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第三章 ゼフス

29 理由

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 アーリスとクロノスは更地になった街の中を歩いていく。
 二人の行先には一人の男がいた。
 彼の名はイーオス。
 800年前にこの地に降り立ち、人類にスキルを与えた神に等しい存在。
 そして、アーリス達の住む街を大量の毒水を使って更地にした張本人である。

「初めまして神様」

 アーリスは落ち着いた様子でイーオスに話しかける。

 イーオスは冷たい眼差しでアーリス達を見つめる。

「イーオス様、なぜこのようなことを!?800年前、貴方様はわし達のことを救ってくださったのに!」

 クロノスはイーオスに向かって叫ぶ。
 イーオスは自分の名前が呼ばれた瞬間一瞬顔を驚かせたが、すぐに表情を元に戻す。

「まだ私の名前を知っている者がいたとは、驚いた」

 男は体をアーリス達に向けて、話し始める。

「……800年の間、お前たちの様子を見させて貰っていた。私が初めに特権を与えたもの達は誰かを守るために、誰かを救うために特権を使っていた。しかし、お前たちは特権を自らの私利私欲のためにしか使おうとしない。時間が経つにつれてお前たち人間はどんどんと腐っていった。お前たちに、この青き星はふさわしくない」

 イーオスはアーリス達を指さして、冷たく言い放つ。

「お前たち愚者を生贄にして、各時代、この世界に生きたほんのひと握りの善人を蘇らせる。私の力でな」

「……そんなこと、絶対させないっす!」

 声の方向を見ると、剣を杖代わりににしながら苦しそうに立っているゼフスがいた。
 ゼフスはアーリスがいるのに気づくと一瞬顔をしかめたが、すぐにイーオスに向き直る。

「自分や、あのフェンガーリとか言うやつはともかく、エルミス様はこの街を守るために戦っていたっす!」

「違うな」

 イーオスは即答する。

「エルミスというのはあの青い髪をした人間だろう。アレが戦っていたのはこの街のためなどではない」

 イーオスはそう言って剣でアーリスのことを指す。

「この男のためであろう?」

「……ッ!だまるっす!!神様モドキが!」

 イーオスにエルミスの心中は分からない。
 しかし、こう言えばゼフスが感情的になるのはわかっていた。
 なぜなら見ていたからだ。
 800年間ずっと、愚かな人間達を見続けていたからだ。
 その中にはもちろん、ゼフスやエルミス、フェンガーリ達のことも含まれている。

「仕方ない、加勢しよう」

「待つのじゃ、アーリス!」

 武器もなしに突っ込もうとするアーリスをクロノスが止める。

あの女ゼフスじゃ。わしを眠りから覚まし、お前を殺せと命じたのは」

「……。でも、イーオスは俺たちの共通の敵だ。昔何があったかよりも、今の方が大事でしょ?」

「だが、お主はまだ本調子では……」

 クロノスは心配そうにアーリスを見つめる。

「まあ、いいリハビリだと思えば……ね」

 アーリスはクロノスから目を離しイーオスの方を向く。

「大丈夫。もうって言い訳して、自分の命を粗末にしたりしないから。なんと言ったって、クロノスが救ってくれた命だからね」

 クロノスは顔を真っ赤にして俯いてしまう。

「~~!あーもう好きにせい!付き合ってやるわい!!Sランク特権を発動するのじゃ!」

 クロノスがどう言うと、何処からともなく岩が降ってくる。

 そして、その岩は形を変えて、一本の剣になる。

「とりあえず、今はこれで何とかせい!」

「ありがと!一生大事にするねっ!」

「う、うるさい!口より手を動かすのじゃ!」

 アーリスと顔が真っ赤なクロノスもゼフスに続いてイーオスに突撃する。

「Dランク特権を発動する!」
「Sランク特権を発動するのじゃ!」
「Aランク特権を発動っす!」

 三人は同時に特権を発動する。
 クロノスの特権でイーオスの下半身は地面に埋まってしまう。
 上半身はゼフスの特権で生成した植物のツルで、拘束されている。
 そこをアーリスが炎をまとった剣で斬り込もうとするが……

「痛っ!」
「ッ!どこ見てるっすか!」

 同じく斬り込もうとしていたゼフスとぶつかってしまい、イーオスの前で倒れてしまう。

「愚かな」

 イーオスがつぶやくと、ゼフスの特権のツルは消えて、埋まっていた下半身も時間が戻るように地上へ戻っていく。

「あー……」

「まあ、そうなるわな」

 事前にクロノスから話を聞いていたアーリスはクロノスの方を見て苦笑する。

「随分と余裕そうだな。赤髪の小僧アーリス、」

 イーオスがそう言った瞬間、アーリスとゼフスを地面が飲み込もうとしてくる。

「これ、クロノスの特権と同じだ!」

 アーリスが叫ぶと同時にクロノスも自分の特権を使い、必死に抵抗する。
 しかし、抵抗虚しくアーリスとゼフスは飲み込まれて行ってしまった。
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