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5章 獣王国
第81話 広場での出会い
しおりを挟む「これだけ広いと、何かに使ってただろうな。面白いの見つけたら教えてね」
2匹にもそう言って、歩き出す。
周囲を探ってみると、人のいた形跡がある。石の台座と木の燃えカスがチラホラとある。
特別隠しているようでも無いので、秘密と言うことでも無いのかもしれない。
ピィ!
「なんかあった? 天井?」
見上げてみると、また例の壁画だ。
「ここも遺跡なのか? それにしては、人の出入りは最近みたいだけど」
壁画には、胡座《あぐら》の男と崇《あが》める獣族。
隣の絵には、袋を抱えた獣族が…扉から出ようとしているのかな?いや、洞窟の出口か?
更に隣だと、家が出来てる。
本と麦を持った獣人族がいるな。
壁画も気になるが、虫食いの文章があるから、これもメモだな。
『自然の気を△○したような□だった。師匠もすご△○○けど、その比じ□ない○だよね。その人は太上老君《たいじょうろうくん》と□△してきた。○もしっかりと○拶と自己□介を○すと、□を押さえて床を転げていた。』
メモしてる途中で思ったが、この名前知ってるぞ?
「お? 太上老君《たいじょうろうくん》て、老師か? 名前が一緒ってのも珍しいね。だが、誰か知らないが助かるな。1人知り合いを思い出せたよ。忘れないように強調しておこう」
【太上老君】
ピィ?
「オスクか。ありがとう! 知り合いの名前と同じのが書かれていたよ。これで思い出も一歩前進だね」
ピッピィ!
貰った他の遺跡のメモを読み返してみると、虫食い箇所に太上老君が入りそうだな。仙術に老師か。日本から中国に行ったんだっけな。【日本】と【中国】メモっとこ。
今度読み返して、思い出す時間も作ってみよう。
他にも書いてある。時間はあるし、もう1日調べてから出発しても良いだろう。
その日も壁や天井の文字をメモしてると時間が過ぎて行く。メサが飛びながら照らしてくれたので、とても助かった。
……
…………
「今日はもう休もうか」
そう言うと、オスクから飯食ってないと抗議があった。
「そうだった。空腹感が薄いから、ついつい忘れてしまうんだよな。よし、今日は芋煮でもやろう」
鍋に湯を沸かし、切った芋を入れていく。しっかりと煮えたら、キノコ類と葉物を投入して味付けだ。屋台の荷物をあさっていると、村で買っていたミルクを見つける。
「保存術かけてたけど、もってあと数日だな。使っちまうか」
ピピッピィ!と喜んでいる。
ミルクと塩を入れて、今日はミルク煮だな。後入れになってしまったが、今回は勘弁してほしい。
「さぁ、出来……誰かくるな」
俺たちが来た方向とは反対から、2人やってくる。向こうも気づいているようなので、特に隠れたりはしないでおくか。
「あれ? 獣人じゃないね」
「人族と魔物? 従魔か。ここで見るのは初めてだな。よくここに辿り着いたな」
そう言って現れたのは、長めの爪と鼻を持ったやや小さめな獣人族。
「向こう側から来たんだよ」
「え? じゃあ、人族達にあの入り口が見つかっちゃった?」
入り口はしっかり隠れていたし、誰にも言わずに入ってきたと伝えると、少し安心していた。
もう片方が、訝《いぶか》しんでいたが、信じてもらうしか無いだろう。
「ホーも心配性だな。もし見つかっていても問題ない。そうだろ?」
「……ドリーの言う通りだね。オイラも考え過ぎだったな」
名前を出したってことは、俺も言った方が良いんだろうな。
「紹介遅れたが、俺は7級探索者のノールだ。よろしく」
「ありがとう。聞いたと思うが、自分がドリー、あっちがホーだ。問題なければで良いが……何しに来たんだ?」
隠すことも無いので、サラサラと答えてしまう。ここまで来た事情を伝えると、2人とも納得してくれたようだ。
「なるほどな。確かに聖教国は通ってこれないな」
「だからって、この洞窟見つけるのも大変だったでしょ?」
