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ゆく末への抗い

120.

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 「お疲れ様。先に休んでいいよ、残りは俺のほうで纏めるから」
 
 だがかけられたその言葉に、冬乃は瞳を見開いた。
 「え、と・・、でも・・」
 
 「朝から働き通しだろ」
 
 (それは総司さんも同じです)
 むしろ沖田のほうが働いている、と冬乃はおもわず目を瞬かせる。
 
 「大丈夫、すぐ終わる。俺の部屋で待ってて」
 (えっ)
 
 瞬かせていた瞳を今度は一瞬で輝かせた冬乃は、もちろん大人しく頷いた。
 
 
 
 
 
 
 部屋は、やはり沖田が朝に出たきり一度も休憩に戻ることが無かったのだろう、すっかり冷え切っていて、
 
 火を熾したばかりの火鉢へと、冬乃は震える手をかざした。
 あまりの寒さに、先ほど押入れの行李から拝借した沖田の褞袍を頭から被りながら。
 
 (総司さん・・)
 沖田が戻ってきたら、いいかげん意を決して話さなければならない。己の両手の向こう、揺れる火を見つめながら冬乃は、頭を悩ませ始める。
 
 ご心配おかけしてしまってませんか
 このところご無理されてませんか
 私なら大丈夫ですから
 
 いったいどう切り出せばいいのか定まらないものの。
 
 もう無茶はしませんから大丈夫です
 
 (とだけは言えない・・・)
 それだけはどうしても守れる自信が無い心苦しさで、冬乃はどうしようもなく項垂れる。
 
 
 あの夜沖田に本心から約束できた事は、
 今後なにか伊東達の件などで行動を起こす際には、せめて沖田と一緒にという事。
 
 (それはきっと、守れる)
 
 もう伊東達の事で沖田に隠している史実は、藤堂の命の期限、そのひとつしか残していない。
 そしてこの先少なくても当分の間は、それを明らかにしないからといって約束の遂行に影響は出ないはず。
 
 むしろこれからは沖田が常に行動を共にするならば、これほど心強い事はなく。
 
 (総司さんにそれは伝わっているはず・・)
 
 だから、沖田がそれでもあの夜以来なにか心配している事があるとすれば、やはりその約束云々以前のはなしなのではないか。
 
 これからも何かできることがあるときに何もしないわけにはいかないと。そう最初に答えてしまった冬乃の、その無茶をも厭わないままの変わらぬ姿勢が、
 沖田の心内に居座り続けていた心配を増幅させてしまったのではないかと。
 
 
 たしかに約束どおり沖田が常に一緒であるなら、また人質になる等の危険はもう無いだろう。
 だけどひとつだけ、沖田にも止められないものが、
 
 沖田と、沖田の大切な人達の危険を前にした時の冬乃の、咄嗟の無謀な行動なのだから。
 
 
 (あ・・・、)
 
 冬乃は。つと浮かんだ思いにぶるりと肩を震わせていた。
 
 ――もし、
 あの夜冬乃が人質になった出来事が冬乃の想像するよりも実は遥かに重く、沖田の心に不安を植え付けてしまっていたのだとしたら・・・?
 
 冬乃の身に何かが起こることへの不安、
 
 さらには、冬乃をうしなうことへの――――
 
 
 
 (・・どうしよう・・・それじゃ私は・・)
 
 その直後で、なんて返答をしてしまったのだろう。
 
 
 (でも・・、)
 
 おもえばどちらにしても冬乃には、
 沖田をそんな不安から救い出すすべなど、持たないのではないか。
 
 沖田のために咄嗟の行動はしないと、冬乃がそれだけは誓えないことなど、
 彼はきっと分かりきっているのだから。
 
 
 
 
 「冬乃、入るよ」
 
 その声にはっと冬乃は顔を上げた。
 「はいっ・・」
 
 さらりと内廊下側の襖が開き。入ってくる沖田を見ながら、瞬間泣きそうになった表情を隠せなかった冬乃の、
 傍まで来た沖田が、袴を捌いて座りながら驚いたように冬乃を見返した。
 
 「どうしたの」
 
 ・・・心配どころか、
 彼を、苦しめていたのなら。
 
 (それなのに私は)
 一緒に居る時間が増えただなんて、喜んで。
 
 
 「私は・・最低です・・」
 
 

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