上 下
85 / 97

85話

しおりを挟む
 今日の翠さんは一段と可愛く見える。
 翠は愛用になってしまった白いネグリジェを纏いながらホットココアをゆっくり飲みつつ何故かずっと自分を見つめてくる。
 笑美も今夜はもうする事も無い為に黒いナイトガウンを纏っていた。
 笑美もホットココアを飲む翠の幸福感を味わいつつ、翠を見つめているので、直ぐに目があってフフっとお互いに笑っては、目が合うを繰り返していた。
 
「ご馳走さまでした」

 翠はホットココアを飲み終え、マグカップをテーブルに置く。
 
「お粗末様でした」

 笑美はマグカップを魔法で綺麗にし、キッチンに戻る様に言った。
 マグカップは勝手にキッチンに戻って行く。
 翠は笑美の肩に頭を寄せ、手を握った。
 こんな大胆な甘え方をされたのは初めてで、ドキッとしてしまう笑美。
 見れば翠は上目遣いで此方を見ている。
 これは……
 もしかして誘われているのだろうか?
 いや、まさか。
 そんな訳は無い。
 だって翠さんセックスとか知らないウブな子なんだから。
 よく見れば、何だか少し涙目に見える。

「……ジュノさんは大丈夫でしょうか」

 翠は笑美から視線を外すと、小さく呟く。
 心配している様子だ。
 さっきから不安気だったのは、ジュリー心配していたのか。

「ええ、ハワードが一緒ですし、元気そうにしていたので大丈夫だと思いますよ。あの子、毒には強いですし。でも念の為に後でノエルに見せようとは思いますけど……」
「そうですか…… 良かった」

 翠は複雑そうな表情である。
 
 ちゃんとジュノさんの様子も確認してたのか。
 当たり前だけど……
 自分の中に生まれた独占欲が気づけばみるみる大きくなってしまい、翠は罪悪感を感じた。
 俺はジュノさんも大好きなのに、なんでこんな酷い事を考えてしまうんだろう。
 本当に最低だ。
 
「翠さん?」

 翠の手に力が籠もっている。
 笑美はどうしたのかと、翠の表情を伺った。

「……泣いてるんですか?」

 翠は顔をそらしていて良く見えないが、肩が震えている。
 笑美は翠を抱きしめた。
 キノコの事を思い出してしまったのかも知れない。
 いや、ずっと覚えていて怖いのを我慢していたのかも。
 それでいつもより甘えてたのかも知れない。
 もしくはキノコの流した胞子の催淫効果がまだ効いているのかもしれない。
 自分やジュノ、ハワードは魔力も強く、無意識にガードする事も出来るが、翠は魔力も無く、全くの無防備だった。
 思いもよらない効果が出てしまっているのかもしれない。
 早く翠を綺麗にしてあげたくて、冷静さを欠いていた。
 ハワードの所で人間のヒーラーに見てもらうんだった。

「翠さん、何処か具合が悪いですか? 何が辛いのですか?」

 今、翠がどういう状態なのか知りたい。
 笑美は翠の肩を掴むと良く確認しようと顔を見つめる。
 やはり翠は泣いていて、顔も赤らんでいる。
 熱でも出てしまっただろうか。
 そう思って己の額をつけて確かめた。
 幸い熱は無さそうだ。

「俺、俺も笑美さんに特別な名前で呼ばれたいです」
「え?」

 泣きながら何を言うのかと思ったら、よく解らない事を言われて聞き間違いかと思う笑美。
 聞き返す。

「ジュノさんの事はジュリーって呼んでるじゃないですかぁー」

 うわぁーん、と泣きながら言う翠。
 もしかして、ジュノに嫉妬してる?
 いや、そんな事は無いか。

「えっと、ジュノはジュノも愛称ですよ? ジュリアーノって長すぎますから……」
 
 特別な呼び方と言うわけでも無い。
 ジュノの父親もジュリーと呼んでいた。
 だから自分が付けた愛称と言う訳ではないし、どちらかと言えばジュノと言う愛称を自分で付けたハワードの方が特別な呼び方をしてると言えると思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

