(完結)魔王と従者

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12話

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 朝陽に目を覚まして裏柳は、起き上がってあたりを見渡した。
 既に漆黒の姿は無い。

 行ってらっしゃいも言えなかった。

 そもそも漆黒とセックスするんだと意気込んで酒を勧めたと言うのに、自分が先に酔って寝てしまうなんて。最低である。
 やらかしたなぁ。
 それにしても不思議な事がある。
 なぜ尿意を催さないのだろう。
 漆黒も朝の小水は毎日飲みたいと言っていた気がしたが。
 まさか勝手に直接飲んで行ったのだろうか。
 そう言えば、あまりに切羽詰まって漆黒の口の中に直接出すなんて言うとんでもない悪夢を見たが、まさか……
 俺、もしかして、すごいやらかしたんじゃないか?
 夢だよね? 
 もし、本当にやらかしてしまっていたら……

 漆黒は怒って部屋を出ていってしまったのだろうか。

 ヤバいなぁと、裏柳が頭を押さえていると、朝食をワニが持ってきた。
 テーブルに置いて早業で消えて行ったけど。
 取り敢えず、一旦落ち着いて朝食にしよう。
 裏柳はテーブルの前に腰掛ける。
 今朝はハムエッグだ。




「またセックスしなかったんですか!」
「いい加減セックスしてください」

 今日も今日とて家臣にわーわー言われる漆黒。

「煩いなセックスセックスと、そんな事より昨日の続きだ」

 漆黒は話を聞くために足早に部屋を出る。

「そんな事ではありません。裏柳様とする気が無いのなら別のΩを拐って来て下さい」
「そもそも裏柳様ですが、Ωとしての役目を果たせるのでしょうか」

 羊とワニが漆黒の後を追いつつ説教を続ける。
 虎は今日も裏柳のお守りだった。

「俺と裏柳の問題だお前らは口出しするな」

 しつこい羊とワニに漆黒はイライラしてしまう。
 セックスしたくても出来なかったのだ。
 裏柳が寝てしまったんだもの。
 俺だって出来るものならしたかった!

「いえ、王が子孫を残せないとなると世界の問題です」
「自分の立場を理解してください」

 羊とワニもイライラしている様子だ。
 世界の問題とは規模がデカ過ぎる。
 確かに、人間界は危機に陥るかも知れないが。

「解っている。兎に角、今は件の犯人探しが先だろう」
 
 確かに問題は山積している。
 それも、どれも急を要していた。
 考える事が多すぎである。
 兎に角、ひとつのひとつ片付けるべきだ。
 急がば回れと言うし、漆黒の体は一つしか無いのである。
 あまりいっぺんに急かさないで欲しい。
 先ず、優先すべきは犯人探しだ。
 漆黒はそう思う。
 
「いいえ、お子様の問題が先です。裏柳様を正妻に据えたいと言うなら解ります。ですので孕ませるΩを早急に連れて来て下さい」

 家臣の最優先事項は子供の件らしい。 

「煩いな。今から件の事情聴取をすると言っているだろう」

 あくまで今は事件の真相調査を急ぎたい漆黒と、世継を優先して欲しい家臣との間で対立が生じた。

「このままですと暴動が起きかねません。兎に角、今夜裏柳様とセックスしないのでしたら裏柳様を白の王国に返して来て下さい」

 漆黒の動きを止めてまで抗議する羊。

「何だと! 誰に物を言っている。それは俺が決める事だ。差し出がましいぞ」
「私は王の事を考えて申しております」
「煩い、下がれ!」

 漆黒は羊とワニを怒鳴り付けると、二人を振り払った。
 一人で先を急ぐ。
 あまりにもピリピリした状態で、これ以上話しても仕方ない。
 羊とワニは追いかける事はせず、漆黒の怒りが冷めるのを待つことにした。
 護衛は他の者をへ任せて虎と合流し、話し合う事にするのだった。



