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「着替えてくる」
しばらく夏樹の胸で泣かせてもらい、落ち着きを取り戻した未智は取り合えず着替える事にする。
「ちょっと向こうに行ってて下さい」
未智の部屋は座布団を置いた畳の部屋とこっちの台所や風呂やトイレの有る部屋だけである。
夏樹は未智を離すと向こうに行って、襖を閉めた。
未智も落ち着いて着替えると、深呼吸をし、顔を洗う。
テーブルに置かれた朝食とお弁当。
夏樹と朝食を食べるのも、お弁当を食べるのも未智は楽しみにしていた。
浮かれてお気に入りのワンピースなんて着て、我ながら珍しくルンルン気分だったのだ。
一気に天国から地獄に突き落とされた。
夏樹の言う事はいつも正しい。
島くんに『鬱陶しいし、嫌いだ。付き纏うのはやめてくれ』そう早く伝えれば良かった。
今更後悔しても遅い。
いつも夏樹は言ってくれていたのに。
『嫌な事は嫌だと言うべきだし、好きな事は好きだと言えば良い』
夏樹の言う通りだった。
でも、未智は自分の気持を素直に言うのは苦手である。
何か相手にも理由が有るはずだと、私はまだ我慢出来るからと思ってしまう。
寧ろ相手は私より辛い思いを持っているのかもしれない。
私より頑張ってるのかもしれない。
そう思うと、我慢してしまう。
夏樹はそんな未智に気づいて、いつも寄り添っていた。
でも、島とは違うと未智も解っているのだ。
夏樹は誰にで優しく寄り添う。
自分が特別とかでは無いのだ。
夏樹は私だけの王子様ではなく、困ってる人を見捨てられない、みんなの王子様なのだ。
あぁ、せっかく顔を洗ったのに。
また涙が溢れてきた。
コンコン。
「未智、着替え終わったか?」
ドアを軽くノックして、声をかけてくれる夏樹。
私が遅いから気にかけててくれているのだろう。
「うん。有難う」
私はよく着るYシャツとズボンに着替えた。
髪も縛って。
「朝ごはんとお弁当、作ってくれたんだな。食べても良い?」
「え…冷えて美味しくないよ。温め直そうか。と、いうか、作り直す」
「いい、俺はこれが食べたいから。すごく美味しそうだ」
「そんな事無いのに……」
「箸はこれ? 使ってもいい?」
「うん」
箸立ての箸を取る夏樹。
「うん、美味しい」
「有難う」
冷えた食事も美味しいと食べてくれる。
私も箸を取って食べる事にした。
やっぱり冷めて美味しくない筈なのに、不思議と美味しく感じる。
夏樹が美味しいって言ってくれたからかな。
何故がまた涙が溢れてしまう。
「未智……」
「ごめん、なんか涙腺がぶっ壊れて」
「怖かったよな」
「うん。でも夏樹が助けてくれたから。有難う」
「泣きたいだけ泣け」
「もう泣きたいだけ泣いた」
「まだ涙が出るって事は足りないんだ」
「解った。泣いとく」
フフっと笑ってみたけど、涙は止まらないし、夏樹はカッコいし、朝ごはんな美味しかった。
「ご馳走さま」
「本当にお粗末様でした」
「本当にご馳走だったよ」
「冷え切った飯が?」
「未智の愛情を感じられた」
「嘘くさい」
「お弁当持って出かけようぜ!」
「部屋を片付けたり色々やらないと……」
やっぱり警察に行ったほうが良いと思うし……
「この部屋は引き払って」
「急にそんな事を言われても無理だよ」
未智だってこんな事が有った部屋に居たくない。
警察だって来たし、近所にあれやこれや噂されてしまうだろう。
奇異の目で見られる事には慣れているけど……
「俺のとこ、来ない?」
「そんな悪いです。そもそも夏樹って今、何処で何してるんですか?」
夏樹は捨て猫とか犬とか拾っちゃうタイプだ。
そんな事より今更だが、夏樹は今、何しているのか気になる未智。
地元の地主である大富豪の家を継いだのだろうか。
でも、夏樹は次男だったはず。
今どき、長男とか次男とか関係ないかも知れないが。
「東京で会社を立ち上げたんだ」
「えっ!? すごいですね」
都会で会社を立ち上げていたなんて。
なんで今まで教えてくれなかったのだろう。
素直に成功をお祝いしたい気持ちと、教えてくれなかった寂しさで、ちょっと複雑な気持ちになる未智だ。
私は夏樹を姉弟程の距離感だと思っているが、夏樹からしたら本当にただの幼馴染なのだろう。
「ちゃんと未智の部屋は社員寮に用意するし、未智には俺の秘書をして欲しいと思って、今日はその話をしたかったんだ」
「広い意味での来いでした」
思わずフフっと笑ってしまう未智だ。
夏樹は地元でも有名な地主の家のボンボンだ。
幼稚園の時なんてもう、王様気取りでやりたい放題だったのだ。
俺様は偉いんだ! 言うこと聞けーー!
