22 / 54
22
しおりを挟む
庭先をやはり心地の良い風が通り過ぎていった。爽やかな風は鬼の話をするような雰囲気とはかけ離れていて、鬼がいるといったさくらさんの顔はとても静かで穏やかで、やはりきれいだと思った。
「昔、このあたりには鬼がいたそうです」
「伝説、ですか。そんな昔話がここにあったとは。こんなにも穏やかな場所には似合いませんね」
「そうですか?」
「ええ。さくらさんはその昔話、信じていらっしゃるんですか?」
さくらさんは「そうですね」と言って言葉を切り「信じるというより……信じたいじゃありませんか」と静かに微笑んで鬼の伝説を語り始めた。
「鬼は人が住むよりずっと昔からここにいたそうで、山や大地とともに暮らしていたそうです。月日は流れ、いつしか人間がこの山にやってくるようになりました。鬼は人間にたいそう興味を持ち近付いていきました」
「ああ。そういう昔話はきいたことがあります。だいたい最後は悲しい結果に……泣いた赤鬼とか……ちなみにここの鬼は何色だったんでしょうね」
「色、ですか」
さくらさんは少し驚いたような顔をして俺を見た。いっけね。おかしなこと言っちまったかな……。
「ええと……ほら、赤とか青とか……緑とか?」
「さて……白、かもしれませんよ」
白……。俺はさくらさんの透き通るような肌をみた。
「む、むら、びとはびっくりしたでしょうね。そんな白くてきれいな鬼がやってきたら」
「きれい?」
「あ、いや、その……な、なにを言ってるんでしょうね俺は……」
「さくら やっぱりこいつ変だぞ 変な頭だし 変な顔してるし 顔の色も赤くなったり青くなったりしてる」
あらかた菓子を食べつくしたがきんちょが、挙動が怪しくなった俺を警戒しながらも、そろりそろりとさくらさんの脇へやってきて膝に頬杖をつく。
ボウズ……いや、がきんちょよ。がきんちょの特権だと思いやがって……少しは遠慮しろ。いやいや俺はうらやましいとは断じて思ってなんて……思わん!
「すっごいおおぐらいでなんでも食べちゃう鬼なんだぞ。父ちゃんと母ちゃんにきいたことある。おくまがいったとおり、早く帰らないとおまえも食べられちゃうかもしれないぞ」
膝に陣取ったがきんちょは、上目使いに俺に宣戦布告でもしているのか可愛い顔をしながら、微塵も可愛くないことを言う。
「これ。お客様に失礼ですよ。脅かしてどうするんですか」
「ほんとのことだもん」
上から降ってきた咎める声に、がきんちょは不貞腐れたように、それでもその居心地のよい膝から離れず頭をのせたまま背中を丸めた。
「すみません。いつまで経ってもこどものままで」
「あ、いえ。子供ってそういうもんですよ」
俺は子供がどういうものかはとんと知らなかったがそういうことにしておいた。
「しかし、おおぐらいの鬼とは穏やかではありませんね。いったい何を食べていたんだか」
「なんでもです。そこらじゅうのなんでも」
「それは……人間も?」
「ええ」
「はは。それは恐ろしい……」
「人間が現れてからは、人にまつわるものを一番多く食べていたかもしれませんね」
静かに言葉を紡いださくらさんは俺を見た。静かに微笑んでいるような顔はどこか悲しげにも思えその瞳は庭にふりそそぐ光を受けてか薄く光をはらんでいるようにも見えた。
「昔、このあたりには鬼がいたそうです」
「伝説、ですか。そんな昔話がここにあったとは。こんなにも穏やかな場所には似合いませんね」
「そうですか?」
「ええ。さくらさんはその昔話、信じていらっしゃるんですか?」
さくらさんは「そうですね」と言って言葉を切り「信じるというより……信じたいじゃありませんか」と静かに微笑んで鬼の伝説を語り始めた。
「鬼は人が住むよりずっと昔からここにいたそうで、山や大地とともに暮らしていたそうです。月日は流れ、いつしか人間がこの山にやってくるようになりました。鬼は人間にたいそう興味を持ち近付いていきました」
「ああ。そういう昔話はきいたことがあります。だいたい最後は悲しい結果に……泣いた赤鬼とか……ちなみにここの鬼は何色だったんでしょうね」
「色、ですか」
さくらさんは少し驚いたような顔をして俺を見た。いっけね。おかしなこと言っちまったかな……。
「ええと……ほら、赤とか青とか……緑とか?」
「さて……白、かもしれませんよ」
白……。俺はさくらさんの透き通るような肌をみた。
「む、むら、びとはびっくりしたでしょうね。そんな白くてきれいな鬼がやってきたら」
「きれい?」
「あ、いや、その……な、なにを言ってるんでしょうね俺は……」
「さくら やっぱりこいつ変だぞ 変な頭だし 変な顔してるし 顔の色も赤くなったり青くなったりしてる」
あらかた菓子を食べつくしたがきんちょが、挙動が怪しくなった俺を警戒しながらも、そろりそろりとさくらさんの脇へやってきて膝に頬杖をつく。
ボウズ……いや、がきんちょよ。がきんちょの特権だと思いやがって……少しは遠慮しろ。いやいや俺はうらやましいとは断じて思ってなんて……思わん!
「すっごいおおぐらいでなんでも食べちゃう鬼なんだぞ。父ちゃんと母ちゃんにきいたことある。おくまがいったとおり、早く帰らないとおまえも食べられちゃうかもしれないぞ」
膝に陣取ったがきんちょは、上目使いに俺に宣戦布告でもしているのか可愛い顔をしながら、微塵も可愛くないことを言う。
「これ。お客様に失礼ですよ。脅かしてどうするんですか」
「ほんとのことだもん」
上から降ってきた咎める声に、がきんちょは不貞腐れたように、それでもその居心地のよい膝から離れず頭をのせたまま背中を丸めた。
「すみません。いつまで経ってもこどものままで」
「あ、いえ。子供ってそういうもんですよ」
俺は子供がどういうものかはとんと知らなかったがそういうことにしておいた。
「しかし、おおぐらいの鬼とは穏やかではありませんね。いったい何を食べていたんだか」
「なんでもです。そこらじゅうのなんでも」
「それは……人間も?」
「ええ」
「はは。それは恐ろしい……」
「人間が現れてからは、人にまつわるものを一番多く食べていたかもしれませんね」
静かに言葉を紡いださくらさんは俺を見た。静かに微笑んでいるような顔はどこか悲しげにも思えその瞳は庭にふりそそぐ光を受けてか薄く光をはらんでいるようにも見えた。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる