上 下
19 / 31

17

しおりを挟む
 夏樹と思いがけず付き合い始めた未智だが、恋愛なんて生まれてこの方してこなかった。
 恋バナを聞く様な事もなく、雑誌なんかで研究したり、漫画を読んで胸をときめかせたりなんかもして来なかった為、何をして良いやら解らない。
 夏樹も初心な未智に合わせてゆっくりと身体を寄せたり、軽くキスをする程度に留めている。
 下手したら小学生レベルの恋人関係である。
 未智もこのままでは良くないとは思うが、相談出来る相手も居ない為、どうする事も出来ないでいるのだ。
 そんなこんなしている内に例のパーティも近づいて来た。
 ドレスが出来たと言うので夏樹と一緒に取りに行く。
 試着をしてみると丁度いい。
 深緑色のドレスは綺麗だが、膝丈なのと胸元か空きすぎな気がして恥ずかしい。
 こんな大胆な服は、着たことがない。

「すごく似合ってる」

 そう、夏樹が褒めてくれる。
 それは嬉しいが、夏樹も自分のタキシードを用意させていたらしく試着していた。
 それがあまりにカッコよくて気が引ける。
 安易に付き合い始めてしまったが、やっぱり私と夏樹では釣り合いが取れていない。
 恥ずかしい。

「俺には何も言ってくれないのか?」

 ちよっと拗ねた様に言う夏樹。

「すごくカッコいいですよ」

 そう思ったまま伝えると、夏樹は素直に喜んでいた。

「夏樹は良いとして、問題は未智ね」

 ヒョイッと突然姿を見せたのは美穂だ。
 
「美穂さん!」

 驚く未智。

「教えた化粧、ちゃんと出来てて偉いわね。でもパーティのメイクはそれじゃ駄目なのよ」
「そうなんですか!?」
「当日は私が色々とセットしてあげるから。特別よ?」

 パチッとウィンクしてくれる美穂に照れる未智だ。

「いや、美穂以外の女性従業員で頼む」
「はぁ? 何でよ」
「普通に恋人を異性に触らせたくないだろ」
「付き合う事になったの? 教えてよね。夏樹の痛い片思いだと思っちゃった」

 未智を引き寄せる夏樹に笑う美穂。

 異性?

「美穂さんて女性では?」
「コイツは女装好きの男」
「心が女性という?」
「心も男の女装好きの男」
「男性の方だったんですね。夏樹の恋人かと思ってました」
「「は?」」

 未智と言葉に夏樹と美穂が声を揃える。


「いや、俺は未智一筋だよ!」
「好みで言えば私も未智が好きね」
「おいこら!」
「脈なしなら狙おうかと思っちゃった」
「ぶん殴るぞ?」

 残念、という表情の美穂に、拳を握る夏樹だ。

「美穂と俺が恋人だと思ったなら、なんで何も言わずに俺の恋人になったんだ?」

 夏樹は疑問を未智にぶつける。

「一番、二番とか? よく解らないけど、正妻と妾の様なものなのかなって」
「そんな訳あるか」

 天然にも程が有ると呆れる夏樹と、笑いが止まらない様子の美穂。
 未智は自分は二番とか、沢山の恋人の一人にしてもらえたと思っていたので、ビックリして顔を赤くしてしまう。
 夏樹は私だけの恋人だったんだと、今更実感して緊張なのか何のか、急に気分が悪くなってきた。

「なんか、吐きそう」
「なんでだよ!! えっ、大丈夫か!?」
「なに、もうそういう感じなわけ? 出来ちゃた的な?」
「まだキス止まりだよ!」
「もう駄目、出る」
「袋、袋!」

 慌てる夏樹に、未智は自分の鞄からビニール袋を出す。
 結果的には気持ち悪くなっただけで、吐く事は無く、事なきを得た。
 夏樹はしばらく心配して未智の背中を撫でていた。
 未智は夏樹のお陰で落ち着きを取り戻し、やっぱり好きだなと実感するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

ネトゲ女子は社長の求愛を拒む

椿蛍
恋愛
大企業宮ノ入グループで働く木村有里26歳。 ネトゲが趣味(仕事)の平凡な女子社員だったのだが、沖重グループ社長の社長秘書に抜擢され、沖重グループに出向になってしまう。 女子社員憧れの八木沢社長と一緒に働くことになった。 だが、社長を狙っていた女子社員達から嫌がらせを受けることになる。 社長は有里をネトゲから引き離すことができるのか―――? ※途中で社長視点に切り替わりあります。 ※キャラ、ネトゲやゲームネタが微妙な方はスルーしてください。 ★宮ノ入シリーズ第2弾 ★2021.2.25 本編、番外編を改稿しました。

恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~

泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の 元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳  ×  敏腕だけど冷徹と噂されている 俺様部長 木沢彰吾34歳  ある朝、花梨が出社すると  異動の辞令が張り出されていた。  異動先は木沢部長率いる 〝ブランディング戦略部〟    なんでこんな時期に……  あまりの〝異例〟の辞令に  戸惑いを隠せない花梨。  しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!  花梨の前途多難な日々が、今始まる…… *** 元気いっぱい、はりきりガール花梨と ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

雨音。―私を避けていた義弟が突然、部屋にやってきました―

入海月子
恋愛
雨で引きこもっていた瑞希の部屋に、突然、義弟の伶がやってきた。 伶のことが好きだった瑞希だが、高校のときから彼に避けられるようになって、それがつらくて家を出たのに、今になって、なぜ?

社長はお隣の幼馴染を溺愛している

椿蛍
恋愛
【改稿】2023.5.13 【初出】2020.9.17 倉地志茉(くらちしま)は両親を交通事故で亡くし、天涯孤独の身の上だった。 そのせいか、厭世的で静かな田舎暮らしに憧れている。 大企業沖重グループの経理課に務め、平和な日々を送っていたのだが、4月から新しい社長が来ると言う。 その社長というのはお隣のお屋敷に住む仁礼木要人(にれきかなめ)だった。 要人の家は大病院を経営しており、要人の両親は貧乏で身寄りのない志茉のことをよく思っていない。 志茉も気づいており、距離を置かなくてはならないと考え、何度か要人の申し出を断っている。 けれど、要人はそう思っておらず、志茉に冷たくされても離れる気はない。 社長となった要人は親会社の宮ノ入グループ会長から、婚約者の女性、扇田愛弓(おおぎだあゆみ)を紹介され――― ★宮ノ入シリーズ第4弾

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

タイプではありませんが

雪本 風香
恋愛
彼氏に振られたばかりの山下楓に告白してきた男性は同期の星野だった。 顔もいい、性格もいい星野。 だけど楓は断る。 「タイプじゃない」と。 「タイプじゃないかもしれんけどさ。少しだけ俺のことをみてよ。……な、頼むよ」 懇願する星野に、楓はしぶしぶ付き合うことにしたのだ。 星野の3カ月間の恋愛アピールに。 好きよ、好きよと言われる男性に少しずつ心を動かされる女の子の焦れったい恋愛の話です。 ※体の関係は10章以降になります。 ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも投稿しています。

処理中です...