「漆黒様にも困ったものだ。俺も裏柳様の護衛ではなく王の護衛だと言うのに……」

 二人の話しを聞き、虎も困ってしまう。

「黒の王が一人の者に肩入れし、愛してしまうのはやはり問題ではないでしょうか」
「歴代の王とは少し毛色が違うお方です。お優しく情に厚い。そんな所を我らは気に入ってお慕いしています。ですが、こうなってしまうと困りものですね」 

 ワニと羊は腕を組んで頭が悩ませる。

 王が妃にぞっこんで肩入れしすぎである。
 漆黒は今までの王のように力づくと恐怖で捩じ伏せるだけではなく、優しさと温情で接する事も多い。
 荒くれ者のばかりの魔物達も、漆黒のそんな所に心を開いている者も居る。
 今までは奴隷の様に扱われてた者も、漆黒は平等に接していた。
 漆黒は魔物からも愛される王なのだ。
 だから心配していても、漆黒がなかなかΩを捕まえて来ず、子供を作らなくても、強く言う者は居なかった。
 王は誰か一人を愛していて、その者との子供しか欲しく無いのだと、皆が知っていた。
 愛する一人を手に入れて子宝に恵まれたとしても、直ぐ手放さなければいけない運命。
 その現実は可哀想であるが、漆黒を愛しているから応援した。
 一時であろうと、王が幸せに思える時間が得られるのならばと。それを王が望むのならと。
 だが、そろそろ限界である。
 一番限界なのは漆黒だ。
 小水だけで凌ぎ続けられる訳もなく、先が見えているのだ。
 せめてセックスして先に繋げてくれれば良いものを、裏柳が嫌がるのか、セックスしてくれない。
 まさか漆黒が不能と言う事はあるまいし。
 このまま弱って行くと解っていて家臣達は放置出来なかった。 
 王が子供も作らずに弱るとなると、この世界が崩壊してしまう。
 もはや漆黒だけの問題では無いのだ。
 ここまで悠長に様子を伺っていた家臣達も、そろそろ暴動を起こしそうだった。
 漆黒に何か有り、世継ぎも居ないとなれば、結界は壊れ、魔物や獣が赤青緑白の国を襲う事になる。
 それはもう地獄絵図だ。
 狭い国土に結界で閉じ込められているのも嫌で有るが、王の人柄は良いし、今は不満等ない。
 少なくとも家臣達や、漆黒を慕う魔物達はそうである。
 それより世界戦争にでもなった方が問題だ。
 外の世界と内の世界が交わっても、良い事などなに1つもない。
 皆が不幸せになるだけである。 
 今、漆黒が世界の均等を守っている。
 少なくとも漆黒を崇拝する家臣達はそう思っているのだ。
 それが、一人の妃にうつつをぬかし、努めも果たさないと知れ渡ったら……

 今の所は、側近中の側近にしか知られていないが、いつまでも子作りもせず、力も弱まって行けば、そのうち周知されてしまう。
 王は我々の事など、どうでも良く、妃の事しか考えていない等と思われたら暴動になりかねない。


「どうする?」

 流石に、このままにしておく訳には行かないだろう。
 虎も思案する。

「裏柳様には申し訳ないが、森に捨ててくるしかないか」

 非情であるが、もう、そうするしか手がない。
 切羽詰まった状態で、思い詰めてしまった羊。
 思考も飛躍してしまう。

「そうですね。裏柳様が居なくなれば、漆黒様も他を見てくれるでしょう」

 ワニも頷く。

 裏柳の事は三人は気に入っていた。
 良い妻で良かったと。
 だが、セックスもしなければ、子供を作れるかも怪しい。
 その上、王が他のΩを連れて来る気も無いとなると……

「そうだな。そうするしかないか」

 虎も頷いてしまう。
 三人の中で、漆黒の子作りはそれ程までに急を要する案件であったのだ。
 一人でも良い、どうしても直ぐに作って欲しかった。

 漆黒を思う家臣達は心を鬼にしてしまった。
 漆黒に気づかれ、処罰されるならば、それはそれで仕方ない。
 自分達の犠牲で世界が守れるならば。
 三人はそう思い、団結するのだった。
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