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新たな出発
お手柄ヤマト
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「くっそ! もう一回!」
ゴォオオオオオ。
「もう一度」
ゴォオオオオオオオオオ。
「誰か操作してるんだろ! 出てこい!」
出てこい! 出てこい……出てこい。
洞窟内で反響する木霊がうるさい。
「次やってダメなら何か考えるか……」
ヒュンヒュンとボーラを回し、渾身の一投を飛ばす。
「おい! 風! 聞いてるなら止まってくれるのかい!?」
ゴォオオオオオオ。
止まってくれない!
回収して、泣く泣く解体。
次に使うのは何にするべきか……。
「残ってるのはヤマトと釣具かぁ」
ヤマト!?
ヤマトがいるってことは、もしかしてネテラの中か!?
なぜ今まで気づかなかったんだ。
それなら『マスメモ』の心配はな……いや、MRの感覚ないぞ。
VRならワンチャン『マスメモ』理論は成立してしまう。
「とにかくネテラだったら、デスペナありでもリスポンで……ヤマト」
さすがにヤマトは無くしたくない。
起動して久しぶりの戯れをしていると、さらに手放したくない気持ちが強くなる。
「ダメだ。何とか抜け出す方法を探そう」
……
…………
まずい。
結局戻ってきてしまった。
他の通路はすぐに行き止まりだし、風上はヤマトすら通れなさそうな空気口だけだった。
目の前にある断崖は、俺たちを嘲る様に時折轟音を吐き出している。
「対岸に渡る方法持ってないか? ヤマト」
くりっくりの目に、頭上から微かに降りてくる光が反射している。
「……もう! かわいいなぁ!」
無性にじゃれつきたくなって小一時間遊んでいると、腹が鳴る。
「やっべ。食料値が減ってる……確かさっき漁った時にアレがあったはず」
『リリーの手作りクッキー』
口の中に広がる強烈な甘味と、猛烈に持っていかれる水分値に驚かされる。
ただし、食料値だけでなく体力も充填されていくのが面白い。
「ヤマト。魔力渡すからお水ちょうだい」
ヤマトの頭に手を乗せ魔力を流し込むと、小さく作られた水球から水を吸い込む。
「ジュルルル。生き返るー! 水筒にも満たしておこう。よし」
満タンの水分値を見て安心したところでヤマトの方を向くと、小さかった水球がどんどんと膨れ上がって、バランスボールを超えそうなサイズになっている。
「も、もう消して良いぞ! お、おい。こっちに向けるな! あ、カバンもダメだ!」
従順だったヤマトが言うことを聞いてくれない!?
まずい。
カバンが濡れたら色々ダメになる。
拾い上げたカバンを背負って、ヤマトの狙いから逃げる様に後ずさる。
「おわぁ!?」
気づけば崖の際まで追い詰められてしまった。
「は、話せばわかる。やめろ! やめるんだ!」
先ほどより更に巨大化した水球は、今や俺と同じくらいのサイズになっている。
しかも、プルプルと震え出したヤマトの様子が怖い。
唐突に背後で吹き荒れた風がカバンに直撃した。
「ぬぉぉおおおお!」
全力で踏ん張っていたところに『ボスン!』という重い音が鳴っていた。
「どぅわぁぁぁあああああ」
先ほどまで全回復した体力がキュルキュルと目減りし、半分ほどで止まったのが見えた。
そこで安心できることはなく、回転しながら見える天井と底の見えない穴が怖い。
「お、落ち! 落ち……てな。ぐはぁっ」
強烈な風で持ち上げられた体は、底なしの穴を飛び越えて薄暗い地面に着地させてくれた。
いや、打ち付けられたのほうが正しいかもしれない。
「ガッハ。いててて」
半分だった体力は更に減って、残り3割程度。
少しずつ回復しているが、今度は食料値が半分を割り切ってしまう。
「ま、まずい! も、もう一個食わないと」
最後のクッキーと溜めた水筒を空にして一旦回復させて、ようやく周りを見る余裕ができてきた。
さっきまで必死に狙っていた紐はすぐ側に引っかかっている。
「痛い目にあったけど、なんとか先に進めたか……ヤマトは、と」
対岸の際でウロチョロと駆け回る姿が見える。
「ったく、自分だけ残っちゃうとかしょうがないな」
垂れ下がる紐を引っ掴んで向こう側に向かって投げ込んでみたものの、若干短いようで岸に触れることなく風に捲られながら戻ってきてしまう。
「マジかよ。ずっと無駄なことしてたのか……一気に萎えたわ」
自分の気持ちよりも先にヤマトをなんとか連れてこないといけない。
「ボーラもダメだったし、釣りでも試してみるか」
パパっと釣り竿に道具をセッティングしていく。
減臭マスクと同じ糸で作った頑丈な釣り糸に、タコ釣り用のテンヤを結びつける。
訓練のおかげで、釣り糸程度なら糸術の効果が乗るようになった。
セイヤー! と掛け声に乗せて投射。
予想通り吹き荒れる風だが、糸術の乗った釣り糸はうねりながらもヤマトの近くへと落ちていった。
「ヤマト! 次の風が来る前に乗り込め!」
テンヤに抱きつくヤマトを確認した。
あとは一本釣りだ!
「しっかり捕まってろよ。どりゃぁぁぁあああ!」
ぷゅーん!
