402 / 472
再逢の契り
64.
しおりを挟む
「もう土方さんたちにも気づかれてたみたいだから、ていうより未来から来た冬乃ちゃんなら知ってるだろうから言っちゃうけど、いま俺たち、組から分隊を出してそれを薩摩や土佐や朝廷内の政治的な動きを探れる専門の機関にしようって考えてるんだ」
(え・・・)
冬乃の懸念をよそに、本当に何から何まであっさり話してくれる藤堂に冬乃はもはや押し黙った。いや、
戸惑っている冬乃のほうがおかしいのだろう。
藤堂たちがいずれ組の謀反人として扱われる未来を知る冬乃だからこそ、違和感をおぼえるだけであって、
今の藤堂からすれば、全くうしろめたさのかけらもない活動なのだから。
やはり内々に動いていたのも混乱を避けるためなどの、彼らなりの配慮があったのだろう。
「もう少し準備が整って本当に実現できそうになったら、土方さんたちに伝える算段だったんだけどね。さすが監察だよね、とっくにわかってたみたい」
(やっぱり)
組の監察のことをむしろ誇らしげに笑っている藤堂を、冬乃は呆然と見つめる。
(・・きっと本当に、)
「伊東様と近藤様は・・、“喧嘩” するようなことなんてなかったのに、お互いの想いがきちんと伝わらなくて誤解が重なってしまったのかもしれません。・・それこそ、今の国を憂いているお二人なら、最も望まないことのはずなのに」
互いのめざす終点がどんなに同じでも、そこへ向かうまでに採る道が違えば、
互いをみることさえできない遠く隔てた道を向かえば、
それは同じ志とは、もう呼べない。採る“経路” が違うがために、採る言動ひとつひとつも違ってきて、
その言動の違いは互いへの誤解を生じ、重ねてゆくだけでなく、互いをみれてさえいたなら無くてすんだはずの憎しみにまで発展させてしまう。
佐幕派と討幕派が、国を想ってめざした終点が同じでも、そうと信じ合うことなく殺し合ったように。
近藤と伊東の、採る道もまた、
このさき互いの手も取り合えないほどに、遠く離れた道へと別ってしまうのか。
つまりは、
伊東は武力討幕の道をこのさき進んでしまうのだろうか。
(・・もし伊東様の採った道が、武力討幕ではなく、)
“倒幕” は倒幕でも。
あくまで、平和的改革をめざし貫こうとしたものだったなら。
(それなら)
本来決して、互いの手が届かないほど隔てた道ではなかったはずだ。二人がその手を伸ばし合うかどうかは、
(二人次第・・)
「そうだね。俺、二人のこと気をつけて視ててみるよ」
「お願い、します」
声が震えた冬乃を藤堂の心配そうな眼が覗き込んだ。
「そんな大きな喧嘩なの」
冬乃は咄嗟に逸らしそうになった目を藤堂に据え。感情を抑えた。
「すみません、そこまでの詳細はわからないんです」
「そっか。でもどっちにしても喧嘩なんかしてほしくないね」
冬乃は小さく頷いた。
思想が、信念が。
異なった時。
相手を悪者にしてしまうのは簡単で。
だけど、本当にもう通じ合うものが残ってはいないのか。
謀られ騙されるかもしれない、そんな不安と怖れをも乗り越えて、相手との接点を求め探ろうとする力は、勇気に他ならない。
(もしかして伊東様は、最後までそれを・・)
伊東は最期の夜、近藤の元を訪れていた。
粛清されようとしているとは微塵にも疑わなかったのか、それとも懐疑はあっても、話し合おうと、想いを伝えようとし続けたのか。
近藤がそれでも尚そんな伊東を粛清するに至るまでの、過程さえ、もっと早くにわかれば。
(防げるかもしれない、最悪の事態を・・)
「仲をとりもつために、私にもできるかぎりのことをさせてください」
冬乃の縋る眼を、藤堂はにこやかに受け止めた。
「もちろん。冬乃ちゃんがいてくれたら心強いよ」
失いたくない藤堂のその笑顔が、そこにあった。
「これからよろしくおねがいします」
見ていられずに、冬乃は頭を下げる。
藤堂が「うん」と微笑った。
(え・・・)
冬乃の懸念をよそに、本当に何から何まであっさり話してくれる藤堂に冬乃はもはや押し黙った。いや、
戸惑っている冬乃のほうがおかしいのだろう。
藤堂たちがいずれ組の謀反人として扱われる未来を知る冬乃だからこそ、違和感をおぼえるだけであって、
今の藤堂からすれば、全くうしろめたさのかけらもない活動なのだから。
やはり内々に動いていたのも混乱を避けるためなどの、彼らなりの配慮があったのだろう。
「もう少し準備が整って本当に実現できそうになったら、土方さんたちに伝える算段だったんだけどね。さすが監察だよね、とっくにわかってたみたい」
(やっぱり)
組の監察のことをむしろ誇らしげに笑っている藤堂を、冬乃は呆然と見つめる。
