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 舞踏会当日、朝からアリアは会場準備やら料理の手伝い等に引っ張りだこであった。
 アリアは求めるままに指示を出し、会場準備を着々と進める。
 サファイアは会場と厨房をアリアに任せ、警備体制の確認や来賓の出迎えをしていた。
 今回の舞踏会はサファイアが準備したものなので、王は口を挟まず、サファイアと一緒に来賓に挨拶をしたり、優雅に紅茶を嗜んでいる。

 アリアはただ侍女の仕事をしているつもりであろうが、会場準備に晩餐会の料理案まで出してテキパキと指示を出す辺り、もう王妃の器だと思える王だ。
 なんとしてでも二人を結ばせたい。
 家臣達や他の侍女達の意見も然りげ無く聞いて回った王は確信していた。
 アリアがサファイアの妃になる事を皆が望んでいる。
 ここで別の妃候補なんて現れてみろ、暴動が起きるかもしれない。
 それほど城の従事者達はアリアが妃に成ることを望んでいる。

 ここは皆にも手伝って貰って、場を盛り上げてプロポーズの流れに持ち込めないだろうか。
 だが下手な事をすると、前回の二の舞いなりかねない。
 慎重に行わなければ……
 しかし、慎重にやっていると、サファイアが婚期を逃してしまう。
 あーー、私は一体どうしたら……
 無理難題を抱え、王は頭を抱えつつも面には出さずに穏やかな笑顔で客人と挨拶を交わすのであった。




 日が沈み、大広間の扉が開かれる。
 舞踏会の始まりだ。
 人々は、曲に合わせてダンスを踊ったり、テーブルに並べられた食事を好き取って談笑を楽しんだりしている。

「こんばんは、サファイア王子。良いパーティーですな」

 そう、サファイアに挨拶したのは南の王子だった。
 
「先日は、誕生日をお祝いし出来ず、申し訳有りませんでした」
「いえ、土砂崩れでは仕方ありませんよ。後日頂いたお祝いの品も素晴らしく綺麗な
宝石を頂き、感謝しています」
「遅れ馳せながらお祝いを申し上げます」

 そんな会話をしていると、次々と他の要人もサファイアに挨拶をし集まってくる。

「いやぁ、素晴らしい舞踏会ですな」
「今回は国王陛下では無く、王子殿下が企画なさられたとか」
「舞踏会嫌いは治ったんですか?」

 等と次々と声をかけられ、失礼の無い様にと挨拶を返して回るサファイア。

 アリアはまだだろうか……

 ぎりぎりまで会場準備をしていて、他の人に着替える様に言われても聞かなかったらしい。 
 アリアは今、ドレスに着替えている所だろう。

「王子、是非とも私とダンスを」
「いえ、私と……」
「王子殿下、ご機嫌如何ですか?」

 要人の挨拶の次は、令嬢からのお誘いに囲まれてしまう。

「いえ、私にはもうお相手が居ますので」

 そう、断るサファイア。
 令嬢は残念そうに離れて行く。

「少しぐらいダンスをしても良いのでは無いか? 他の女性とダンスをしたぐらいで浮気にはならないよ」

 頑なに断るサファイアに、苦笑する王。
 サファイアが令嬢とダンスを断り続けるから、王は替わりにダンスを踊って回ったた。
 流石に疲れて休憩である。

「ダンスは陛下が踊って下るので」
「分担しようよ」

 一人で女性の相手をするのは大変なのだ。
 
「陛下だって、妃殿下が存命の頃は妃殿下としかダンスしなかったと聞いておりますよ」
「うーん、まぁ、そうなんだけどさ」

 私も歳なんだよ~と、苦笑する王である。
 妃も別に他の女性とダンスを踊ったぐらいで怒ったりはしないだろうし、寧ろ社交界のコミュニケーションとしてダンスぐらいは踊りなさいと言われた気がする。
 しかし、王はあの頃は妃意外に興味な無く、興味もない女性とダンスするのは苦痛でしか無かった。
 今でだって、興味は無いが、苦痛と言うほどでも無いので踊りはするが。  
 王子が全く女性と踊ってくれないし。
 でも、こうして舞踏会に顔を出して挨拶回りをしてくれるだけでも大進歩である。
 それもこれもみんなアリアのおかげだ。
 王はアリアに感謝してもしきれないと思う。


「おまたせしました……」

 客人用の正面ではなく、裏から入ってサファイアの隣に並んだのはアリアである。

「わぁ、アリア。すごい。すごい綺麗だよ。すごいね!」

 急にアリアが現れて驚くサファイア。
 アリアの為にサファイアが作らせたドレスは自分とお揃いの青い生地で作らた。
 アリアに良く似合っている。
 以前のドレス姿も綺麗だったが、自分がアリアの為にアリアに合わせて作らせたドレスだと思うと何だか興奮と感動が押し寄せ、うまく言葉が出てこないサファイアである。
 ドレスには宝石の破片等を散りばめ綺羅びやかに装飾したつもりであったが、どんな宝石より綺麗なアリアが着れば宝石など無いに等しい。
 
「サファイア王子も素敵ですよ」

 何だか照れてハニカムサファイアに、クスッとしつつ、アリアもサファイアを見つめる。
 正装したサファイアは本当に素敵だ。
 アリアは少し恥ずかしくなってしまう。
 こんな素敵な王子様の隣に居るのは場違いな気がする。
 中身はサブだと解っていても、緊張してしまう。

「ダンスに誘っても良いですか?」
「ええ、喜んで」

 元々、そのつもりで来たのだ。
 それなのにサファイアは、緊張した様子でアリアの手を取った。
 サファイアの緊張を感じて、アリアは苦笑してしまう。
 緊張しているのが自分だけでは無いと知って、少し気が楽になった。
 しかし、サファイアは何で緊張しているのだろう?
 人が沢山居て緊張しているのだろうか。
 だとしたら次期国王陛下として、心配になる。
 
「何を緊張しているの?」 

 そう、耳元で話しかけてみる。
 すると、サファイアは顔を真っ赤にして耳を押さえた。

「き、君が綺麗過ぎるから……」

 そう、消え入りそうな声で答えるサファイア。
 
「フフッ、有り難う」

 なんだか楽しくなって、アリアは笑ってしまう。
 サファイアは本当に私の事が好きなのね。
 そう、感じて少し気恥ずかしくなってしまうアリアだ。
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