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Ch.1
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天候に恵まれた墨堤公園は、3月の暖かな陽射しの中盛況なイベントの様子が隅田川の風に運ばれ野生司たちのところまで聞えて来る。うららかな雰囲気まで運ばれてくるようで、野生司の隣の羽田はしまりのない顔でうたたねでもしそうな勢いである。職務中にこんな顔をしていても警察官として更新していけるのかと、わずかな疑念と実際それをクリアしてここに座る先輩の姿に疑念と同じ、やや上、くらいの尊敬をこめて眺めた。受付機に視線を戻せば、今日の日付が目に入る。警察官となって2年目の今年、初めての更新時期を迎える自分は、この先警察官として歩んでいけるのかとふと思う。
私は日々、生活安全課として地域の皆様の安全を守るために真面目に勤めています。こうして交通課の応援もしっかりやっています。警察官としての誇りを持ち、この先も社会の安心安全の為、全力で任務にあたります!だから、だから、ちゃんと仕事しているところ見ていて下さい!!
祈りにも似た思いで野生司は、天井のカメラを見た。カメラのレンズの奥、人間でいうところの目と、自分の目が合った気がした。この東京において、そこかしこに無数に設置されているカメラは文字通り首都の目であり、それを統べる首都を管理する中央AIの感覚器のひとつだと野生司は説明を聞いた。
「よー!のーすー、なに見てんの?」
呼ばれてはっと我に返れば、受付機の前にいかにもわんぱくそうな少年が立っていた。少年は生意気そうにも見えた。実際、羽田曰く、生意気だった。
「誰がのーすーだよ、バカタレ。ちゃんと“さん付け”しなさい!」
少年の後ろには黒髪を一つにまとめてアップにした大人が、これでもかと少年の頭をぐりぐりと押さえつけながら頭を下げさせる。
「いて!痛い!痛いって、かあちゃん!」
よほど母の力は強いのか、うぎぎぎ……と食いしばった歯の間から音が出そうなほど力を込めて野生司の顔を見上げる。
「の、のーすー、見て、かあちゃん虐待してくる!これ、DVだろ」
「バカなこと言う口はこの口か」
こどもから出た言葉に憤慨した彼女は、押さえつけていた手を話すと、今度は両のほっぺたを背後から左右へ引っ張る。
『わあ、鶯太くん、以外にほっぺた伸びるんだー』
自分が天井のカメラに人知れず祈りを捧げていたところを目撃された恥ずかしさは吹き飛び、この親子のいつもながらのやり取りに見当違いの感想を心の中で呟く。
「いへへへへへへ!いへい(痛い)!」
「野生司さん、聞いてくださいよ、この子、この前自転車道じゃなくて車道を走って見つかって減点されて。自転車資格停止されたんですよ。ほっっっんよ、バカでしょー」
「えー、なんとまぁ……」
「それはおバカだな」
「ちょっと先輩、言い方!」
「いいんですよ、ほんとのことだから」
伸ばして戻して伸ばして戻して、ほっぺたのストレッチのあとは両手で頬をホールドし、暴れる息子を軽くいなしながら、母はからからと笑う。
「さすが商店街代表、さっぱりしてるところが素敵」
羽田は母の手に挟まれた鶯太のほっぺたをぷにぷにしながら母への賛辞を述べた。
『あ、いいなーぷにぷに……じゃなくって』
「お母さん、鶯太くん受付しますね!IDはどこにありますか?」
「ほら、鶯太」
ほっぺたをはさまれたまま、鶯太はIDが登録された腕時計を素直に受付機にかざした。そこでようやくほっぺたは解放された。野生司と鶯太たちの前に、宙へ投影された画面が広がる。ポップアップされた “しばらくお待ちください” を見て、懲りない鶯太は「しばらくってどれくらい?1秒?地球が何億分のいちまわったぐらい?教えておまわりさん」と、にやにやしながら羽田に質問する。瞬間、羽田があからさまに面倒臭いと無言の表情を返したので、その質問は諦めた。
私は日々、生活安全課として地域の皆様の安全を守るために真面目に勤めています。こうして交通課の応援もしっかりやっています。警察官としての誇りを持ち、この先も社会の安心安全の為、全力で任務にあたります!だから、だから、ちゃんと仕事しているところ見ていて下さい!!
祈りにも似た思いで野生司は、天井のカメラを見た。カメラのレンズの奥、人間でいうところの目と、自分の目が合った気がした。この東京において、そこかしこに無数に設置されているカメラは文字通り首都の目であり、それを統べる首都を管理する中央AIの感覚器のひとつだと野生司は説明を聞いた。
「よー!のーすー、なに見てんの?」
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「いて!痛い!痛いって、かあちゃん!」
よほど母の力は強いのか、うぎぎぎ……と食いしばった歯の間から音が出そうなほど力を込めて野生司の顔を見上げる。
「の、のーすー、見て、かあちゃん虐待してくる!これ、DVだろ」
「バカなこと言う口はこの口か」
こどもから出た言葉に憤慨した彼女は、押さえつけていた手を話すと、今度は両のほっぺたを背後から左右へ引っ張る。
『わあ、鶯太くん、以外にほっぺた伸びるんだー』
自分が天井のカメラに人知れず祈りを捧げていたところを目撃された恥ずかしさは吹き飛び、この親子のいつもながらのやり取りに見当違いの感想を心の中で呟く。
「いへへへへへへ!いへい(痛い)!」
「野生司さん、聞いてくださいよ、この子、この前自転車道じゃなくて車道を走って見つかって減点されて。自転車資格停止されたんですよ。ほっっっんよ、バカでしょー」
「えー、なんとまぁ……」
「それはおバカだな」
「ちょっと先輩、言い方!」
「いいんですよ、ほんとのことだから」
伸ばして戻して伸ばして戻して、ほっぺたのストレッチのあとは両手で頬をホールドし、暴れる息子を軽くいなしながら、母はからからと笑う。
「さすが商店街代表、さっぱりしてるところが素敵」
羽田は母の手に挟まれた鶯太のほっぺたをぷにぷにしながら母への賛辞を述べた。
『あ、いいなーぷにぷに……じゃなくって』
「お母さん、鶯太くん受付しますね!IDはどこにありますか?」
「ほら、鶯太」
ほっぺたをはさまれたまま、鶯太はIDが登録された腕時計を素直に受付機にかざした。そこでようやくほっぺたは解放された。野生司と鶯太たちの前に、宙へ投影された画面が広がる。ポップアップされた “しばらくお待ちください” を見て、懲りない鶯太は「しばらくってどれくらい?1秒?地球が何億分のいちまわったぐらい?教えておまわりさん」と、にやにやしながら羽田に質問する。瞬間、羽田があからさまに面倒臭いと無言の表情を返したので、その質問は諦めた。
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