17 / 25
明けない夜はない。と言うが、一文字目の朝はまだこない。
しおりを挟むパンが焼けた匂いがする。パンの焼ける匂いって、なんだってこんなにいい匂いなんだろう。パンにバターぬってキュウリをはさ……? ああ。俺は思う。パンにはさむならキュウリよりレタスのほうが美味い気がするよ、オスカー・ワイルド。んでもって、ハムもはさんでタンパク質もとる。キュウリサンドがステータスって19世紀のイギリスならではだよなあ。
ほんと、真面目が肝心だよ。俺は真面目だよ? あー……ねみぃ……。
「父ちゃん。父ちゃん! サンドイッチ落ちるよ!(頭も落ちそう!)」
モジャ頭が肩にのりそうなほど傾いた状態で、自分の朝ごはんをふらふらと持っている父親に鷲治良が声をかける。半分どころかほとんど眠ったままのように見える。頭は落ちそうだし、目玉も開いてるのかすら疑わしい。
よくそれで見えるなあ。それとも見えてなくても動けるのかな。父ちゃんすごい。実はイルカみたいに頭が触覚の変わりなのかも……本当に宇宙人?
「どうしたの。父ちゃん。すごいくまだけど。執筆活動でかんてつなの?」
「貫徹ってお前、よくそんな言葉知ってるなぁ」
「作家さんたちはかんてつがデフォルトだって」
「そっかあ。そうだよなぁ。父ちゃん、作家だもんなぁ」
結局昨夜は作品の一文字も書けてはいないが。
一文字もかけないまま、朝来ちゃったけど。俺的夜は明けてない。一文字目の朝が遠い……。
綺羅との電話の後、プロフィール欄のヘルプを探すのに時間がかかり、なんとか見つけてプロフィール欄を書き始めたが、自分をアピールするための欄として、どうアピールするのかを熟考熟慮した結果『帽子屋です。でも帽子は作ってません。小説を書くことにしました』と書いた。
書いて、眺めてみた。
……意味、わかんなくね? これってプロフィール? 世間の皆様に広く強く訴えたり、引き付ける魅力ある?
ずーんと頭に突如のしかかる重力、自分の文才に深く重い何かを感じたが
La semplicità è la suprema sofisticazione.
ダヴィンチも
Brevity is the soul of wit.
シェイクスピアも
言ってただろ! シンプルイズベスト! ひとまずこれでよし!
甚だ偉人に失礼な、シンプルと言うより事の真髄を欠いた超粗雑な簡略解釈でプロフィール欄を更新した。よし、と一歩進んだことで気合を入れ直し、さあいざ、小説を書こう! といろいろ気になるボタンはいくつもあったが、兎にも角にも[新規小説]ボタンを押して小説作成ページへと進んだ。が、表示された画面からは[タイトル][サブタイトル][本文][前書き][後書き]と想像以上に複数の入力欄が目に飛び込んできた。
え? これ、全部埋めなきゃだめなわけ?
モジャ頭をもぞもぞさせガラケーに手を伸ばしたが、はたと冷たい綺羅の声が脳裏を過ぎった。エアコンつけてせっかくあったまったのに、バケツどころか巨大な盥で北極の海水を浴びせられたかのような声。モジャ頭はのばしかけた手を止め、[マニュアル]をクリックし、ヘルプにヘルプミー(自作)の歌をうたいながら上から順次読み進めていくことにした。そして気付けば、キッチンから焼きたてパンのかぐわしい香りが自分を呼んでいた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
そんなふうに見つめないで…デッサンのモデルになると義父はハイエナのように吸い付く。全身が熱くなる嫁の私。
マッキーの世界
大衆娯楽
義父の趣味は絵を描くこと。
自然を描いたり、人物像を描くことが好き。
「舞さん。一つ頼みがあるんだがね」と嫁の私に声をかけてきた。
「はい、なんでしょうか?」
「デッサンをしたいんだが、モデルになってくれないか?」
「え?私がですか?」
「ああ、
お父さん!義父を介護しに行ったら押し倒されてしまったけど・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
今年で64歳になる義父が体調を崩したので、実家へ介護に行くことになりました。
「お父さん、大丈夫ですか?」
「自分ではちょっと起きれそうにないんだ」
「じゃあ私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる