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第3章 連邦編

第39話 農村

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洞窟を出るとそこは知らない土地であった。
プロウィスさんの話だと連邦の南方の国みたいだけど。

今出てきた洞窟では本当に元の場所に戻れないかを試してみたけれど、痕跡はどこにも残っていなかった。
空間術の転移を使って戻れそうか龍脈を辿ってみたが、元いた場所を辿ることはできなかった。

そして洞窟の奥からはたまに低く響く唸り声が聞こえてくるため、まだ見ぬ恐ろしい魔獣と遭遇するのは適切ではないとして早々に北へ向かうことにした。

「アルクス、龍脈の位置ってどこにあるかわかる?私と兄さんは龍脈があれば力を使うことができるけど、目で見てもどこにあるのかはわからないの。できるだけ龍脈の上を旅した方が良いと思うけど。」

急にアリシアから龍脈の位置を聞かれて思ったが、確かに僕達は龍脈が通っている場所を旅するのが全力が出せて一番安全な気がする。

「そうだね。精霊の可視化をした時みたいに龍脈の力を目に集中すれば見えるかもしれない。
 ちょっと試してみようか。」

そうして目に力を集中してみると周囲に微かな光が稀に見えた。
小さな精霊だろうか。
更に集中して足元を見てみると、ぼんやりとした光が立ちのぼっている様に見える。

「うん、これなら見えそうだ。でも僕の力が弱いのか龍脈が細いのか、ぼんやりとしか見えない。ちゃんと定期的に龍脈の上を歩いているか確認しないとね。」
「良かった。とりあえず北の方に向かっているけど、どこを目指そうか?」

現在地の細かい場所はわからなかったが、地図に書かれている山らしきものが見えるため、大体の位置と龍脈の光が繋がっている方向を見比べて、まずは道なりに進んであの山を越えることを目指すことにしよう。

「とりあえずこのままこの道を進んで、あの山を越えようか。」
「人里があると良いけど…」
「今来た洞窟も探索者が入った形跡もあまりなかったし、探索者協会も近くにはないかもな。」

バルトロ兄さんの指摘で、他の国にも探索者協会があることを思い出した。
確かに協会があれば情報収集もしやすそうだ。

「地図のこの辺りの港町まで行けたら商会の支店があるはず。
 そこでも色々話は聞けるかも。」
「おじさん、手広くやってるんだね。」

今後の方針など話ながら道という言葉が適切かわからないが、龍脈の上を歩いていく。
道中王国では見たことがない動く樹木があった。
蔓を巻きつけてこようとしたので斬り払うも、なかなかしつこかった。
動きが早いわけではなかったのでバルトロ兄さんが力を込めて斬りかかると簡単に両断できて動かなくなった。

「今のところ闘気でも十分戦えそうだな。」
「どんな敵がいるかわからないから油断しない方が良いけど、闘気も上達させておかないといざという時に困りそうだね。」
「先は長いしあんまり考え過ぎないでいこうよ。今日は闘気の日とか今日は龍脈の力の日とか決めて交代で使ってみるとか?」
「そうだね。あと龍脈の力って言いにくくないかな?闘気と使い分けるのだから龍気でどうかな。」
「確かに言いやすいな。」
「じゃあ決定ね!私達メルドゥースにいた時は何もできなかったけど、この1,2年で闘気を教わったり、龍気を使える様になったり目まぐるしい感じだね。」
「あぁ、アルクスさまさまだな。」
「僕なんてもっと目まぐるしいよ。この旅が終わったら、どこか落ち着ける場所を見つけてのんびり暮らしたいなって思うよ。」

そうして、道中他にも様々な魔獣や動く植物が現れたが難なく倒して進むことができた。
魔獣は解体して龍珠の中に入れることで食料には困らなかったのは僥倖だった。

数日かけて最初に目指していた山を越えると一面の麦畑らしきものが見えてきた。

「すごい…!」
「人里が近いのは確実ね。」
「この辺りは農業が盛んみたいだな。」

山を降り、麦畑の横を歩く。

「この国独自の料理とか色々食べてみたいな。」
「そうね、材料が同じなら帰ってからも食べれるしね。」
「将来は各地で食べた世界中の料理が食べれる店とか開いても良いかもな。」
「兄さん料理できたっけ?」
「アルクスに任せるさ。」

民家はあまり見当たらなかったが、農作業をしている人がいた。
この辺りは王国と同じ人族がいる様子だった。
とりあえず連邦で使われている言葉で通じるだろうかと思い、話しかけてみた。