(・・きっと本当に、)
「伊東様と近藤様は・・、“喧嘩” するようなことなんてなかったのに、お互いの想いがきちんと伝わらなくて誤解が重なってしまったのかもしれません。・・それこそ、今の国を憂いているお二人なら、最も望まないことのはずなのに」
互いのめざす終点がどんなに同じでも、そこへ向かうまでに採る道が違えば、
互いをみることさえできない遠く隔てた道を向かえば、
それは同じ志とは、もう呼べない。採る“経路” が違うがために、採る言動ひとつひとつも違ってきて、
その言動の違いは互いへの誤解を生じ、重ねてゆくだけでなく、互いをみれてさえいたなら無くてすんだはずの憎しみにまで発展させてしまう。
佐幕派と討幕派が、国を想ってめざした終点が同じでも、そうと信じ合うことなく殺し合ったように。
近藤と伊東の、採る道もまた、
このさき互いの手も取り合えないほどに、遠く離れた道へと別ってしまうのか。
つまりは、
伊東は武力討幕の道をこのさき進んでしまうのだろうか。
(・・もし伊東様の採った道が、武力討幕ではなく、)
“倒幕” は倒幕でも。
あくまで、平和的改革をめざし貫こうとしたものだったなら。
(それなら)
本来決して、互いの手が届かないほど隔てた道ではなかったはずだ。二人がその手を伸ばし合うかどうかは、
(二人次第・・)
「そうだね。俺、二人のこと気をつけて視ててみるよ」
「お願い、します」
声が震えた冬乃を藤堂の心配そうな眼が覗き込んだ。
「そんな大きな喧嘩なの」
冬乃は咄嗟に逸らしそうになった目を藤堂に据え。感情を抑えた。
「すみません、そこまでの詳細はわからないんです」
「そっか。でもどっちにしても喧嘩なんかしてほしくないね」
冬乃は小さく頷いた。
思想が、信念が。
異なった時。
相手を悪者にしてしまうのは簡単で。
だけど、本当にもう通じ合うものが残ってはいないのか。
謀られ騙されるかもしれない、そんな不安と怖れをも乗り越えて、相手との接点を求め探ろうとする力は、勇気に他ならない。
(もしかして伊東様は、最後までそれを・・)
伊東は最期の夜、近藤の元を訪れていた。
粛清されようとしているとは微塵にも疑わなかったのか、それとも懐疑はあっても、話し合おうと、想いを伝えようとし続けたのか。
近藤がそれでも尚そんな伊東を粛清するに至るまでの、過程さえ、もっと早くにわかれば。
(防げるかもしれない、最悪の事態を・・)
「仲をとりもつために、私にもできるかぎりのことをさせてください」
冬乃の縋る眼を、藤堂はにこやかに受け止めた。
「もちろん。冬乃ちゃんがいてくれたら心強いよ」
失いたくない藤堂のその笑顔が、そこにあった。
「これからよろしくおねがいします」
見ていられずに、冬乃は頭を下げる。
藤堂が「うん」と微笑った。
0
お気に入りに追加
929
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
勘違いで別れを告げた日から豹変した婚約者が毎晩迫ってきて困っています
Adria
恋愛
詩音は怪我をして実家の病院に診察に行った時に、婚約者のある噂を耳にした。その噂を聞いて、今まで彼が自分に触れなかった理由に気づく。
意を決して彼を解放してあげるつもりで別れを告げると、その日から穏やかだった彼はいなくなり、執着を剥き出しにしたSな彼になってしまった。
戸惑う反面、毎日激愛を注がれ次第に溺れていく――
イラスト:らぎ様
《エブリスタとムーンにも投稿しています》
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
あなたのつがいは私じゃない
束原ミヤコ
恋愛
メルティーナは、人間と人獣が暮す国に、リュディック伯爵家の長女として生まれた。
十歳の時に庭園の片隅で怪我をしている子犬を見つける。
人獣の王が統治しているリンウィル王国では、犬を愛玩動物として扱うことは禁じられている。
メルティーナは密やかに子犬の手当をして、子犬と別れた。
それから五年後、メルティーナはデビュタントを迎えた。
しばらくして、王家からディルグ・リンウィル王太子殿下との婚約の打診の手紙が来る。
ディルグはメルティーナを、デビュタントの時に見初めたのだという。
メルティーナを心配した父は、メルティーナに伝える。
人獣には番がいる。番をみつけた時、きっとお前は捨てられる。
しかし王家からの打診を断ることはできない。
覚悟の上で、ディルグの婚約者になってくれるか、と──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる