上 下
158 / 165
最終章 半端でも仙人

第157話 踊る蜘蛛と地響き

しおりを挟む
「気にせず続けろ!」

 よく通る声で話しているのはドラちゃん。

「王様!」
「お前も部下の指示があるだろう。彼のことは任せて行きなさい」
「はっ!」

 将軍が走っていくのを見届け、ドラちゃんが俺に向き直る。

「話は聞いていた。本来なら私も出向きたいが」
「ワイトが出て来たら困るよね」
「そういうことだ。悪いが代わりに行ってくれるか?」

 どう見ても気が使えそうな奴はいない。逃げられそうにないな。

「仕方ないか。でも準備はさせてくれ」
「わかった。なんとか持たせてみせるが、早くして欲しい」
「最速でね」

「「ふふ」」

 お互いの合図で動き出そうとしたが、止められる。

「急いでるんじゃ?」
「いや、蜘蛛の種類は何だったかと思ってな。人型か?」
「でっかい蜘蛛だったね。青っぽくて光沢があったかも」
「ここに来て新種か……。仮で良いから名前だけ決めておこう」

 俺が決めるのか!?

「他のやつが」
「決めてくれ」
「……タランテッラ」
「それって」
「決めろって言ったのはドラちゃんだからな!」
「良いぞ! 終わったらその蜘蛛の前で弾いてやろう!」

 後ろから聞こえるドラちゃんの高笑いをスルーしつつ、一旦カオルの元へ戻る。

 隠密を重視してないせいか、走った後に土埃が立っており、戦っているダンピールだけでなくゾンビも振り向く。
 駆け抜ける途中、拠点近くにも関わらず、ゾンビの単体を見かけるようになって来た。あまり時間は無いかもしれない。
 地下道の入り口にいる兵士を見つけると、遠くから声を掛ける。

「みんなは中か!?」
「中で待機中です!」
「このまま入る!」

 入り口を塞ぐ兵士が避けるのとほぼ同じタイミングで滑り込む。
 暗闇で目は効きづらいが、気配だけで道を探す。
 走っていると、途中の広場で一瞬マザーが警戒してきた。

「すぐ戻ってくるから、ちょっと通らせてくれ」

 キチキチと噛み合わせて不機嫌さを表すも、すんなり通してくれた。
 通るだけでも精神的に良くないよ。

 さらに奥へ進むみながらカオルを探すと、ちょうどゾンビと戦っているところだった。
 数体相手にうまく捌《さば》いているが、今は時間が無い。
 カオルの周りにいたゾンビ共に聖水をかけて倒す。

「実さん! ちょっと勿体無《もったいな》いのでは!?」
「急ぎだ! マザーのところに行くぞ!」
「ペロちゃん。少しだけお願いね!」

 尻尾を2度打ちつけ、チラッとこちらを見る気配があった。

「お礼は一緒に取ってくださいよ」
「ドラちゃんが最高のご飯をくれるさ」

 カオルを抱えながら広場へ戻ると、待っていたと言わんばかりのマザーが鎮座《ちんざ》している。

「他の戦地の下にも、同じような地下道があるらしい」
「え? そうなんですか?」

 カオルは、肩蜘蛛《かたくも》と念話すると驚いていた。

「ここら辺一帯は長年かけて巣を広げたみたいです……」
「どのくらい?」
「おそらく戦地全体は入っているかと。騒々しいと嫌悪感があるみたいでして……」
「最悪だな。とにかく、俺たちは敵対したくない」
「そうですね」
「俺が言ってくるから、伝える蜘蛛を貸してくれ」

 俺の言葉をカオルが通訳すると、しばし考え込んでいるように見える。
 頭部が左右に傾げているから、そう見えるだけかもしれないけどね。

 数分後。いや、1分程度だろうな。
 そのくらいで返事が来た。

「良いそうです」

 マザーのキチキチ噛み鳴らす音に蜘蛛たちが寄ってくる。どんな話をしているのかわからないが、その中の一匹が俺の前に飛び出して来た。

「その子が行ってくれるそうですって。可愛い子で良かったですね」

 お前にはこいつが可愛く見えるのか……。
 俺にはマザーの次に強そうなヤバい奴にしか見えない。
 膝くらいまでの大きさだけど。魔力も将軍クラスに多いし、致死性の毒を持ってるだろ。

