友達も一人がいない、ぼっちでも最強になれます！ 多分

第4話 ぼっちでも魔物と戦います

　なんでこんなことになってるんだろう。僕は地面に土下座してる。まさか、エルに突き飛ばされるなんて思ってもみなかった。痛みは思ったより感じないけど、それよりももっと大事なことがある。僕は急いで起き上がった。

　目の前には、よだれを垂らした犬のような魔物がいる。まるでゲームの中の敵みたいだけど、これは現実。恐怖で声が出る。「うわわわわわわわ！」と叫んでしまった。

　心臓がバクバクしてる。でも、逃げるわけにはいかない。武器、弓を構えなきゃ。自分を奮い立たせ、ゲームでのプレイを思い出す。あの時は上手くやれてた。現実でも同じようにできるはず。

　弓をしっかり握りしめる。手は震えてるけど、目標を定める。魔物がゆっくり近づいてくる。怖いけど、これが試される瞬間。僕は深呼吸して、集中する。


　でも、この魔物の弱点はどこにあるんだろう？　そんな時、僕の頭の中で何かが鳴り響いた。スキル「解析」が発動した。目の前の魔物の情報が一気に頭に流れ込んでくる。

「モルスケラ」という名前の魔物らしい。

　弱点は頭部。でも、情報が多すぎて処理しきれない。僕の頭はパンクしそうだった。

　焦る心を抑えきれず、僕は草むらの茂みに逃げ込んだ。隠れながら、息を整える。エルは助けてくれるって言ったけど、本当に信用していいのか？高校に入ってすぐ、親しかった友達に裏切られた経験がフラッシュバックする。でも、今はそんなこと考えてる場合じゃない。

　落ち着け、一樹。頭を冷静にして、情報を整理しよう。モルスケラ、弱点は頭。じゃあ、どうやって攻撃すればいい？

　しばらく考えて、僕はまた弓を手に取る。これは、ただのゲームじゃない。現実だ。でも、だからこそ僕は挑戦しなきゃいけないんだ。

　深呼吸をして、茂みからそっと顔を出す。モルスケラがうろついている。狙いを定める。もう逃げたりしない。僕は一樹、ぼっちでも強くなれるんだから。

　矢を弦につけて、弱点を狙って、力を込めて放つ。今度こそ、僕はやるんだ。


　茂みの中からそっと顔を出す。あのモルスケラ、どうやら僕を狙ってるらしい。どうしよう、こちらに近づいてくる。心臓がバクバクして、手が震える。

「僕ならやれる、僕ならやれる」

　自分に言い聞かせる。でも、不安は消えない。なぜかこんな時でも、僕の妄想は始まる。

「もし、ここで倒せたらヒーローになれるかも。友達もできるかもしれない。そして、七海さんとも……」

　でも、待てよ、今はそんなこと考える時じゃない。目の前のモルスケラが、今の僕にとっての現実だ。深呼吸をして、再び弓を構える。矢をノックして、弱点を狙う。一樹、今こそ集中しろ。

　心臓のドキドキが耳に響く。でも、今は恐れるよりも、行動することが大事。弦を引き絞り、目標を定める。そして、矢を放つ。

　矢が空を切り裂いて、モルスケラに向かって飛んでいく。当たれ、当たれって心の中で祈る。僕はただ、この一瞬に全てをかけるんだ。


　矢が空を切り裂き、モルスケラの頭部を狙う。けれど、魔物は驚くほど素早く動いて、矢をかわした。僕の計算が甘かった。戦いはゲームとは全然違う。これは本当の命がけだ。

　茂みから身を乗り出して、再び狙いを定める。モルスケラがこちらを睨んでいる。その獰猛な目が、僕の恐怖をかき立てる。でも、逃げるわけにはいかない。これが僕の戦いだ。

「大丈夫、やれる」

　自分に言い聞かせる。ゲームで培った集中力を最大限に発揮する時。僕は息を整え、再び弦を引く。今度こそは、と心に誓う。


　戦いに集中していたその時、目の前に突然、七海優奈さんが現れた。彼女は颯爽とした姿で、手にしたレイピアを振るって魔物を一撃で倒してしまった。

　その様子に、僕は思わず見とれてしまう。彼女はどんな状況でも堂々としていて、本当にかっこいい。

　でも、まずい、目が合った！　慌てて茂みに隠れて、背中を向ける。魔物と戦うより、彼女に見られる方が何倍も緊張する。

「どうしよう、どうしよう……まさか、逃げていたのはなんだったんだ？」

　僕は自分の行動に困惑してしまった。七海さんの前でこんな姿を見せてしまったら……。

　それにしても、七海さんはすごい。僕が必死に弱点を解析して情報を集めたのに、彼女はそれを気にせず魔物を倒してしまう。彼女はどの世界に来ても変わらず、勝ち組なんだ。それが少し羨ましい。