みたいな感じだった。
そんな薫が会社を立ち上げて社長になったんだ。
素直に尊敬する。
直ぐに教えてくれなかったのは寂しいけど……
「取り合えず、俺の会社がどんな所か見てもらおうと思って」
「今から東京に? だから朝早かったんですね」
「未智の気持ちを最大限に譲歩しいと思ったんだが、こんな事になってしまって、未智だってこの部屋には居づらいだろ? 社員寮なら安心出来るし、俺の会社が嫌でも社員寮には居て良いからさ」
「じゃあ、着いてく」
「着いてきてくれるのか!」
「はい」
せっかく誘ってくれてるし、正直この部屋には居づらいし、お弁当と財布や携帯だけ持って着いていく事にした。
東京なんて修学旅行以来だななんて、呑気に考えられる程には、未智は元気を取り戻していた。
しばらく夏樹の胸で泣かせてもらい、落ち着きを取り戻した未智は取り合えず着替える事にする。
「ちょっと向こうに行ってて下さい」
未智の部屋は座布団を置いた畳の部屋とこっちの台所や風呂やトイレの有る部屋だけである。
夏樹は未智を離すと向こうに行って、襖を閉めた。
未智も落ち着いて着替えると、深呼吸をし、顔を洗う。
テーブルに置かれた朝食とお弁当。
夏樹と朝食を食べるのも、お弁当を食べるのも未智は楽しみにしていた。
浮かれてお気に入りのワンピースなんて着て、我ながら珍しくルンルン気分だったのだ。
一気に天国から地獄に突き落とされた。
夏樹の言う事はいつも正しい。
島くんに『鬱陶しいし、嫌いだ。付き纏うのはやめてくれ』そう早く伝えれば良かった。
今更後悔しても遅い。
いつも夏樹は言ってくれていたのに。
『嫌な事は嫌だと言うべきだし、好きな事は好きだと言えば良い』
夏樹の言う通りだった。
でも、未智は自分の気持を素直に言うのは苦手である。
何か相手にも理由が有るはずだと、私はまだ我慢出来るからと思ってしまう。
寧ろ相手は私より辛い思いを持っているのかもしれない。
私より頑張ってるのかもしれない。
そう思うと、我慢してしまう。
夏樹はそんな未智に気づいて、いつも寄り添っていた。
でも、島とは違うと未智も解っているのだ。
夏樹は誰にで優しく寄り添う。
自分が特別とかでは無いのだ。
夏樹は私だけの王子様ではなく、困ってる人を見捨てられない、みんなの王子様なのだ。
あぁ、せっかく顔を洗ったのに。
また涙が溢れてきた。
コンコン。
「未智、着替え終わったか?」
ドアを軽くノックして、声をかけてくれる夏樹。
私が遅いから気にかけててくれているのだろう。
「うん。有難う」
私はよく着るYシャツとズボンに着替えた。
髪も縛って。
「朝ごはんとお弁当、作ってくれたんだな。食べても良い?」
「え…冷えて美味しくないよ。温め直そうか。と、いうか、作り直す」
「いい、俺はこれが食べたいから。すごく美味しそうだ」
「そんな事無いのに……」
「箸はこれ? 使ってもいい?」
「うん」
箸立ての箸を取る夏樹。
「うん、美味しい」
「有難う」
冷えた食事も美味しいと食べてくれる。
私も箸を取って食べる事にした。
やっぱり冷めて美味しくない筈なのに、不思議と美味しく感じる。