「入り口を見つけるのは、確かに時間かかったけど、見つけたりとか探索は得意なんだ。それに」
鱗人族から聞いたことを伝えると、関心していた。確かに獣王国から出て行ったという話はあるらしいが、どこに行ったか、どういう経路だったかはわかってないという。だからと言って、国に伝えるつもりも無いようだ。
色々話していると、彼らはモール族と言って、洞窟を好んで住んでいる。ここの洞窟は広くて住んでいないが、環境が良く、たびたび採掘に来ているらしい。獣王国から来る者もほとんどいないので、居心地が良いらしい。
そんな話から、獣王国の中でも、和気藹々《わきあいあい》としているわけじゃないんだと感じた。
「失礼かもしれないが、モール族は扱いが良く無いのか?」
「そう聞こえてしまったか……良くは無いが、悪いという訳では無い。獣王国は、獣と括《くく》っているが、多種族なんだ。種族ごとに得手・不得手があるから、得意なこと以外やりづらいというだけだな。自分たちだと採掘や穴掘りだ。ここだと余計なことを言われないから、楽なんだよ」
出来ない訳じゃ無いが、種族の優劣がはっきりしてるんだな。これは下手につつくと大変なことになるな。あまり言わないでおこう。
話も長くなってきたので、鍋に誘って一緒に食べることにした。
「このミルク煮って良いな! 帰ったらやってみようよ!」
「かあちゃんに言わないとな!」
「気に入ってもらえたようで良かったよ。まだまだあるから食ってくれ」
……
…………
「そうすると、ここから2週間もかかるのか」
「そうだね。行くなら、途中毒蛇とか居るから気をつけてね」
「はは。遠慮しとくよ」
「獣王国側は1週間だから、思ったより進んでいたな」
「1週間だけど、この先は入り組んでるから迷うだろうね。出口で良いなら案内してあげるよ」
思わぬ申し出。これは素直に受けた。なぜか聞いてみると、下手な道に入られると困るということもあるらしい。中には脆い穴があって、崩落の危険性もあるようだ。
話は変わって、壁画のことになる。どうやら、獣王国内にもいくつか壁画があるという話だ。昔から山に住み着いてる研究者が、時々ここに来ているので、ドリー達も聞かされている。研究者の話だと、あの人族は神様ではなく、石造か長命種だと言う。どの壁画も同じ形だけなので、その人型から、祖先が種と服と本を頂いて繁栄できたという筋書きだ。
確かに、王都の壁画も同じ形をしていた。なるほどなと納得しそうだったが、獣王国では、邪道の考えと言われてしまったらしい。
「そういえば、ノールの服は博物館に飾られてる服と似てるよな」
「それは俺も聞いたんだよ。だから一度獣王国来いって言われてね」
「知り合いに誘われたのか? どの種族なんだ?」
「獅子人族だったな。バートさんって名前だよ」
そう答えると一瞬固まった。
「……聞いたことあるけど、別人だよな?」
「同名なだけでしょ。まぁ、獅子人族なら首都だよね!」
獅子人族は昔から、騎士や兵士など、腕っ節の強い仕事を多くこなしているらしい。その為、首都に本拠地を構える者が多い。俺が言った獅子人族のバートという名前で、有名な人物がいる。そいつは族長の息子で、代々続く名家の次男だ。結構前に遠くへ行き、戻ってないので、さすがに違うだろうということだ。
その首都には博物館があるので、観光ついでで一石二鳥だな。
「首都に行くのも良いけど、一度研究者に会ってみない?」
その研究者は、ホーと仲が良く、時々遊びに行くらしい。この作務衣を見せたら、面白そうだと提案してきた。道案内もしてもらうし、少しくらい希望に沿っても良いだろう。
研究者の家も、山の中にあるので、首都の行きがけに寄る感覚だな。
ついでに、山の植生調査も軽くやってみたいな。山の反対だとどんな生態に変わってるのかな?
「じゃあ、明日出発だな」
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