生きることが許されますように

小池 月
BL
☆冒頭は辛いエピソードがありますが、ハピエンです。読んでいただけると嬉しいです。性描写のある話には※マークをつけます☆ 〈Ⅰ章 生きることが許されますように〉  高校生の永倉拓真(タクマ)は、父と兄から追いつめられ育っていた。兄による支配に限界を感じ夜の海に飛び込むが、目覚めると獣人の国リリアに流れ着いていた。  リリアでは神の川「天の川」から流れついた神の御使いとして扱われ、第一皇子ルーカスに庇護される。優しさに慣れていないタクマは、ここにいつまでも自分がいていいのか不安が沸き上がる。自分に罰がなくては、という思いに駆られ……。 〈Ⅱ章 王都編〉  リリア王都での生活を始めたルーカスとタクマ。城の青宮殿で一緒に暮らしている。満たされた幸せな日々の中、王都西区への視察中に資材崩壊事故に遭遇。ルーカスが救助に向かう中、タクマに助けを求める熊獣人少年。「神の子」と崇められても助ける力のない自分の無力さに絶望するタクマ。この国に必要なのは「神の子」であり、ただの人間である自分には何の価値もないと思い込み……。 <Ⅲ章 ロンと片耳の神の御使い> 獣人の国リリアに住む大型熊獣人ロンは、幼いころ母と死に別れた。ロンは、母の死に際の望みを叶えるため、「神の子」を連れ去り危険に晒すという事件を起こしていた。そのとき、神の子タクマは落ち込むロンを優しく許した。その優しさに憧れ、タクマの護衛兵士になりたいと夢を持つロン。大きくなりロンは王室護衛隊に入隊するが、希望する神の子の護衛になれず地方勤務に落ち込む日々。  そんなある日、神の子タクマ以来の「神の御使い」が出現する。新たな神の御使いは、小型リス獣人。流れ着いたリス獣人は右獣耳が切られ無残な姿だった。目を覚ましたリス獣人は、自分を「ゴミのミゴです」と名乗り……。 <Ⅳ章 リリアに幸あれ> 神の御使いになったロンは神の子ミーと王都に移り住み、ルーカス殿下、神の子タクマとともに幸せな日々を過ごしていた。そんなある日、天の川から「ルドからの書状」が流れ着いた。内容はミーをルドに返せというもので……。関係が悪化していくリリア国とルド国の運命に巻き込まれて、それぞれの幸せの終着点は?? Ⅰ章本編+Ⅱ章リリア王都編+Ⅲ章ロンと片耳の神の御使い+Ⅳ章リリアに幸あれ ☆獣人皇子×孤独な少年の異世界獣人BL☆ 完結しました。これまでに経験がないほど24hポイントを頂きました😊✨ 読んでくださり感謝です!励みになりました。 ありがとうございました! 番外Ⅱで『ミーとロンの宝箱探し』を載せていくつもりです。のんびり取り組んでいます。

隣の家

午後野つばな
BL
源が俺のこと好きになればいいのにーー。 あらすじ  宇野篤郎(うの あつろう)の隣人、日高源(ひだか はじめ)は著名な画家だ。   ひとの心をつかむような絵をまるで息をするように自然に描くことができ、そのくせ絵のこと以外は何もできない、むしろ何もする気がないろくでなし。人好きのする穏やかな笑みを浮かべているくせに、基本他人には興味がなく、ときに残酷なほど冷酷に振る舞える三十過ぎの隣人の中年男に、篤郎はもう長いこと初恋をこじらせているのだった……。 子ども扱いされたくない。けれど自分たちの間にある差はそう簡単には埋めることはできなくてーー。  若いからこそ無謀とも言える勢いと強さとを持つ高校生の主人公と、大人になってしまったからこそ臆病になる大人のずるさ。   二回り年の離れたふたりのじれったいほどの恋物語です。 すてきなイラストはShivaさん(@kiringo69)よりいただきました。

みにくい凶王は帝王の鳥籠【ハレム】で溺愛される

志麻友紀
BL
帝国の美しい銀獅子と呼ばれる若き帝王×呪いにより醜く生まれた不死の凶王。 帝国の属国であったウラキュアの凶王ラドゥが叛逆の罪によって、帝国に囚われた。帝都を引き回され、その包帯で顔をおおわれた醜い姿に人々は血濡れの不死の凶王と顔をしかめるのだった。 だが、宮殿の奥の地下牢に幽閉されるはずだった身は、帝国に伝わる呪われたドマの鏡によって、なぜか美姫と見まごうばかりの美しい姿にされ、そのうえハレムにて若き帝王アジーズの唯一の寵愛を受けることになる。 なぜアジーズがこんなことをするのかわからず混乱するラドゥだったが、ときおり見る過去の夢に忘れているなにかがあることに気づく。 そして陰謀うずくまくハレムでは前母后サフィエの魔の手がラドゥへと迫り……。 かな~り殺伐としてますが、主人公達は幸せになりますのでご安心ください。絶対ハッピーエンドです。

処理中です...