちらかを認識した時点で『認識した自分』と『認識された自分』が出てくるでしょ、〝お互いが認識し合った〟としても、自分ではない自分を認識をするわけだから、その時点で明確に自分とは違う存在として扱われるはずだわ。それは『同じ』ではないわ」
ナニカ「ふむ、たしかに自分では無いものと認識したらいくら背格好や思考が似ていようとも別の個体と言えるのかな」
モドキ「ええ。それに相手というのは切り離した時点で何を考えているのか読み取ることはほぼ不可能だから、その探り合い――この人は何を考えているのだろう? と思って向き合った時点で、それは別の存在、別の個体と考えても私の理論的には相違ないわ」
ナニカ「では、〝認識し合っていない〟ところで存在していたらどうだろう? 〝お互いがお互いを知らない〟、環境も周りの言葉も、人の顔も何一つ変わらない、自分が発する言葉一つとっても違わない存在は、今度こそ『同じ個体』なのかな?」
モドキ「根本的に」
ナニカ「うん」
モドキ「根本的に――自分だろうが他人だろうが、誰かが認識した時点でそこには『二人存在する』ことになるから、認識として、それは『別の個体』として扱われるべきで、逆に誰も何も――自分すらも便宜上のドッペルゲンガーを認識していないならば、それは別の個体同じ個体云々の前に〝存在していない〟ことになると思う。存在の有無とは他者からの認識であると私は考えているからね。認識をした時点で、それぞれは別の個体よ」
ナニカ「なるほどなあ。道理だとは思うよ、理解もできる。けれどナニカとしては、お互いを認識したからと言って、〝 『同じもの』を『同じように認識した』ことになる〟のだから、それはまだ同じ個体として扱われるのではないか?」
モドキ「自分と対峙した時点で自分では無いって言ったじゃん。対峙ということは、よ? 自分の背後は誰にも見えないように、景色が違ってしまうじゃない。もうそうしたら記憶が一つ違うことになるわよね? つまるところそれは、私の考える『別の個体』の概念に区分されるはずよ」
ナニカ「うーん、そうかあ。そうだよなあ」
モドキ「そもそも〝自分と同じ思考回路をしている〟のよね?」
ナニカ「ああ。全く同じだ」
モドキ「今まで生きてきた環境、話した内容、語りかけられた内容、境遇全てが同一なのよね?」
ナニカ「そうだよ。一言一句、一時たりとも変わらない」
モドキ「だとするなら、対象物――ここでいう自分を見て思うことも全て一緒なのよね?」
ナニカ「モドキが潰してきた選択肢を加味するなら、定義としてはそうだね」
モドキ「そう。それなら、そもそも〝会話にならない〟んじゃないかしら。『自分』を見て思うこも、言葉にすることも、何もかもが同じなら、相手に話しかけるという行動も、相手が何をしてくるだろう?と考える内容も、それを受け取る心理や口から出す言葉も全部が全部、一緒でなくっちゃ、私の考える『同じ個体』とは言えないわ」
ナニカ「ほう·····」
モドキ「だから私は思うのだけれど。ここから導き出せる〝私の概念の定義に当て嵌めた答え〟は――たとえ過去や環境、言動の一挙手一投足、さらにはドッペルゲンガーと邂逅した先に見える景色や世界すら同じだったとしても、目の前の『それ』と〝会話になった時点で〟『別の個体』になる。だと思うのだけれど、どうしかしら?」
ナニカ「うーんと、つまり、「あなたは誰?」に対して「〇〇だ」と名乗った時点で『問いかけた自分』と『答えた自分』に分かれる、分かれたのなら、別の個体である、ということか?」
モドキ「そうよ。本当に全てが同じなら、同じタイミング、同じ抑揚、全て同じ行動をして、同じ未来が待ってるはずだもの。そうなると会話にならないでしょ? どちらも凸なら噛み合わないわ。そうよね?」
ナニカ「ふんふん、なるほど。とっても興味深い意見じゃないか! ねえねえ、もしそうだと仮定するならば『会話になる前までは同じ個体』とも言えるのかい?」
モドキ「うーん、邂逅した時点で別の個体だと思ってるけど、極論、見えてる世界も全部一緒だとするならば、そうね、そうとも言えるかも。細胞一つ挙げても、何もかも全く同じなら『同一人物』と言える存在って事になるんじゃないかしら。えーっと、まとめると『会話になった時点で別の個体、それまでは同じ個体』これでファイナルアンサー、でどう?」
ナニカ「ふむ! たしかにその通りかもしれない、納得できたよ。正解ではないかもしれないし、色んな人間の色んな意見があるだろうけれど、ナニカはその意見がしっくりきたー!」
モドキ「うふふ、納得できたなら良かったわ。議長さん」
ナニカ「うん、面白い話だった」
モドキ「そうね、いい議題だったわね。私もとても楽しかったわ」
後書きと補足と言い訳とかうんぬん。
これは弟と晩ご飯を食べている時に話した内容を要約したものになります。
今回、前置きがとても長かったのは、それが原因です。晩ご飯をさて食べようか――という時に弟が「さっきちょっと考えてたんだけどさ」と口火を切ったのが始まりだったので、そのノリを冒頭で表現させていただきました。
(「え、今? 今晩ご飯食べるところなのに?」「うん、でね」「いや聞けよ、ご飯食べようや」みたいな感じでした。)
さて、今回の題材『どこまで一緒なら同一人物と言えるか』ですが、モドキが最後に言った『会話になった時点で別の存在』が私達の結論になります。
この結論に至った経緯のところどころに、説明のない私の持論が含まれていて、そこを理解出来ないと、この結論に対しての理解も共感もできないかもしれないな、とはこれを書いている時に弟と懸念していましたが、空気感をありのまま伝えたくて、あえてそのままぶっ込んでみました。
存在は認識である、がそれにあたりますが、それはまた別の時に掘り下げたいなと思ったり思わなかったりラジバンダリ。
最後に、本文でも申し上げた通り、この結論が全て正しいと思っているわけではございません。
あくまでも、私達姉弟が納得した終着点です。
色々な意見があると思います、むしろたくさんの意見が集まって、討論会のタネになったらいいのに、色んな話が聞けたなら楽しそうだなと心から思っています。
皆さんはどうお考えでしょうか?
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