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11話
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先に山を降りた春岳は、その足で村で唯一の医者が居る家の戸を叩く叩いた。
「どうなさいましたかな?」
出て来たのは初老の男である。
「この薬草が欲しいのですが、有りますか?」
春岳は薬草をメモした紙を見せた。
「ほう、これですか…… ふむ、大半は有りますが、これとこれは高価な物で儂の何処には無いのう。町に出るしか無かろうて」
「そうですか、解りました」
ここで集まれば直ぐ調合して村人達に薬を振る舞えると思ったのだが、そう上手くは行かないか。
「お主は薬剤師なのかな?」
「その様な者です。今、流行っている病の薬を作るので、出来たらお渡しします」
「ほう、そりゃあ有り難い事ですじゃ」
「では、私はひとっ走り町まで行ってします」
春岳は初老の医者に頭を下げると、踵を返す。
「これ、馬も無しに……」
一山超えると言っても人の足では暗くなってしまうぞ、と言いかけた初老であるが、気付くと既に若い男は居ないのであった。
もしや、彼は神の使いかもしれん。などと思う初老であった。
「医者殿ーー!!」
暫くしてから、また戸口を叩かれた。
「どうなさいましたかな?」
「若い男が訪ねて来なかったか?」
「来ましたよ。今井様ではありませんか!? いかが致したのじゃ!?」
顔を変えているが、よく見れば村を納める山城のお役人様である。
お役人様と言っても良い人で、村人の話も良く聞く人気者だ。
「急いでいる、話は後だ。若い男は?」
今井様は焦っておいでである。
「薬草を集めておいでだったが、此処には無い物も有ったのでのぅ、町まで行くように勧めたのじゃが……」
もしや罪人であったか?
そんな人には見えなかったが……
それに、罪人が何故、薬草を?
「何!? 一山超えた先の町か!?」
「他に近い町は有りませぬゆえのう。ひとっ走り行ってくると言うておった」
「なんと、ひとっ走り…… 私も追わなければ! お医者殿、助かった。騒がせたな」
伊吹は医者に礼を言うと、また馬に跨がり走らせる。
本当に殿が早すぎて全く追いつけない。
伊吹は困り果てていた。
残された医者は良く解らないが、伊吹を応援しつつ、仕事に戻るのだった。
先を行く春岳は山を超えた先の町まで来ていた。
町の医者には薬草が揃っており、ついでに目星い種も買っておく事にした。
ここまで来るのは大変であるし、城主がそうそう他の土地の町まで来るのもどうかと思う。
村に薬草畑を作ろう。
そんな事を考えながら、薬と種を購入し、春岳は踵を返して足早に元来た道を戻る。
途中、馬を走らせる伊吹を見つけて声をかけた。
「薬が買えたから戻るぞ!!」
「あ、はい! あ! 殿ーーー!!」
一瞬、春岳を目視した伊吹であったが、またたく間に姿が見えなくなってしまった。
まさに風である。
本当に、全くもって自分が着いてきた意味は無かったな。
情けない。
伊吹は、ちょっと泣きそうになった。
「どうなさいましたかな?」
出て来たのは初老の男である。
「この薬草が欲しいのですが、有りますか?」
春岳は薬草をメモした紙を見せた。
「ほう、これですか…… ふむ、大半は有りますが、これとこれは高価な物で儂の何処には無いのう。町に出るしか無かろうて」
「そうですか、解りました」
ここで集まれば直ぐ調合して村人達に薬を振る舞えると思ったのだが、そう上手くは行かないか。
「お主は薬剤師なのかな?」
「その様な者です。今、流行っている病の薬を作るので、出来たらお渡しします」
「ほう、そりゃあ有り難い事ですじゃ」
「では、私はひとっ走り町まで行ってします」
春岳は初老の医者に頭を下げると、踵を返す。
「これ、馬も無しに……」
一山超えると言っても人の足では暗くなってしまうぞ、と言いかけた初老であるが、気付くと既に若い男は居ないのであった。
もしや、彼は神の使いかもしれん。などと思う初老であった。
「医者殿ーー!!」
暫くしてから、また戸口を叩かれた。
「どうなさいましたかな?」
「若い男が訪ねて来なかったか?」
「来ましたよ。今井様ではありませんか!? いかが致したのじゃ!?」
顔を変えているが、よく見れば村を納める山城のお役人様である。
お役人様と言っても良い人で、村人の話も良く聞く人気者だ。
「急いでいる、話は後だ。若い男は?」
今井様は焦っておいでである。
「薬草を集めておいでだったが、此処には無い物も有ったのでのぅ、町まで行くように勧めたのじゃが……」
もしや罪人であったか?
そんな人には見えなかったが……
それに、罪人が何故、薬草を?
「何!? 一山超えた先の町か!?」
「他に近い町は有りませぬゆえのう。ひとっ走り行ってくると言うておった」
「なんと、ひとっ走り…… 私も追わなければ! お医者殿、助かった。騒がせたな」
伊吹は医者に礼を言うと、また馬に跨がり走らせる。
本当に殿が早すぎて全く追いつけない。
伊吹は困り果てていた。
残された医者は良く解らないが、伊吹を応援しつつ、仕事に戻るのだった。
先を行く春岳は山を超えた先の町まで来ていた。
町の医者には薬草が揃っており、ついでに目星い種も買っておく事にした。
ここまで来るのは大変であるし、城主がそうそう他の土地の町まで来るのもどうかと思う。
村に薬草畑を作ろう。
そんな事を考えながら、薬と種を購入し、春岳は踵を返して足早に元来た道を戻る。
途中、馬を走らせる伊吹を見つけて声をかけた。
「薬が買えたから戻るぞ!!」
「あ、はい! あ! 殿ーーー!!」
一瞬、春岳を目視した伊吹であったが、またたく間に姿が見えなくなってしまった。
まさに風である。
本当に、全くもって自分が着いてきた意味は無かったな。
情けない。
伊吹は、ちょっと泣きそうになった。
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