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教訓はユーザー登録の前に
しおりを挟むノートパソコンの電源断絶による、小説投稿サイト、どころかメールアドレス新規取得の登録途絶の教訓。
一、 ノートパソコンの電源コードは常時接続。電源コードの差し込み及び電源が供給されていることを指差し確認すべし。
二、登録するメールアドレスは事前に準備した上で、ログイン及び送受信が可能かを確認すべし。
三、新規メールアドレス登録は、メールアドレスとして取得したいワードの候補を何個か出しておくこと。オリジナリティに自信があっても意外にすでに使われていることが多いので注意すべし。10個くらい用意したらなんとかなると思う。べし。
いや、待てよ。二の前に三か……。あ、いや、延長ケーブルの準備も必要だった。
電源コードをさしたはいいが、ちょっと壁の電源から炬燵の上までは遠かったようで、ピンとはったケーブルが、トラップかゴム段初級かリンボダンス超絶びっくり人間級かという状況になった。しばし考えたが、自分は回避できるとして(根拠がないことにも気付いていない自信)家庭内トラップは危険であると判断したため、延長ケーブルを探して接続し「これでよし。問題なし」と、ようやくあらためて炬燵にもぐりこんだ。
そして再起動したノートパソコンでテキストエディタをひらき “教訓メモ” を書き記しているモジャモジャは、小説家への道のり以前のどうでもよいことで道草を食っていた。そして道草食っていることにすら気付いていない始末である。“教訓メモ” の順序入替えと追加したメモを読み直し、満足したところで玄関ドアが開く音と「ただいまー」と聴こえてきた。続いて「超いいにおいがするー」と声が近付いて来る。
「父ちゃん?」
帰宅した鷲治良が『超いいにおい』が漂うリビングに入ると、頭にタオルを巻いた父が炬燵と一体化し、なにかに満足したようすで頷いている。
「なにしてるの?」
「おー。鷲治良、おかえり」
「ただいま。で、父ちゃんなにしてるの?」
「父ちゃんはな、今、まさに小説家になろうとしている」
「父ちゃんすごいじゃん!」
「そうだろう。そうだろう」
上着ごとランドセルをおろし手提げともどもその場に置いてノートパソコンをのぞこうとした鷲治良を鳩作は頷きながらも制す。
「ダメだ。上着をちゃんと掛けて、うがい手洗いが先! うがいはアズレンいれて、手は石鹸で指先から肘の手前までしっかり洗え! そうじゃないと、小説家への扉を開く瞬間どころか、おやつのスイートポテトもお預けだ」
「わかった! 待ってて!」
数分後。用意されたスイートポテトを「すっごいおいしい!」と頬張る鷲治良を脇に置き「そうだろう。そうだろう」と頷きながら再度【ベコメ】のユーザ登録画面に進む。
関門① ユーザ登録[メール認証] にようやく先ほど取得できた真新しいメールアドレスを入力。送信ボタンを押す。
よし! ここまでは、順当だ。
関門② 送受信テスト済み、そしてログイン済みの[メール認証]に記載したメールの受信箱を開く。
おお! きた! きたぞ! 新たな一歩だ! サイトからのご案内メール受信成功!
関門③ ご案内メールに記載されたURLをクリックだ!
おお! 初めましてユーザ登録画面!
「見ろ! 鷲治良! これが小説家への第一歩。ユーザーネームとはペンネームだ!」
「ペンネーム、考えたの? 何にするの?」
「これはな、実名はダメなんだと。父ちゃん、お前たちをネット犯罪被害者にするわけにいかないからな。考えたよ」
「だってペンネームでしょ? 芸名みたいなもんでしょ?」
「なんだ、鷲治良、お前まで……」
「どうしたの? 父ちゃんの分、あるんでしょ?」
突然丸まった頭を落とした原因は、自分がほくほくと食べているスイートポテトかと鷲治良はちょっと心配になった。
「違う。俺が凹んだのは芋じゃない。って言うか、芋は山ほどあるから気にするな。食え」
「うん。じゃ、食べる。で、ペンネームは?」
「帽子屋だ」
「ボウシ? なんで?」
ちらりとターバン巻きのタオル頭を見る。乾いてきたのだろうか。さっきより少し膨らんでいる気がする。
「帽子屋好きだから」
「父ちゃん、帽子作ってないじゃん」
「いいの」
「ボウシはいら……」
「いいの」
「うん。父ちゃんがいいならいいか」
出来る息子鷲治良は自分をじっと見つめる父親の目に、喉まで出かかった言葉をなめらかに裏ごしされた芋と一緒に飲み込んだあと賛同の笑顔を浮かべた。父はそれに声を出さずウンウンと何度も頷いた。
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