上 下
62 / 79

61話

しおりを挟む
「さて、そろそろ行こうか」

 干し柿も食べ終え、景色も満喫した所で立ち上がる春岳。

「はい」

 伊吹も立ち上がる。
 ここは行き止まりだから少し戻るのだろうか。
 この景色を見せる為に寄り道をしてくれたんだと思っている伊吹だが、実は違う。
 春岳は徐に伊吹を抱きかかえた。

「え? 殿??」
「しっかり捕まっていて下さいね。怖かったら目を瞑っていなさい」

 え? 怖い??
 何をする気なんですか!?

 伊吹は疑問を口にする事は出来なかった。

「うわああぁぁ!!!」

 春岳は普通に断崖絶壁から飛び降りたのだ。
 え!? 急に心中ですか殿!?
 いや、殿と一緒にに死ねるなら本望……


「伊吹、着きましたよ」
「ふえっ?」

 頭が回らず変な声が出る伊吹。
 春岳は上手に足場や途中に生えてる木を掴んで衝撃を緩め、難なく下まで降りて来たのだ。
 だが伊吹が見上げてよく見ても、どうやって降りたのか解らない。

「ごめんなさいね。怖かった?」

 おどけて笑って見せる春岳。

「怖かったです! 何故殿はいつもそうやって唐突なんですか。私にも心の準備をさせて下さい! あと、説明もしてください!」

 本当に心臓がいくつ有っても足りない。

「まぁ、そう怒らないで下さい。温泉ですよ」
「わぁ、本当だぁ……」

 見れば川の中に石で囲った温泉が湧いている。
 手で触れてみれば丁度良い温かさだ。

「どうです。素敵でしょ?」

 フフっと、鼻高々に言う春岳。
 もしかして

「殿が整備して下さったのですか?」
「ええ、石を積んで、温度も良くなる様に川の流れを調節したりしました。どうです? 気に入った?」
「ええ、とても」

 自分を連れて来くれる為に、色々準備してくれたんだなぁと思うと、伊吹は素直に嬉しかった。
 此処には二人っきり。
 二人しか知らない場所。
 それがとても嬉しくて、伊吹はドキドキして来る。

「早速、服を脱いで入ろう。伊吹と温泉に浸かるの楽しみで頑張っちゃったですよ」

 フフっと楽しそうに笑う春岳はポイポイ服を脱ぎだす。
 伊吹も少し恥らいつつ、服を脱いだ。
 春岳の服も畳んで側に置く。

 そっと、足をつけてみる。
 本当に丁度良い温度だ。

「おいで」

 春岳が手を引いてくれて、伊吹も中に入る。
 流石に自然の温泉でそこまで床は深く無いが、寝転がれば全身浸かれた。
 春岳は腕枕の準備をして此処においでおいでしている。
 伊吹も春岳に甘え、春岳が呼ぶ腕を枕にさせて貰い体を寄せ合った。

「ああ、凄く気持ちいいです。寝てしまいそう」
「寝ても良いよ。俺が見てるから」
「いえ、寝てしまうと殿が見られなくなってしまうので寝ません」

 フフっと微笑む伊吹は、春岳を見つめた。

「何処でそんな口説き文句を覚えたんですか。全く悪い子だ」

 春岳はそう言って微笑むと、伊吹に接吻し、頬を撫でる。

「愛してるよ伊吹。ずっと私の側に居て下さいね」

 そう言って、何度も伊吹に優しい接吻をするのだ。
 伊吹は春岳の激しい接吻に何とか着い行き、必死に頷く。

 貴方が私の元を離れるまでは、ずっとお側に居ます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

美形×平凡のBLゲームに転生した平凡騎士の俺?!

元森
BL
 「嘘…俺、平凡受け…?!」 ある日、ソーシード王国の騎士であるアレク・シールド 28歳は、前世の記憶を思い出す。それはここがBLゲーム『ナイトオブナイト』で美形×平凡しか存在しない世界であること―――。そして自分は主人公の友人であるモブであるということを。そしてゲームのマスコットキャラクター:セーブたんが出てきて『キミを最強の受けにする』と言い出して―――?! 隠し攻略キャラ(俺様ヤンデレ美形攻め)×気高い平凡騎士受けのハチャメチャ転生騎士ライフ!

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

離婚ですね?はい、既に知っておりました。

杉本凪咲
恋愛
パーティー会場で、夫は離婚を叫ぶ。 どうやら私が他の男性と不倫をしているらしい。 全くの冤罪だが、私が動じることは決してない。 なぜなら、全て知っていたから。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

可愛くない私に価値はない、でしたよね。なのに今さらなんですか?

りんりん
恋愛
公爵令嬢のオリビアは婚約者の王太子ヒョイから、突然婚約破棄を告げられる。 オリビアの妹マリーが身ごもったので、婚約者をいれかえるためにだ。 前代未聞の非常識な出来事なのに妹の肩をもつ両親にあきれて、オリビアは愛犬のシロと共に邸をでてゆく。 「勝手にしろ! 可愛くないオマエにはなんの価値もないからな」 「頼まれても引きとめるもんですか!」 両親の酷い言葉を背中に浴びながら。  行くあてもなく町をさまようオリビアは異国の王子と遭遇する。  王子に誘われ邸へいくと、そこには神秘的な美少女ルネがいてオリビアを歓迎してくれた。  話を聞けばルネは学園でマリーに虐められているという。  それを知ったオリビアは「ミスキャンパスコンテスト」で優勝候補のマリーでなく、ルネを優勝さそうと 奮闘する。      

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

処理中です...