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第4章 天空編

第72話 退却

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 境界を越えるとそこは皆が初めてみる、数多くの竜が生息している見たこともない場所であった。

『まだ気付かれていない様だが、このままここにいるとまずいな。
 一体ですら相手にできるかどうかわからない、慎重に戻るぞ。』

転移した場所から後退するも既に転移してきた境界を越えても元いた場所に戻ることはできなかった。

『一方通行だったか…とりあえず視界が開けていない森の中に入ろう。
 大丈夫、我々は森林戦を得意としている。それに森が破壊されていないところを見ると竜種があの巨体で森の中に入ることはないのだろう。』
 
ヴォルナーの冷静な分析により、一行は森の中へ入り込んだ。
ドクトリアは初めて見る竜達の威容に圧倒されたのか無言だった。

森の中を進むと少し開けた場所があったため、一度休憩と今後の計画を練ることにした。

『恐ろしい程に森の中は静かだな。あの竜達の影響だろうか。』

『あれは龍なんですか?』

『あぁ、あれは竜種に違いない。私も書物で言い伝えを読んだことがあるだけだが間違い無いだろう。
 牙と爪の鋭さや鱗の頑丈さなど並の魔獣とは比べ物にならないという。』

『そうなんですね、私達が知っている龍とは全然違ったので…』

『帝国と王国で言い伝えが違うのだろうか。もしくは別の種族なのか…』

『どちらにしろ、俺はあれと戦うのはごめんだな。命がいくつあっても足らないよ。』

『私も同意見です。戦うには準備も実力も足りないかと。』

アリシアとバルトロもバルトロが守りながらアリシアが撹乱することならできそうだと思っていたが、アルクスがいないと攻撃力に欠けると思い悩ましいところだった。

皆がどうしたものかと悩んでいたところ、急にドクトリアが震え出した。

『す、す、素晴らしい!この島に竜の楽園があったとは!魔獣がいないのはより脅威となる存在がいたからだったのか?そして、ここは一体島のどこにあたるのだろうか…今までの説が塗り替えられる一大発見だぞ!』

急に喋り出したと思ったらまた自分の世界に入り込んでしまい、1人でぶつぶつと何かを喋り続けていた。

『ご依頼主様は元気だねっと。でも生きて帰らないとその発見も台無しですぜ。どうしますかリーダー?』

『そうだな、ここでじっとしていても仕様が無い。一度森を抜けてみよう。それでどこに出るかだな。』

ヴォルナーの提案を受け入れ、自分の世界に没頭しているドクトリアを連れて進んだ。
シュヴァルトとヴァイガーが木の上を跳躍して前方を偵察しつつ、ファルートが更に高いところから視界の狭い森の中や上空を見渡して、グルンが殿を務めあがってきた情報を中央にいるヴォルナーが判断するという陣形で「雷吼狼牙」の面々が森林戦が得意だというのも納得だった。

しばらく森の中を進んでいるとアリシアが再び違和感を感じ取った。

『ちょっと止まって!』

そう言った時には前方で偵察をしていたシュヴァルトとヴァイガーは既に転移したためか見えなくなっていた。

『ごめん、遅かった…多分その辺りに境界があると思う。』

『2人なら大事には至らないと思うが、早めに向かおう。』

ヴォルナー達は駆け出し、境界を越えていった。

『ドクトリアさんは私達が見てるから!』

アリシアとバルトロは「雷吼狼牙」が先に転移していった後、ドクトリアを連れて境界を越えた。


境界を越えると今まであった木々はなくなり、ひらけた場所に出た。

『ここは…』

『ここはアウレアンの南側の街道ですね。島の中央寄りですが、東に真っ直ぐ行けば街まで戻れますよ。』

『そういえばヴォルナーさん達が見当たらないな。』

『別の場所に転移したとか?』

『何かの条件で転移先が切り替わったってことか?細かいことを調べようとなるとアルクスがいないと厳しいな。「雷吼狼牙」の面々は無事だろうか…』

『先程迄いた森とは空気も陽の角度も違いますね。この島ではないどこか別の場所に飛ばされていたのでしょうか …
 「雷吼狼牙」のみなさんでしたら大丈夫でしょう。それなりにベテランと言ってましたし、どこに転移していてもきっと街に戻っていますよ。』

『そう言えばさっきいたのをヴォルナーさんは龍って言ったたね、あんなゴツいのもいるんだね。』

『あぁ、俺達の知っている龍とは違ったな。アーラがいたら話したりすることができたんだろうか。
 だが下手に刺激して境界を越えてこちらの島にやってきても困るし、あまり刺激しない方が良いのかもな。』

3人が話していると街道の西側から歩いてくる人影が見えた。

『ドクトリアさん、この道ってよく人は通るんですか?』

『え?あぁ、この道を通る人なんて滅多にいないですよ。ここから西にあるのは西方監視のための灯台くらいですからね。監視とは言ってもどこかの国が攻めて来ることもないですし、たまに沖で魔獣が出るくらいでしょうか。』

徐々に近づいて来る人影が少しずつ大きくなり、バルトロは警戒のために急に襲われた時に備えて構えた。
だが、突如としてアリシアが走り出した。

『アリシア!?』

急に駆け出したアリシアは人影に向かって抱きついた。

『アルクス、無事だったんだね。良かった!良かったよ、うぅっ、うわー』

アリシアが抱きついたこちらに向かっていた人影はアルクスだった。
そしてアルクスが無事だったこと、アルクスに会えたことに感極まりアリシアは泣き出してしまった。

『アリシア、バルトロ兄さん待たせちゃったみたいでごめん。でも、なんでこんなところに?』

『アウレリアのことを調べておこうと思って色々とな。だが無事で良かった。
 その様子だとクリオも無事だった様だな。』

『えぇ、私のせいで迷惑をかけてごめんなさい。アルクスのお陰でなんとかここまで来れたわ。』

『あの、すいません。こちらのお二方は?』

話に取り残されていたドクトリアは仲間同士の感動の再会中にも関わらず、空気を読まずに話に割り込んで来た。

『あぁ、すいません。この2人はアルクスとクリオ。逸れていた俺達の仲間です。』

『あのクラーケンとの戦いで逸れたという仲間でしたか。しかし海の悪魔とも言われるクラーケンと戦って、海に落ちて尚生き延びるとは…』

『立ち話もなんですし、街に向かいませんか?この街道を進んで行けば街に辿り着けるんですよね?』

『そういえば君達はどこから来た…いや、街に戻ってからゆっくり話すとしましょう。』

一同は街道を東に向かいアウレアンへと戻った。
その間、アリシアは泣き止んだ後もアルクスにしがみついていたため、道中ずっと抱えていることになった。



『ここがアウレアン…海に面している巨大な港町みたいな国ですね。城はあるものの、城壁などの防衛に必要なものは見当たらないですね。』

『えぇ、陸地側から攻めてくる魔獣がいないですからね。まずは食事にでもしましょうか。
 「海猫のとまり木亭」という宿の食堂がとても美味しいんですよ。
 無事であれば彼らもここにいると思うのですが…』

「海猫のとまり木亭」へと入ると胃袋を刺激する香りが漂ってきた。
ドクトリアが奥へと向かうとそこには既に先客がいた。

『ドクトリアさんご無事でしたか、良かった。
 そこにいるのは…久しぶりだな、アルクス。元気にしていたか?』

『え、ヴォルナーさん!?』

アルクスは急な「雷吼狼牙」の出会いに驚きを隠せない様子だった。
バルトロはその様子を珍しくニヤニヤとした顔で見守っていた。

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