「よ、よろしく」

 踊りは肩蜘蛛と同じなのか。

「実さん」
「どうした?」
「蜘蛛たちの名前決めたんですか?」
「なんでそれを……」
「マザーが聞こえたと言っています。終わったら何かやってくれるんだろと」

 俺。ちゃんと笑えてるかな? 顔が硬い気がするんだけど。

「それで名前は?」
「……タラ……ラ」
「え?」
「タランテッラだ!」
「あぁ。人のこと言えるほどセンス無いんですねぇ」

 だから言いたくなかったんだ。
 そう思っていたら、蜘蛛たちが飛び跳ね出し、マザーも爪を振り下ろしている。
 地響きが鳴り響き、地下道の奥からも不安そうにしている声が聞こえてきた。

「まさか! そんなに嫌だったの!? 変えても良いよ?」
「いえ。かなり喜んでいます」

 本当なの!? 嘘じゃないよね?

「それはそうと、早く行かなくて良いんですか?」
「そうだった!」

 1匹のタランテッラを連れて地下道から飛び出す。
 隠密しながらでも、余裕で着いてくる。さすがに精霊魔法を使えば、俺の方が隠れるの上手いだろうけど、それでも分かりづらいだろうな。

 中央の地下道入り口らしき場所に兵士が立っていた。

「ここが入り口で合ってるか?」
「うわ! なんだそいつ」
「攻撃しないから気にするな。それで、入り口で良いんだな!?」
「あぁ」

 なかなか動かない兵士を押し退けて中に入る。
 そこかしこから嫌な気配。
 奥から例のキチキチと鳴らす音が聞こえてくる。

「明らかに不機嫌だろ……」

 俺の言葉を無視するように蜘蛛が進んでいき、その後ろに着いていく。
 大量の蜘蛛に監視されながら歩いていくと、先程のマザーと同じレベルの奴がいた。
 数分マザーと通訳蜘蛛がキチキチ言ってると、ふいに動かなくなったゾンビが投げ置かれる。

 通訳蜘蛛がゾンビを突き、最終的に突き刺して俺の前に置いた。
 どういうこと?

「え? 殴れば良いの?」

 わかりづらいけど、頷いてるんだよな?
 でも、触るの嫌だし、気で弾くか。
 手のひらから、大きめの気弾を飛ばして何度かゾンビを叩く。
 これで良いか?

 大量の蜘蛛たちが先程のように飛び跳ね、再び地響きが鳴った。

「友好は結べたってことで良いのか?」

 頷いてるな。よし。

「ダンピールも一応見せておくか」

 入り口に戻ると、数人のダンピールが見守っていた。

「戻って来たぞ! 大丈夫だったか!?」
「蜘蛛と友好は結べた。ダンピールも覚えてもらいたいから、誰か来てくれ」

 砂埃を立てながら、一歩動く。
 さすがは軍人だと言いたいが、その一歩は前でいて欲しかった。
 そして取り残された1人。

「君が生贄だ。いや、勇者だ」
「え? えぇ? お前ら!」

「前から勇気あると思ってたんだ」「カッコいいよな」「さすがだぜ」などと言いたい放題だが、乗り遅れるとこういうことになるという教訓になったな。

「さぁ行こう!」

 首根っこを掴んで引きずっていく。



 地下道から戻って来たら、先程の兵士は白くなっていた。

「お、恐ろしい」
「おい。大丈夫か!?」
「俺程度じゃ、立ってるのがやっとだった」

 実際怖いんだよな。ちょっと慣れたけど、あと何箇所行くのか。
 そこに本部で会った将軍に声をかけられた。

「ここは終わったか」
「あとはどこにありました?」
「中央に2。東に2だな。中央の1カ所を先に頼む」
「何かありましたか?」
「土地が荒れた場所近くで、先程の地響きがすでに一度あったんだ……」

 激怒してるじゃねーか。

「誰か一緒に来てくれたりは?」
「どうも地下だと魔力が吸われるみたいでな。我々は相性が悪い」

 蜘蛛がその言葉を聞いて嬉しそうに踊り出した。すると周囲の魔力が少し薄くなる。

「どうやら蜘蛛の仕業みたいだな。あとは頼む」
「それしかないのね……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

七千億EXPのレアキャラ ~いらっしゃいませ、どうぞご覧下さいませ~

太陽に弱ぃひと
ファンタジー
 これは仮想世界の物語――レベルや金などの概念は存在せず、経験値のみが全ての世界があった。  この世界には未だ全てを明かされていない謎の種族が存在。その種族名を――『おっさん』と、言う。繰り返すが‟種族名”であり、その者が『おっさん』だからではない……多分。更には複数の(謎)種族も――――  

処理中です...