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第7章 開拓編

第126話 聖獣

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 アルクス達が島を探索してから、約10日程が経過した。島は予想以上に広大で、大きく分けると森林、湖、平原、洞窟の四つのエリアに分かれていることがわかった。
森林エリアには巨大な樹木が生い茂り、樹木の中には見たことがない生き物達が隠れ潜んでいた。湖エリアには青く輝く美しい湖が広がっていて、水中に眠る古代の遺跡らしき形跡を発見した。平原エリアは広大な草原が続き、風の精霊達が楽しそうに飛び交っている様にも見えた。洞窟エリアには幻想的な光を放つ鉱石で彩られ、どれほどの深さかもわからない神秘的な雰囲気が漂う洞窟が大きな口を開けて来訪者を待っていた。

「アルクス、この実 甘くて美味しいよ。」

アリシアが赤い果実を口に入れながら言った。

 「おい、気をつけろよ。毒があるかもしれないだろ。」

バルトロが心配そうに声をかける。

 「大丈夫だよ。ティオが浄化の祈りをかけてくれたから。」

 ティオの能力のおかげで、アルクス達は安全に食べられる食材を手にいれることができるようになった。しかし、それでも十分な量を確保するのは容易ではなかった。
ここ数日の間、アルクス達は様々な困難に直面しながらも、着実に島での生活基盤を築いていった。特に最初の2,3日は食料の確保に苦労した。平原には多種多様な動物がいるものの魔獣はおらず、湖には見たこともない魚が、森林には色鮮やかな果実や茸が豊富にあったものの、それらが食べられるかどうかの判断に時間がかかったのだった。 

「ここは島と言うには広すぎるわね。少なく見積もってもアルフグラーティの森よりは広いわ。」

クリオが感心したように言った。森の中にいるときの彼女は心なしかリラックスしている様子だった。


食材が安定して確保できる様になった頃、今度は突然の嵐に見舞われた。アルクスがナトゥと協力して土壁で作った住居が崩壊しそうになり、洞窟の中へと逃げ込んだ。

「もし、こんな嵐が定期的にやってくるとしたら相当頑丈な家を作らないといけないな。」
「特別な力を持たない人が住む場所にするなら、安心して住める家は大事だよね。」
「メルドゥースにいた時はそんなことは気にしたことがなかったな。王都から離れていれば不授だからといって困ることも多くはなかったしな。」

アルクスはバルトロ達の何気ない会話に、自分の今やっていることが正しいかどうか悩み始めた。力なき者達の場所と言いつつも、別の力がないと生きていくことができない現状が本当に正しいのか。
 嵐が過ぎ去った後、洞窟の岩山から大きな岩を切り出してより堅固な住居を建設することにした。ここでパルの力と石工の技術が非常に役立った。

やっと住居が落ち着ける様になると、今度は平原の一部を開墾して畑を作り始めた。イルシオの砂漠での生活経験が、乾燥に強い作物の選定に活かされた。

『こうして種をまいて下さい。これは成長が早いので雨季が来る前に芽が出るはずです。』
『この辺りには雨季なんてあるのか?』
『はい、砂漠にはないのですが、いつもこの島だけ雨が降り続ける時期があるんですよ。』
『何か特別な加護でもあるのかな?』
『神に愛された地と呼ぶ人達はいます。ですがこの島から帰って来た人達はほとんどいません。帰って来た人達も口を閉ざしてしまうので、何故この島に残るのか、その理由はわかりませんが。』
『帰ってこなかった方々はどこにいるのでしょうか?』
『わからないです。生きているのかどうかも…』
『俺達の活動している範囲だと人が住んでいる様子はないな。まぁしばらくここにいればわかることもあるだろう。まずは食事と寝床が安心できる様にならないとな。』

皆、イルシオの言葉によりこの島には何かがあると感じたがそれを口にする者はいなかった。

畑に種を植え終わった頃、湖で安定して魚を捕獲することができる様になってきた。保存食なども作る余裕ができてきたため、これで当面の食糧問題は解決した。
 こうして忙しくも充実した日々を過ごす中で、アルクスたちは少しずつ島の環境に適応すると共に、それぞれの心身が鍛えられていった。そしてアルクスは島の中を巡る龍脈を明確に感じ取れるようになっていた。
生活が落ち着き始め、アルクスは仲間達に声をかけた。

『皆、生活も安定してきたし、そろそろこの島がどういった島なのか、確かめて行きたいと思うんだ。森林、湖、平原、洞窟の四つのエリアにそれぞれ龍脈の力が噴き出している場所があるから、まずはそこから調べていきたいと思う。力が噴き出す場所の近くに強力な気配を感じるから、戦いになるかもしれないことは伝えておくよ。』

 全員が頷き、まずは平原にある龍脈の力が吹き出している場所を目指すことにした。
 平原の中央にある高台に近づくにつれ、周囲の空気が変わっていくのを感じた。花々が見事に咲き誇り、生命力に満ち溢れている。

「ここから力が溢れている…」

 アルクスが呟くと、空から何かが降り立った。それは巨大な鳥のような姿をしていたが、全身が光に包まれている。

『急な人間の来訪に島の動物たちが驚いている。もう少し静かにしてもらえないかな。』

 一言だけ言うと、巨鳥はアルクス達に襲いかかってきた。

『この鳥は…もしかして聖獣様?』

ティオが驚きの声を上げる。

『知っているのか、ティオ!?』
『はい、神々から力を授かった獣として昔読んだ古い文献に書かれていました。』
『聖獣でも魔獣でもなんでも、話を聞いてもらうためにはとりあえず無力化しないとどうしようもないぞ!』

聖獣が翼を矢の様に放ち、バルトロがそれを受け止めながら叫んだ。

『無力化って言っても飛んでる相手は難しいよ。アーラとスペルヴィアがいたら…』

アリシアは空を自在に飛び回る聖獣相手に、攻めあぐねていた。

『ここは私に任せて。ニンブス、お願い!』

クリオがニンブスと協力して嵐を巻き起こした。想定外に攻撃に聖獣は動きが鈍る。

『今だ!』

アルクスがナトゥの力を借りて大地を隆起させ、その勢いで高く跳躍して聖獣に斬り付けた。
聖獣が怯んだところにアリシアが短剣を投擲し、そのタイミングに合わせてクリオが聖獣の翼を氷の鎖で縛りつけると動きを止め、地面へと向かって落下した。

『聖獣様、今癒します!』

落下した聖獣にティオが駆けつけると精一杯癒しの力を注いだ。

『聖獣様、手荒な真似をしてしまい申し訳ございません。ですが私達には害意はありません。』

ティオが聖獣に語りかける。
聖獣はしばし黙したのち、ゆっくりと口を開いた。

『害意がないことはわかった。だが、この楽園への突然の来訪者に皆が驚いていることも理解して欲しい。本来は認められた者以外はこの島には立ち入れないはずなんだが、たまに入れてしまうからな…』
『どうしたら認めていただけるのでしょうか?』

アルクスが尋ねると聖獣はニヤリと笑った。

『害意はなくとも君達の実力はわかった。それとそこに自信があることもね。この島に住みたければ、他の聖獣達にも認められればいいさ。これをあげよう。』

 聖獣は光り輝く羽根をアルクスに渡した。

『これを持って、森林、湖、洞窟へ行くといいよ。そうすれば、聖獣達が勝手に出てくるはずだよ。』

傷も癒えたのか、言いたいことを言い終えた聖獣はまた空へと舞い上がっていった。



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