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妹を犠牲にした公爵①

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 この国には七大公爵家と呼ばれる家がある。

 〝王家の血は貴い〟とされる我が国で、姉妹と情を交わしたく無かった王子が二人、王位継承権を放棄し爵位を授けられた事が公爵家の始まりだ。

 我が国の始まりの公爵家はイフェイオン家とイキシア家。

 歴代の王の子が臣籍降下した際に叙爵され七家にまで増えた公爵家だが、叙爵された順に王家に〝貴い血を引く娘〟を嫁がせると王家と公爵家の間でがあった。

 実の兄弟姉妹で情を交わすよりは従兄妹の方がとされたのだ──公爵家の者は血縁関係のない伯爵家以上の家から娶り様にしたそうだ。

 なぜなら貴い王家の血は死産が多く、無事に産まれても二十歳まで生き残る子は二、三人居れば奇跡と言われるまで短命だったそうだ。

 国の正式な記録に遺されていないが、奇形児もよく産まれたのだと我が家の初代当主が遺した手記には記されていた。
 





 私はマンフリッド・イキシア。
 イキシア公爵家の当主で外務大臣をしている。

 本当は政治になんて関わりたくないのだけど、妹と甥の為、家の為、そして己の罪の為にしている様なものだ。

 妹が甥を授かる事になってしまった責任の一端を担っているからだ。




 十五年前、先王陛下がイキシア公爵家、スパラシス公爵家、オーニソガラム侯爵家の各当主夫妻と嫡男、我が家は何故か妹まで陛下の執務室まで呼び出された。

 理由は妹の婚約者について。

 “運命の恋人”だと女に溺れ、婚約者を蔑ろにしている我が国の王太子。

 先王陛下は“王家の貴い血”の為に妹に子を産んで欲しいと頭を下げた。

 誠意を持って妹に提案しているが〘 王命 〙だ。
 
 妹に否はない。

 うちの親よりも早く、スパラシス公爵夫人が先王陛下に怒ってくれた。




 妹は幼い頃からの婚約者を好きになろうと努力はしていた。
 
 妹の婚約者が運命の恋人が出来たと態々妹に報告に邸に来た日、妹の心が折れた。

 悪びれも無く侍女達が居る前で初恋なのだと、なのだとデレデレ(報告してくれた侍女の話では鼻の下まで伸びていたそうだ)に惚気けたそうだ──妹は部屋に戻り、人払いをし泣き崩れていた『お兄様、わたくし、夫になる人だから、きらいに、ならないように、、頑張って好きに、なろうとしました・・・・・・いま、までの、わたくし、の、ど、どりょくは──』泣いている妹を抱きしめ頭をなでながら 妹の話を聞いていた私は、王太子を直ぐにでも殴りに行きたかった。

 相手が王太子であり不敬だろうが構うものか。未来の国母だから完璧な淑女であれと、王妃教育を頑張ってきた。
 
 王妃教育が辛くてよく部屋で泣いているのを両親も私も知っている。

 妹は家族に心配させまいと私室以外では常に笑顔だった。実際、婚約者が恋人が出来たと言いに来た日も妹は私室で一人になるまで泣かなかった。いや、泣けなかったのだろう。

 妹は王妃教育の賜物か弱音を言わない子だった。
 両親も私も寂しかったが“王太子の婚約者”は私達が思う以上に妹を追い詰めていた。
 支えになるはずの婚約者に頼れないのも辛かっただろう。

 貴族なのだから、何れは家の都合で婚姻する。だけど穏やかに恙無く暮らしたいから、夫となる人を好きになりたいのと婚約が決まる前に話していた妹。

 婚約者王太子の何処か良い所を探し、一生懸命好意を抱こうとしていた妹に貴族の結婚は契約だ。嫡男を産んだ後に恋をしたらいいと諭せれば良かったのに──妹の嫁ぎ先は王家。
 後継を産んだ後に恋など出来るはずも無い。
 国母となる妹は王家という鳥籠に閉じ込められるのだ。

 歴代の王妃は公爵家から輿入れしていた。
 貴き血が王家に戻るとされていたからだ。
 次はイキシア家のだった。


 王や王太子は側妃も愛妾も持てる。

 だが妃に配慮して婚姻から三年後からが今迄の慣例だったし、貴き血を引く公爵家の娘に配慮し愛妾は持っても側妃を持つ王は居なかった。

 まだ婚約者でしかない妹に運命の恋人を側妃にしたいから協力しろとは女に溺れて頭の中が可笑しくなっているにしても、王太子として話にならない。

 男爵令嬢と恋仲だと? 

 どうせ生娘だった女の身体に溺れているんだろう。 王太子は最近娼館に行ってないらしいから。婚姻前の遊びにしても隠そうともしない──奴の側近も王太子主人を諌めないのだから次代の我が国は終わるな。



 先王陛下と公爵夫人の兄妹喧嘩の最中、思わず妹に訪ねてしまった『殿下にエスコートされるのも鳥肌がたつのに子を産むなんて大丈夫か?』と──間が悪く、小声だった筈なのに思いの外響いてしまった私の質問は部屋に居た全員の耳に届いてしまっていた。

 妹は『わたくしも貴族の娘ですもの・・・・・・。子が出来るまで我慢しますわ』と答えた妹は凛としていて──何故か泣きたくなった。

 「鳥肌が立つ程とは・・・・・・。 何かされたのかしら?  今、そこに居る男性は王ではなく わたくしの兄です。 言いにくいとは思うけれど?」

 同じ公爵家ですし──ふふふ。と元王女である公爵夫人の圧で話さなければならない状況になり、私から伝える事にした。

 「──先日、邸に先触れも無く訪れました殿下は妹に『フィアー、私に恋人が出来たんだ。 私の初恋なんだ。 彼女は私の運命なんだ! 私は人生で今一番幸せなんだ!』と、侍女の報告によれば、大きな声で、鼻の下を伸ばし、妹に惚気けていたそうです。 妹は婚約者として、今迄殿下に寄り添おうとしていました。ですが、今までの事もあり・・・・・・今回はフィアーいもうとの心が折れてしまった様に思います。それ以来、殿下にエスコートされると体調が悪くなるようです。あの私からも伺ってよろしいですか?」

 王太子の所業に部屋の中の静寂には、気負っていた私は気付かずに勢いで訪ねてしまった。

 
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