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第一章 エルミス

09 戦闘

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「はぁ……」

 いつかのようにベンチに座りながら、アーリスはため息をつく。

(やっぱり、昔みたいには行かないか……。
ここは学園じゃないからな。学園は一様表面上は身分差関係ないってことだったけど、やっぱり貴族と庶民だと住んでる世界が違うんだな)

 そこまで考えたところでアーリスは、ふと疑問に思う。

「エルミス、どうして助けてくれたんだろ」

(学園時代のよしみかな?
まあ、なんにせよ一人で生きていかなくて行かなくちゃ。いっそ俺もポーション屋さんを開いてみるか……)

「いましたね、ゴミーリス」

 これからのことを考えていたアーリスに声がかかる。アーリスにとって聞きなれた声だ。

「……?あなたは、フェンガーリのパーティの……」

 そこに立っていたのはフェンガーリパーティにいた美少女の一人だ。
 少女は舌打ちをする。

「全く……さっさと来なさい!ゴミーリス」

「……まさか!俺をパーティーに戻してくれるんですか!?」

 昨日、理不尽に追い出されたにも関わらずアーリスは期待に目を輝かせた。

「勘違いしないでください。あなたは今日からフェンガーリの奴隷です」

「……え?」

「当たり前でしょう!私達のパーティの経費を女に使っていたゴミにせめて寝床を用意してやるんです。それくらい働いてください」

「違うんです!あれはほんとに――」

「黙りなさい!」

 弁解しようとするアーリスを少女が蹴り倒し、頭を踏みつける。
 アーリスは何故か反撃しようとしない。

「う……!」

「この期に及んでまだそんなことを!この人間以下のゴミの分際で!!!」

 少女の声が町中に響きわたる。
 少女は足でアーリスの顔を地面に擦り付ける。

「うああああ……!」

「はははは!良いざまです!そうです!ゴミはゴミらしく床に這いつくばって――」

 言い終わる前に、アーリスを踏みつけていた少女の体は地面に叩きつけられる。
 アーリスは状況を確認しようと、体を起こそうとする。

「アーリス!大丈夫――なわけないよね!酷い……おでこから血が……」

 アーリスが顔を上げる。
 そこにはこの世の終わりみたいな顔をしてあたふたしているエルミスがいた。

「……誰ですか?こんなゴミを庇うのは。ッ!騎士団の、エルミス!?」

 顔を真っ赤にしたフェンガーリパーティの少女はエルミスの顔を見てギョッとする。
 一方、名前を呼ばれたエルミスはピクリと肩を震わせる。

「あなた、アーリスになんてことを!」

 怒りをあらわにして斬りかかろうとするエルミスをアーリスが急いで止める。

「ダメだよエルミス!騎士団に所属してるんでしょ!こんなところ大勢の人にに見られたら……。剣をしまって」

「でもこの女は!」

「それに、この人には恩があるんだ。だからこれくらいはいいんだ」

「恩?」

 エルミス剣をしまってアーリスの方を見る。

「この人達は二年前、なんの取り柄もなかった俺をパーティに入れてくれて住む場所をご飯を――」

「じゃあ、この女達がアーリスを奴隷みたいに扱って、捨てたんだ」

 エルミスは怒りで声を震わせながら静かにそう言う。

「エルミス……?」

 アーリスは心配そうにエルミスを見つめる。
 それを見たエルミスの表情が穏やかなものに変わる。

「どうして私が怒ってるかわかる?」

「……分からない」

 エルミスがアーリスをギュッと抱きしめる。

「私にとって、アーリスはとても大切な存在で、特別なの」

「……俺が?」

 アーリスは困惑する。

「だからアーリスが傷つく所を見るのはとても苦しくて、辛いんだ」

「エルミス……」

「騎士団だからって、偉そうに!」

 フェンガーリパーティの少女が自分の持ってたメイスでエルミスを後ろからを攻撃しようとする。
 しかしアーリスは腰についている剣を抜く。
 そして、その攻撃をものすごい反射神経で受け止める。

「悪いですけど、あなたと一緒には行けません」

「私の攻撃を受け止めた!?そんなこと最低ランクのゴミに出来るわけ……」

 雑用係の時のアーリスからは想像もできない素早い動きを見て、フェンガーリパーティの少女は驚きと戸惑いを隠せなかった。

「どうやらあなた達と一緒にいると、俺の大切な人が辛いらしいんだ」

 そう言って、アーリスは少女のメイスを受け流し、重心が崩れた少女の足を引っ掛け地面に転ばせる。

「がはっ!」

 少女は苦しそうな声をもらす。

(俺を大切に思ってくれている人がいる。それだけで、俺は――)

〈"喜”の感情の起伏が規定値を超えました。ランクD特権の使用が許可されます〉

 急にアーリスの頭の中に無機質な声が聞こえてくる。

「誰!?なにこれ……」

「何言ってるんですか、ゴミーリス……」

 その様子を見ていたフェンガーリパーティの少女はよろよろと起き上がりながら、困惑した目でアーリスを見る。

 エルミスもしばらく目をぱちくりさせていたが、しばらくして何かを察したように暖かい笑顔をアーリスに向ける。

「ランクアップ、おめでとう」

「これが、ランクアップ……」

 ひどい屈辱を味合わされた上、まるで自分がその場にいないような扱いを受けて、少女は激昂する。

「何をごちゃごちゃと!」

 少女はアーリスに向かって勢いよく襲いかかってくる。

「あなたの動きはもう全部把握済みです」

 エルミスとの戦いの時と同じように、最小限の動きで、少女の攻撃を避けていく。

「おい!誰だあの兄ちゃん」

「フェンガーリのパーティの子の攻撃を全部避けてやがる!」

 周囲の人々は口々にアーリスの噂をしている。
 その噂声は少女の耳にも入ってきて、苛立ちを倍増させる。

「もう諦めてくれませんか?今のあなたじゃ、もう俺には勝てません」

「私より、ゴミーリスの方が勝っているだと!?そんなことあるわけがない!」

「ええ、あなたに比べば俺は足元にも及ばない」

 アーリスが少女のメイスを弾き飛ばす。

「でも俺は、あなた達の動きをずっと見てきました。それはもう、見飽きてしまうほど」

「黙れえぇぇ!」

 フェンガーリパーティの少女はアーリスに殴りかかって来る。
 アーリスはその攻撃を避けて、バランスを崩した少女の背中を軽く押す。
 少女は勢いよくその場に倒れ込む――
 寸前に、アーリスに抱き止められる。

「あなたの負けです」

 怒りで顔を歪めながら少女はアーリスを突き飛ばす。

「ッ!調子に乗るな!」

 少女は人混みをかき分けて逃げて行く。
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