珍妙な音を鳴らし一瞬気が抜けそうになったが、なんとかリールを巻き込む。
肝心のヤマトは穴を越えると、テンヤから飛び体操選手も真っ青な空中7回転を決めて着地。
「10点!」
ゴォオオオオオ。
「もう一度」
ゴォオオオオオオオオオ。
「誰か操作してるんだろ! 出てこい!」
出てこい! 出てこい……出てこい。
洞窟内で反響する木霊がうるさい。
「次やってダメなら何か考えるか……」
ヒュンヒュンとボーラを回し、渾身の一投を飛ばす。
「おい! 風! 聞いてるなら止まってくれるのかい!?」
ゴォオオオオオオ。
止まってくれない!
回収して、泣く泣く解体。
次に使うのは何にするべきか……。
「残ってるのはヤマトと釣具かぁ」
ヤマト!?
ヤマトがいるってことは、もしかしてネテラの中か!?
なぜ今まで気づかなかったんだ。
それなら『マスメモ』の心配はな……いや、MRの感覚ないぞ。
VRならワンチャン『マスメモ』理論は成立してしまう。
「とにかくネテラだったら、デスペナありでもリスポンで……ヤマト」
さすがにヤマトは無くしたくない。
起動して久しぶりの戯れをしていると、さらに手放したくない気持ちが強くなる。
「ダメだ。何とか抜け出す方法を探そう」
……
…………
まずい。
結局戻ってきてしまった。
他の通路はすぐに行き止まりだし、風上はヤマトすら通れなさそうな空気口だけだった。
目の前にある断崖は、俺たちを嘲る様に時折轟音を吐き出している。
「対岸に渡る方法持ってないか? ヤマト」
くりっくりの目に、頭上から微かに降りてくる光が反射している。
「……もう! かわいいなぁ!」
無性にじゃれつきたくなって小一時間遊んでいると、腹が鳴る。
「やっべ。食料値が減ってる……確かさっき漁った時にアレがあったはず」
『リリーの手作りクッキー』
口の中に広がる強烈な甘味と、猛烈に持っていかれる水分値に驚かされる。
ただし、食料値だけでなく体力も充填されていくのが面白い。
「ヤマト。魔力渡すからお水ちょうだい」
ヤマトの頭に手を乗せ魔力を流し込むと、小さく作られた水球から水を吸い込む。
「ジュルルル。生き返るー! 水筒にも満たしておこう。よし」
満タンの水分値を見て安心したところでヤマトの方を向くと、小さかった水球がどんどんと膨れ上がって、バランスボールを超えそうなサイズになっている。
「も、もう消して良いぞ! お、おい。こっちに向けるな! あ、カバンもダメだ!」
従順だったヤマトが言うことを聞いてくれない!?
まずい。
カバンが濡れたら色々ダメになる。
拾い上げたカバンを背負って、ヤマトの狙いから逃げる様に後ずさる。
「おわぁ!?」
気づけば崖の際まで追い詰められてしまった。
「は、話せばわかる。やめろ! やめるんだ!」
先ほどより更に巨大化した水球は、今や俺と同じくらいのサイズになっている。
しかも、プルプルと震え出したヤマトの様子が怖い。
唐突に背後で吹き荒れた風がカバンに直撃した。
「ぬぉぉおおおお!」
全力で踏ん張っていたところに『ボスン!』という重い音が鳴っていた。
「どぅわぁぁぁあああああ」
先ほどまで全回復した体力がキュルキュルと目減りし、半分ほどで止まったのが見えた。
そこで安心できることはなく、回転しながら見える天井と底の見えない穴が怖い。
「お、落ち! 落ち……てな。ぐはぁっ」
強烈な風で持ち上げられた体は、底なしの穴を飛び越えて薄暗い地面に着地させてくれた。
いや、打ち付けられたのほうが正しいかもしれない。
「ガッハ。いててて」
半分だった体力は更に減って、残り3割程度。
少しずつ回復しているが、今度は食料値が半分を割り切ってしまう。
「ま、まずい! も、もう一個食わないと」
最後のクッキーと溜めた水筒を空にして一旦回復させて、ようやく周りを見る余裕ができてきた。
さっきまで必死に狙っていた紐はすぐ側に引っかかっている。
「痛い目にあったけど、なんとか先に進めたか……ヤマトは、と」
対岸の際でウロチョロと駆け回る姿が見える。
「ったく、自分だけ残っちゃうとかしょうがないな」
垂れ下がる紐を引っ掴んで向こう側に向かって投げ込んでみたものの、若干短いようで岸に触れることなく風に捲られながら戻ってきてしまう。
「マジかよ。ずっと無駄なことしてたのか……一気に萎えたわ」
自分の気持ちよりも先にヤマトをなんとか連れてこないといけない。
「ボーラもダメだったし、釣りでも試してみるか」
パパっと釣り竿に道具をセッティングしていく。
減臭マスクと同じ糸で作った頑丈な釣り糸に、タコ釣り用のテンヤを結びつける。
訓練のおかげで、釣り糸程度なら糸術の効果が乗るようになった。
セイヤー! と掛け声に乗せて投射。
予想通り吹き荒れる風だが、糸術の乗った釣り糸はうねりながらもヤマトの近くへと落ちていった。
「ヤマト! 次の風が来る前に乗り込め!」
テンヤに抱きつくヤマトを確認した。
あとは一本釣りだ!
「しっかり捕まってろよ。どりゃぁぁぁあああ!」
ぷゅーん!
珍妙な音を鳴らし一瞬気が抜けそうになったが、なんとかリールを巻き込む。
肝心のヤマトは穴を越えると、テンヤから飛び体操選手も真っ青な空中7回転を決めて着地。
「10点!」
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