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第一章 エルミス

03 才能

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 アーリスはパーティーを追い出された経緯をエルミスに話していた。

「酷いよ……そんな扱いを……」

 エルミスは涙ぐんだ目でその話を聞いていた。その表情はどこか怒っているようにも見えた。

「そんな顔しないでよ……」

 と、アーリスはエルミスに微笑む。

「夢を見てたんだ。最強の剣士になれる夢。それで、エルミスに笑って貰って……アイツに背中を預けて、三人で助け合いながら、冒険とか、探索とか行って……でももう……夢は覚めたよ」

 アーリスは何かが吹っ切れたようにそう言う。

「アーリス……」

「俺にはそんな才能もなんてなかった。ただの……ゴミだったよ」

 これからは、ゴミはゴミらしく他のパーティの雑用や、日常生活で困っている人の手伝いをして少しずつお金を貯めて故郷へ帰ろうと思っていたアーリスだったが……。

「……ねえ、ちょっと付き合ってよ」

 真剣な顔でエルミスがアーリスに言う。

「? いいけど……」

 アーリスは困惑しながら首を縦に動かす。

✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿

「おはよう!みんな!」

 アーリスを追い出したパーティの家にて、フェンガーリは自分の部屋から陽気な挨拶をしながら出てきた。

「スゥーハァー、いやーゴミがいないとこんなにも空気がうめえもんなのか」

「本当ね。今頃どこをさまよっているのやら」

 ギーがいやらしく笑いながら頷く。

「そうだ……ゴミといえば新しい雑用係探さねえとな」

 そういえば、とフェンガーリは難しい顔をする。

「そうね。今度はあんなゴミじゃなくてちゃんとした人にしましょう」

「そうだな。しっかり値踏みしねえと」

 新たな雑用係を探すべく、フェンガーリ達は身支度を始める。

✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿

 言われるがまま、アーリスはエルミスについていく。エルミスはやけにこわばった顔をして歩いていく。しばらく歩いていると、特に何もないに野原に着いた。

「えーと……ここは?」

 アーリスは辺りをキョロキョロする。

「あなたは、自分のことをゴミだと言ったよね」

 そう言いながらエルミスは、アドネフの木の枝を自分の持っていた剣で二本切る。アドネフの木の枝はとても硬く、ちょっとやそっとでは折れないはずだが、その枝を切れてしまうエルミスの剣は神器並の剣であることがわかる。

「うん」

 エルミスの質問に、当たり前じゃんと言う顔をしたがらアーリスは頷く。
 その顔をみたエルミスは不愉快そうに顔を歪める。

「でも私にはそうは思えない」

「え?」

 エルミスの一言にアーリスは困惑する。

「覚えてる?あなたは学生時代、全学年が参加する大会で優勝したんだよ。まだ一年生だったのに」

 彼女が言う大会というのは五年前、アーリス達が十二歳の時の剣士育成学校での大会だ。

「……それはもう昔の話だよ。今は違う」

 アーリスは苦笑しながら答える。

「……ちょっと、一戦どう?」

 エルミスは二本ある木の枝のうち一本をアーリスに差し出す。

「……いいよ。それで君が諦めてくれるなら」

 アーリスは覚悟を決め、差し出された木の枝を握る。

 エルミスにとって、この戦いの目的はアーリスに自信を取り戻してもらうことだ。なので三割くらいの力で十分、そう思いながら、エルミスはアーリスに斬りかかる。

「はあっ!」

「うぐぅ!」

 かなり弱めに打ったつもりだったがアーリス剣を受け止めると大きくよろけてしまう。

 しまった!とエルミスは後悔する。
 今のエルミスは王国に雇われている騎士団に所属している。
 貴族しか入ることを許されておらず、かなりの剣の腕を持っていなくては入団することができない。
 そんな騎士団でトップクラスの力をもつエルミスに対して、アーリスは有名パーティーに所属していたとはいえ今までずっと雑用係だ。
 認めたくはないけど……本当に認めたくはないけど……アーリスの言う通り……今と昔では違うのかもしれないと、エルミスは諦めかける。

 しかし……

「あれ?」

 ある時を境に急にアーリスの動きが変わった気がした。まるでエルミスの次の動きがわかっているかのような、無駄のない動きになっている。

 「きゃっ!」

 エルミスの剣がアーリスの攻撃で弾き飛ばされる。
 エルミスが唖然としていると、アーリスが少し悲しそうに笑う。

「手加減して勇気づけようとしてくれてるんでしょ?ありがとう。でも、もう――」

「ちょっと待ってもう少しだけ!」

 アーリスの言葉に割り込むようにして、エルミスは頼み込む。

「わかった、もう少しだからね」

 仕方ないな、と言うようにアーリスは苦笑する。

 次は5割位の力で、とエルミスは剣を構える。

 アーリスは先程同様、初めはなすすべなくやられ続ける。しかし、またある時を境に……

「そんな……!」

 今度は、エルミスの方がアーリスに攻撃が届かなくなる。

 今度は7割の力で、8割で、9割で……
 それについて行くように、アーリスもだんだん強くなっていく。
 よく見ると、アーリスの使う剣技には所々、エルミスの使う剣技と、酷似しているもの、中には全く同じものが使われていた。

「そろそろ……本気で行くね。アーリス」

「え?エルミス!?ちょっと待――」

「はああああっ!」

 エルミスがアーリスにすごい勢いで斬りかかる。

「うぐっ!」

 アーリスはなんとか、エルミスの攻撃を受け止める。

「はあっ!」

 エルミスの攻撃は激しく、アーリスは防ぎきれない。三回に一回くらい、エルミスの攻撃をもろにくらってしまう。

「その動き……昔と同じだ」

「え?」

 アーリスの言葉にエルミスは困惑する。

「早くなってるし、威力も上がってるけど、その動きはもう、初めて君と剣を混じえた時に学習済みだ!」

「ッ!」

 9割の力を出した時よりも早い段階で、アーリスの動きが変わる。今まで防ぎきれなかった剣を全て受け止める。

「嘘……でしょ……」

 エルミスはアーリスを勇気づけるという本来の目的も忘れて、ただアーリスを倒すために剣を振るう。だが……。

 アーリスはもう、その場を動くことはなくなった。最小限の動きで攻撃をかわし、いなし、カウンターを当てる。

「うっ!」

 エルミスの剣が弾き飛ばされる。

「はぁ……。降参だよ。私の負けだね」

「……!勝ったの……?俺」

「勝ったのって、嫌味?最後の方はかなり余裕そうだったよ?」

 エルミスが苦笑する。

「いや、違うんだ!嫌味とかじゃ全然なくて……」

 慌ててアーリスは否定する。

「わかってるよ。でももう自分のことをゴミだなんて言っちゃダメだよ。アーリスに負けた私までゴミになっちゃうでしょ?」

「……わかった。……ありがとう、エルミス」

「え?何が?」

 アーリスの言葉にエルミスはキョトンと首を傾げる。

「俺の事、励まそうとしてくれてたんでしょ」

「最初はね」

 エルミスはため息をつきながらそう言う。
 それをみて今度はアーリスが首を傾げる。
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