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第一章 エルミス

06 老人

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そんな、フェンガーリ達のやり取りの数時間前、アーリスは目を覚ました。しかし、目の前に写っているのは知らない天井でアーリスは少し困惑する。

「そっか。俺パーティを追放されたんだっけ……」

 時計に目をやるとまだ4時である。

「……そっか。もう、早く起きる必要ないのか」

 アーリスは二度寝をしようとするがなかなか寝付くことができない。

「……眠れないな。ポーションでも作ろうかな」

 残念ながら、長年の習慣が体に染み付いてしまっていたので、二度寝は出来なかった。        
 やることのないアーリスは、とぼとぼ1人でポーションの素材が取れる場所へ向かう。
 そしてそこで黙々と1時間ほど作業する。

「こんなもんでいいか」

 作業を終えたアーリスは今度は街に戻り、寂れたポーション屋さんに入っていく。今時珍しい、防具や他の消耗品を一切置いていないポーション専門店だ。
 アーリスがその店のドアを開けると、愛想の悪そうな老人が出迎えてくれる。

「いらっしゃ……。何だ、またお前か」

 アーリスを見るや否や、老人はがっくりと肩を落とす。

「こんにちは!」

 アーリスは老人に向かって元気よく挨拶する。

「出てけ!今日と言う今日はもう好きにはさせんぞ!!」

「まあまあ、落ち着いてください。最近いいことがあったそうじゃないですか」

 必死に追い払おうとする老人に向かってアーリスは悪そうな笑みを向ける。

「な、なんの話しじゃ!」

「何って、聞きましたよ、おじいさん。世間知らずの貴族がリーダーのパーティーが来て、その方たちに定価の二倍位で強化ポーション売りつけたそうじゃないですか」

「ああー!!お前は毎回どこで聞いて来るんじゃ!」

 老人は頭を抱えてうずくまる。

「ポーション作る機材、貸してください」

 アーリスはにっこりとしながら老人にお願いする。

「勝手にせい!」

 諦めたように老人はアーリスに怒鳴る。

「そんなに怒らないで下さいよ。使う前より綺麗にして返しますから、それと……」

「瓶じゃろ!そこに置いてあるの勝手にせい取っていけクソ野郎」

「ありがとうございます……」

 アーリスは出来るだけ大きめな瓶を選んで20個くらい取り出す。
 そして、アーリスはゴリゴリと作業をし始める。

「全くお前、前々から思っていたが冒険者の癖にポーションも作れるのか。しかもそのデタラメな情報収集能力……。どんなにバレないようにやっても、どこからともなく聞いて来おって……」

 感心しているような、呆れているような顔をしながら、老人はアーリスに話しかける。         
 なんだかんだ言って、客が来なくて暇な老人にとって、アーリスはいい話し相手だ。ポーションを買わないくせに、機材を脅して借りることを除けばだが。

「みんな面倒くさがりなんですよ。時間はかかりますけど、ポーションは買うより作った方が絶対お得じゃないですか。機材を揃える費用を差し引きしても、絶対作った方がいいのにな~」

「は!そんなにぽんぽんポーション作れるヤツが出てきたらうちの店は……いや、全国のポーション屋は終わりじゃな」

「ん? ポーションって誰でも作れるものなのでは?」

 アーリスは一度作業の手を止め、老人の方を向く。

「なわけないじゃろ。全く一度見ただけで、ポーションの作り方覚えやがって。ワシなんてあポーションが作れるようになるのに四年もかかったのに」

「ええ……。そんなんでよく生きてこれましたね」

 アーリスにとって老人とは長い付き合いなのと、小悪党ということもあって、この町で唯一、素の自分で接することができる相手だ。

「お前が異常なんじゃよ。自覚ないのか」

「ん~。そんなことはないと思いますけど……。はい!終わりました。カゴも貰いますね」

「ほれ」

 老人がアーリスの顔面目掛けてカゴを全力で投げてくる。
 それを受け止めると、そそくさとできたポーションをカゴに入れて、逃げるように出て行く。

「また来ますね。おじいさん!」

「もう二度と来るな!」

 という、いつものやりとりを済ませて、アーリスは急いで店のドアを閉める。

 ガン! ドン! バリン!

 老人顔面アーリス目掛けて投げた、工具やポーションの空き瓶は自分の店の閉められたドアにぶつかる。

「末恐ろしいガキじゃ……」

 と、老人はつぶやいて自分の投げた物の後片付けに向かう。
 その老人の顔は怒っていながらも、どこか楽しそうだった。
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