　僕は茂みの中からそっと七海さんの姿を見守る。僕もいつか、彼女のように自信を持って行動できるようになりたい。でも今はまだ、ほど遠い。


「うん、やっぱり僕たち、住む世界が違い過ぎる……」自

　分に言い聞かせるようにつぶやく。諦めるのが一番だ。そう、諦めよう。

「スキルの隠密行動で……」

　そっと逃げ出そうと思っていたその時、まさかの展開が。七海さんが僕を見つけてしまったんだ。「透空くんだよね！」と大きな声で呼ばれ、僕は身震いする。

「どうしてだー、なんでバレるんだ！」

　冷や汗が止まらない。好きな子に、クラスの人気者に、陽キャに、パリピに……こんなにも世界が違う人に。

　七海さんがレイピアをしまい、僕の方に歩いてくる。どう対応すればいいんだろう？とりあえず、土下座するしかないか。

「すみませんでした！」

　心の中で絶望しながら、僕は地面に頭を下げる。

　僕の心臓はバクバクして、頭の中は真っ白。何を言われるんだろう？どう反応されるんだろう？僕はただ、七海さんの反応を恐れていた。


「な、なんで土下座するの？」

　七海さんの声に戸惑いが滲む。確かに、この状況で土下座なんて、普通じゃないよなと、僕は思う。でも、まだ彼女の顔を直接見る勇気はない。この距離でさえ、彼女のいい匂いがして、僕の心臓をさらにドキドキさせる。

「あー……」

　地面とにらめっこしながら、心の中で彼女の存在を感じてる。地面を見ている方が、何倍も楽だ。

「顔を上げてよ」

　七海さんが言う。彼女の声は優しいけど、同時に少し心強くも感じる。

「さっき私が倒してしまったけど、本当は君の手柄だったもんね」

　え？　って、彼女の口から出た言葉に僕は驚く。倒したのは七海さんだけど、弱らせたのは僕ってことか。

　少しずつ顔を上げて、彼女の目を見る。彼女の瞳には誠実さが溢れていた。

「え、あの……ありがとう、でも、全部僕がやったわけじゃ……」

　僕はつたなく言葉を返す。

　七海さんは優しく笑って。

「でも、君がいなかったら倒せなかったかもしれないよ！　力を合わせて戦おうね」

　僕は彼女の言葉に励まされ、心の中で少し安堵する。まさか、こんな風に七海さんと話せるなんて。これは、僕にとって小さな奇跡みたいなものだ。


「いや、彼女のオーラが眩しすぎる……」

　心の中でつぶやく。やはり僕のような陰の者には、彼女のような明るい存在はきつい。コミュ障という病気には辛すぎる……。

　そう考えていたら、ふとあることに気がついた。

「あ、そうか！」

　さっきの矢は、モルスケラの頭部じゃなくて足に命中してたんだ。だから動きが鈍くなってたんだ。あれがなければ、七海さんも倒せなかったかもしれない。

　その時、七海さんがさらに距離を詰めてきた。

「私、実は少し遠くから見てたんだけど、凄かったよ。あんなに素早い動きの魔物に当てられるなんて！」

　七海さんの言葉は驚きと称賛に満ちている。

　いや、でもこれはどういうことだ？　気が付けば目の前に、あの七海優奈がいる。彼女が僕を認めてるってこと？

「あ、あうううううああううう……」

　僕は言葉が出ない。頭は混乱して、言葉はごちゃごちゃになる。

　七海さんは優しい微笑みを浮かべながら、僕を見つめている。


　直視できない。僕はまだ、七海さんの眼差しに耐えられない。中学の時も、隣の席の女子と話す時、目を合わせないようにしてたっけ。そんな僕が、こんな美少女陽キャと目を合わせるなんて、無理だ……。

　そんなことを考えているうちに、遠くから声が聞こえてきた。

「ゆうな！」という呼び声。七海さんが反応しようとしたその瞬間、僕は慌てて深い茂みの方へと逃げ込んだ。きっと七海さんの友達で、同じクラスメイトだろう。

　僕はひたすら逃げる。胸の中には複雑な感情が渦巻いていた。今日のことは忘れよう。うん、僕と仲良くして七海さんの評判が下がるのも嫌だし。

　茂みの中で、僕はほっと一息ついた。少しだけ、七海さんとの距離が縮まった気がしたけど、まだまだ遠い存在だ。彼女にとって僕は、ただのクラスメイト、ぼっちの一樹。でも、今日の出来事は僕にとって大きな一歩だった。

「次はもう少し、うまく話せるかな……」

　考えながら、僕は茂みの中からこっそりと七海さんたちの様子を伺う。彼女は自然に友達と話している。あんなふうに、自由に、自然に振る舞えたらいいのに。

　でも、今はまだその時じゃない。僕はしばらくそこに隠れて、心を落ち着けることにした。

　うん、でも大きな前進だ。コミュ障が脱却が出来るのも近いかも。

　……だよね？