『すいません、この辺りは連邦のどの辺りでしょうか?』
『お前さん達どこから来なさった。ここはアグリクルじゃよ、連邦の一番南じゃな。』

少し独特の発音だが、なんとか聞き取ることができた。
バルトロ兄さんとアリシアはポカンとしているからおそらくわかっていないのだろう。

『北の方へ向かっているのですが、この辺りに宿などありますでしょうか?』
『この辺りにそんなものはないさ。外から人が来るなんて珍しい、どうだうちへ泊まって行かないか?外の話を聞かせて欲しい。』
『本当ですか、ありがとうございます!』
「宿が近くにないか聞いてみたら泊まって行けだって。」
「おぉ、それは助かるな。道中で狩った獣の肉なんかお礼になるだろうか?」
「そうね、それで駄目だったら商会から持ってきたものとかで何かお礼になると良いけど。」

2人はすぐに泊めてくれるお礼を考え出した。
辺境の頃の習慣か、礼には礼をもって返すのが癖になっているようだ。

家まで辿り着くと、木造の大きな家だった。
『大したものはないですが、ゆっくりしてください。』

そう言って出されたお茶を一口飲んでみると飲んだことのない、スッキリとした味わいだった。
「王国では飲んだことがない味だ。」
「これ、たまに輸入して飲んだことあるよ!美味しいんだよね。」
「あぁ、そんなに量が入ってこないから一部のお得意様にだけ卸していたんだよな。」
2人は飲んだことがあるみたいだった。

『ありがとうございます。お礼になるかわからないのですが、ここに来る途中で狩った獣の肉です。』
『おぉ、これはありがたい。この辺りだと川で魚は捕れるのですが、魔獣を狩れる者もあまりいなく、家畜を食料にするのも難しいので助かります。』

その晩、近隣の住民も集まり、提供した肉は大変喜ばれた。
この地域の料理と一緒に、王国の辺境の料理や帝国の料理など僕らも色々作ったのでちょっとした宴になった。
バルトロ兄さんとアリシアは言葉はまだわからないながらも、身振り手振りでなんとなく意思疎通はできている様子だった。

話を聞くに連邦では構成する国家ごとに得意な分野が違うとのことだった。
今いるアグリクルは連邦の最南端で農作物の生産や加工が主な産業の国らしい。
国の南側で生産が盛んで、北側に行くと加工専門の街があるとのことだった。


調和を大事にするという思想の下で、複数の国家間で支え合っているのだろうか。
今は上手くいっているみたいだけど、1つが欠けたら崩れていきそうな気もするけど…


連邦の加工技術は素晴らしく、簡単なものならここでも作れると麦から様々な種類のパンや麺、菓子が作られていた。
獣の肉を食べるのは久しぶりらしく、普段は豆や乳を加工したものをよく食べているらしい。
自分達で麦から酒を作るのが娯楽らしく、各家ごとに美味い酒を作るのを競いあっているとのことだった。
「そういえばアルクスは酒は飲めるのか?」
酒の話を聞いているとバルトロ兄さんが酒を飲みながら聞いてきた。

「僕は酒は苦手かな。教会ではたまに葡萄酒が振る舞われていたから一口だけもらったことがあるけど、美味しくなかった。飲むとしても大人になってからでいいよ。」

「私もお酒は苦手。兄さんがそんなに飲む理由がわからないよ。」
アリシアも僕と同じように苦手らしかった。

「酒が美味いのもあるが、皆で酒を飲むということが楽しくて美味いんだ。
 まぁ、いずれわかる日がくるさ。」
バルトロ兄さんは少し大人ぶってまた他の人達と盃を交わし始めた。

「それにしても王都では見たことがないものが多いね。言葉も違うし、違う国に来たんだなって実感したよ。」
「そうね。メルドゥースは商会があったから他の国から輸入したものとかもあったし、知った気になっていたけど、やっぱり現地で見ると全然違うなって思うよ。違う文化の一部だけ見て知った気になってたなって反省してる。」
「そうだね、僕も本で読んだ知識だけじゃなく、自分で体験してやっとわかる気がするよ。」
アリシアも喋る割に自分の考えとかはあまり言わないから、異国に来て少し感傷的になっているんだろうか。

アリシアと色々なものを見比べていると王国から輸入されているらしいものも多くあるが、この国の独自性が出た加工がなされているものが多い。
自分達でゼロから作らなくても、他の人が作ったものを自分達なりに作り変えて付加価値をつけて売っているという話も面白いかった。
あまりそういう商売をしている店を知らなかったので勉強になる。
連邦の他の国では帝国が戦いで破壊したものを引き取り、作り直して売るなどという再生・加工が主な産業の国もあるらしかった。
自分達ができることで商売をするのも楽しいかもと思えた。
 
そうして夜は更けていった。
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