上 下
82 / 165
5章 獣王国

第81話 広場での出会い

しおりを挟む

「これだけ広いと、何かに使ってただろうな。面白いの見つけたら教えてね」

 2匹にもそう言って、歩き出す。

 周囲を探ってみると、人のいた形跡がある。石の台座と木の燃えカスがチラホラとある。
 特別隠しているようでも無いので、秘密と言うことでも無いのかもしれない。

 ピィ!

「なんかあった? 天井?」

 見上げてみると、また例の壁画だ。

「ここも遺跡なのか? それにしては、人の出入りは最近みたいだけど」

 壁画には、胡座《あぐら》の男と崇《あが》める獣族。
 隣の絵には、袋を抱えた獣族が…扉から出ようとしているのかな?いや、洞窟の出口か?
 更に隣だと、家が出来てる。
 本と麦を持った獣人族がいるな。

 壁画も気になるが、虫食いの文章があるから、これもメモだな。

『自然の気を△○したような□だった。師匠もすご△○○けど、その比じ□ない○だよね。その人は太上老君《たいじょうろうくん》と□△してきた。○もしっかりと○拶と自己□介を○すと、□を押さえて床を転げていた。』

 メモしてる途中で思ったが、この名前知ってるぞ?

「お? 太上老君《たいじょうろうくん》て、老師か? 名前が一緒ってのも珍しいね。だが、誰か知らないが助かるな。1人知り合いを思い出せたよ。忘れないように強調しておこう」

【太上老君】

 ピィ?

「オスクか。ありがとう! 知り合いの名前と同じのが書かれていたよ。これで思い出も一歩前進だね」

 ピッピィ!

 貰った他の遺跡のメモを読み返してみると、虫食い箇所に太上老君が入りそうだな。仙術に老師か。日本から中国に行ったんだっけな。【日本】と【中国】メモっとこ。
 今度読み返して、思い出す時間も作ってみよう。

 他にも書いてある。時間はあるし、もう1日調べてから出発しても良いだろう。

 その日も壁や天井の文字をメモしてると時間が過ぎて行く。メサが飛びながら照らしてくれたので、とても助かった。

 ……
 …………


「今日はもう休もうか」

 そう言うと、オスクから飯食ってないと抗議があった。

「そうだった。空腹感が薄いから、ついつい忘れてしまうんだよな。よし、今日は芋煮でもやろう」

 鍋に湯を沸かし、切った芋を入れていく。しっかりと煮えたら、キノコ類と葉物を投入して味付けだ。屋台の荷物をあさっていると、村で買っていたミルクを見つける。

「保存術かけてたけど、もってあと数日だな。使っちまうか」

 ピピッピィ!と喜んでいる。

 ミルクと塩を入れて、今日はミルク煮だな。後入れになってしまったが、今回は勘弁してほしい。

「さぁ、出来……誰かくるな」

 俺たちが来た方向とは反対から、2人やってくる。向こうも気づいているようなので、特に隠れたりはしないでおくか。





「あれ? 獣人じゃないね」
「人族と魔物? 従魔か。ここで見るのは初めてだな。よくここに辿り着いたな」

 そう言って現れたのは、長めの爪と鼻を持ったやや小さめな獣人族。

「向こう側から来たんだよ」
「え? じゃあ、人族達にあの入り口が見つかっちゃった?」

 入り口はしっかり隠れていたし、誰にも言わずに入ってきたと伝えると、少し安心していた。
 もう片方が、訝《いぶか》しんでいたが、信じてもらうしか無いだろう。

「ホーも心配性だな。もし見つかっていても問題ない。そうだろ?」
「……ドリーの言う通りだね。オイラも考え過ぎだったな」

 名前を出したってことは、俺も言った方が良いんだろうな。

「紹介遅れたが、俺は7級探索者のノールだ。よろしく」
「ありがとう。聞いたと思うが、自分がドリー、あっちがホーだ。問題なければで良いが……何しに来たんだ?」

 隠すことも無いので、サラサラと答えてしまう。ここまで来た事情を伝えると、2人とも納得してくれたようだ。


「なるほどな。確かに聖教国は通ってこれないな」
「だからって、この洞窟見つけるのも大変だったでしょ?」
「入り口を見つけるのは、確かに時間かかったけど、見つけたりとか探索は得意なんだ。それに」

 鱗人族から聞いたことを伝えると、関心していた。確かに獣王国から出て行ったという話はあるらしいが、どこに行ったか、どういう経路だったかはわかってないという。だからと言って、国に伝えるつもりも無いようだ。

 色々話していると、彼らはモール族と言って、洞窟を好んで住んでいる。ここの洞窟は広くて住んでいないが、環境が良く、たびたび採掘に来ているらしい。獣王国から来る者もほとんどいないので、居心地が良いらしい。