夏樹が美味しいって言ってくれたからかな。
何故がまた涙が溢れてしまう。
「未智……」
「ごめん、なんか涙腺がぶっ壊れて」
「怖かったよな」
「うん。でも夏樹が助けてくれたから。有難う」
「泣きたいだけ泣け」
「もう泣きたいだけ泣いた」
「まだ涙が出るって事は足りないんだ」
「解った。泣いとく」
フフっと笑ってみたけど、涙は止まらないし、夏樹はカッコいし、朝ごはんな美味しかった。
「ご馳走さま」
「本当にお粗末様でした」
「本当にご馳走だったよ」
「冷え切った飯が?」
「未智の愛情を感じられた」
「嘘くさい」
「お弁当持って出かけようぜ!」
「部屋を片付けたり色々やらないと……」
やっぱり警察に行ったほうが良いと思うし……
「この部屋は引き払って」
「急にそんな事を言われても無理だよ」
未智だってこんな事が有った部屋に居たくない。
警察だって来たし、近所にあれやこれや噂されてしまうだろう。
奇異の目で見られる事には慣れているけど……
「俺のとこ、来ない?」
「そんな悪いです。そもそも夏樹って今、何処で何してるんですか?」
夏樹は捨て猫とか犬とか拾っちゃうタイプだ。
そんな事より今更だが、夏樹は今、何しているのか気になる未智。
地元の地主である大富豪の家を継いだのだろうか。
でも、夏樹は次男だったはず。
今どき、長男とか次男とか関係ないかも知れないが。
「東京で会社を立ち上げたんだ」
「えっ!? すごいですね」
都会で会社を立ち上げていたなんて。
なんで今まで教えてくれなかったのだろう。
素直に成功をお祝いしたい気持ちと、教えてくれなかった寂しさで、ちょっと複雑な気持ちになる未智だ。
私は夏樹を姉弟程の距離感だと思っているが、夏樹からしたら本当にただの幼馴染なのだろう。
「ちゃんと未智の部屋は社員寮に用意するし、未智には俺の秘書をして欲しいと思って、今日はその話をしたかったんだ」
「広い意味での来いでした」
思わずフフっと笑ってしまう未智だ。
夏樹は地元でも有名な地主の家のボンボンだ。
幼稚園の時なんてもう、王様気取りでやりたい放題だったのだ。
俺様は偉いんだ! 言うこと聞けーー!
みたいな感じだった。
そんな薫が会社を立ち上げて社長になったんだ。
素直に尊敬する。
直ぐに教えてくれなかったのは寂しいけど……
「取り合えず、俺の会社がどんな所か見てもらおうと思って」
「今から東京に? だから朝早かったんですね」
「未智の気持ちを最大限に譲歩しいと思ったんだが、こんな事になってしまって、未智だってこの部屋には居づらいだろ? 社員寮なら安心出来るし、俺の会社が嫌でも社員寮には居て良いからさ」
「じゃあ、着いてく」
「着いてきてくれるのか!」
「はい」
せっかく誘ってくれてるし、正直この部屋には居づらいし、お弁当と財布や携帯だけ持って着いていく事にした。
東京なんて修学旅行以来だななんて、呑気に考えられる程には、未智は元気を取り戻していた。
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