 そんな話から、獣王国の中でも、和気藹々《わきあいあい》としているわけじゃないんだと感じた。

「失礼かもしれないが、モール族は扱いが良く無いのか?」
「そう聞こえてしまったか……良くは無いが、悪いという訳では無い。獣王国は、獣と括《くく》っているが、多種族なんだ。種族ごとに得手・不得手があるから、得意なこと以外やりづらいというだけだな。自分たちだと採掘や穴掘りだ。ここだと余計なことを言われないから、楽なんだよ」

 出来ない訳じゃ無いが、種族の優劣がはっきりしてるんだな。これは下手につつくと大変なことになるな。あまり言わないでおこう。
 話も長くなってきたので、鍋に誘って一緒に食べることにした。


「このミルク煮って良いな! 帰ったらやってみようよ!」
「かあちゃんに言わないとな!」
「気に入ってもらえたようで良かったよ。まだまだあるから食ってくれ」


 ……
 …………


「そうすると、ここから2週間もかかるのか」
「そうだね。行くなら、途中毒蛇とか居るから気をつけてね」
「はは。遠慮しとくよ」
「獣王国側は1週間だから、思ったより進んでいたな」
「1週間だけど、この先は入り組んでるから迷うだろうね。出口で良いなら案内してあげるよ」

 思わぬ申し出。これは素直に受けた。なぜか聞いてみると、下手な道に入られると困るということもあるらしい。中には脆い穴があって、崩落の危険性もあるようだ。

 話は変わって、壁画のことになる。どうやら、獣王国内にもいくつか壁画があるという話だ。昔から山に住み着いてる研究者が、時々ここに来ているので、ドリー達も聞かされている。研究者の話だと、あの人族は神様ではなく、石造か長命種だと言う。どの壁画も同じ形だけなので、その人型から、祖先が種と服と本を頂いて繁栄できたという筋書きだ。
 確かに、王都の壁画も同じ形をしていた。なるほどなと納得しそうだったが、獣王国では、邪道の考えと言われてしまったらしい。

「そういえば、ノールの服は博物館に飾られてる服と似てるよな」
「それは俺も聞いたんだよ。だから一度獣王国来いって言われてね」
「知り合いに誘われたのか? どの種族なんだ?」
「獅子人族だったな。バートさんって名前だよ」

 そう答えると一瞬固まった。

「……聞いたことあるけど、別人だよな?」
「同名なだけでしょ。まぁ、獅子人族なら首都だよね!」

 獅子人族は昔から、騎士や兵士など、腕っ節の強い仕事を多くこなしているらしい。その為、首都に本拠地を構える者が多い。俺が言った獅子人族のバートという名前で、有名な人物がいる。そいつは族長の息子で、代々続く名家の次男だ。結構前に遠くへ行き、戻ってないので、さすがに違うだろうということだ。
 その首都には博物館があるので、観光ついでで一石二鳥だな。

「首都に行くのも良いけど、一度研究者に会ってみない?」

 その研究者は、ホーと仲が良く、時々遊びに行くらしい。この作務衣を見せたら、面白そうだと提案してきた。道案内もしてもらうし、少しくらい希望に沿っても良いだろう。
 研究者の家も、山の中にあるので、首都の行きがけに寄る感覚だな。
 ついでに、山の植生調査も軽くやってみたいな。山の反対だとどんな生態に変わってるのかな?


「じゃあ、明日出発だな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

異世界坊主の成り上がり

峯松めだか(旧かぐつち)
ファンタジー
山歩き中の似非坊主が気が付いたら異世界に居た、放っておいても生き残る程度の生存能力の山男、どうやら坊主扱いで布教せよということらしい、そんなこと言うと坊主は皆死んだら異世界か?名前だけで和尚(おしょう)にされた山男の明日はどっちだ? 矢鱈と生物学的に細かいゴブリンの生態がウリです? 本編の方は無事完結したので、後はひたすら番外で肉付けしています。 タイトル変えてみました、 旧題異世界坊主のハーレム話 旧旧題ようこそ異世界 迷い混んだのは坊主でした 「坊主が死んだら異世界でした 仏の威光は異世界でも通用しますか? それはそうとして、ゴブリンの生態が色々エグいのですが…」 迷子な坊主のサバイバル生活 異世界で念仏は使えますか?「旧題・異世界坊主」 ヒロイン其の2のエリスのイメージが有る程度固まったので画像にしてみました、灯に関しては未だしっくり来ていないので・・未公開 因みに、新作も一応準備済みです、良かったら見てやって下さい。 少女は石と旅に出る https://kakuyomu.jp/works/1177354054893967766 SF風味なファンタジー、一応この異世界坊主とパラレル的にリンクします 少女は其れでも生き足掻く https://kakuyomu.jp/works/1177354054893670055 中世ヨーロッパファンタジー、独立してます

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...