シンクの卵

名前も知らない兵士

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第一夜

9. 結成!『ブルーブラックの明かり』

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「これにか……⁈」

 閣下もワクワクしている。

「僕らの調印式! エポックメイキングさ! 皆んなで重要な事実を作るんだ。そういう時は必ず万年筆で署名するんだ!」

 パルコは、自分で言って興奮しているのがわかった。

「どう?」

 四人は顔を見合わせた。まず、閣下が口火を切った。

「……いいな! それいいな!」

「うん! なんか……カッコいい!」

 アンテナも賛同した。キキもニコニコしてうなずいている。

「あのさ、オレも署名していい? 秘密メンバーに……入りたいんだけど?」

 ファーブルが皆んなに聞いた。

「ここまで来といて、今さら言うなよ」

 閣下が笑いながら言った。つられてパルコもアンテナもキキも笑った。
 ファーブルは、皆んなの反応を見てホッとしているようだった。そして一言。

「高尚な行為って感じがする!」

「でしょ」

 パルコがフフンて顔をする。

「いいね! 廃工場、謎の一室で秘密組織の結成!」

 アンテナも興奮してきた。
 キキがパルコの耳元でささやく。

「………」

「伝説に残るな、だって」

 パルコが笑って代弁する。

「組織の名前はどうする? 名前がなきゃ、しまらないだろ? いい加減、正式名を決めようぜ」

 閣下の言うことはもっともだ。秘密組織を結成したのに、名前もないのだから。

「うーん……」

 皆んな考え始めたが、すぐにパルコはピーンと閃いた。

「夜に……ランプの明かり……でもってインクはブルーブラック………」

 四人は、パルコが導き出そうとしている名前を見守った。
 赤いランプから、また、ジジッとかすかに音が聞こえた。

「ブルーブラックの明かり」

「!」

「……ってのはどう?」

「……いいと思う。組織名っぽくないところがいいよ!」

 ファーブルが文句なしって感じで褒め称えた。

「決まりだな」

 続いて閣下が口をそろえた。

「どんな明かりなんだろう⁈ って思ったよ。それが秘密めいててカッコいいよ!」

 アンテナが興奮して太鼓判を押した。

「ではでは……」

 パルコは照れながら、モンブランのキャップを外してから、尻軸を軽やかに回し始めた。すると、内部のピストンが下がり始めた。ピストンが下がり切ったら、先端を銀の卵の中に浸けて、再び尻軸を今度は逆回しする。今度はピストンが上がり始め、インクが吸い上げられていった。

「にしても、いつも変なこと思いつきよるな、パルコは」

 アンテナが腕を組んで改めて言った。

「失敬な……気高い行為と言ってくれたまえ」

 アンテナにならってパルコが面白おかしく返答する。四人は顔を見合わせて、クスクスと笑った。


 パルコは、モンブランを羊皮紙に滑らせた。
 そして、一気に秘密の組織名を書いていった。それから自分の秘密の名前を書き、次に椅子から立ってモンブランを閣下に渡した。

「万年筆で名前を書くって緊張するなあ」

 閣下は椅子に座り、たどたどしく自分の秘密名を書いて、アンテナにモンブランを渡した。それからキキ、ファーブルへと順番に署名していった。


 秘密組織
『ブルーブラックの明かり』を
 ここに創設する。
 その秘密構成員は……
 ・パルコ
 ・閣下
 ・アンテナ
 ・キキ
 ・ファーブル
 ……から成る。


 ファーブルの署名を見守ってから、万年筆は再びパルコの手に戻った。木製椅子に座りなおした時、コツンとパルコの靴に何かが当たった。

 椅子を引いて机の下をのぞいてみたが、暗くてよくわからない。パルコはヘッドライトの小ライトを点灯した。

「手帳……? がある」

 ためらいなく、それをつかんで起き上がり、ランプの明かりに近付けた。

「誰の手帳だろう?」

 アンテナが恐る恐る言った。

 手帳は開かないようにゴムバンドで留められ、ひも状のしおりが挟まれている。

「よく使い込まれた手帳だね。そんなに古そうではないみたいだけど……」

 そう言ってファーブルの顔がくもった。

「ここに来てる人の落とし物かもな……」

 閣下が話すと、皆んなさっきまでの高揚感が急に冷めて、次第に誰かが来るのではと、思い始めた。
 パルコは急いでゴムバンドを外して、しおりの箇所を開いた。

「卵が現れたとき、そこに秘密がある。秘密が存在することを示しているのだ……。秘密が付与される場所はテーブルである。そう、旅人はテーブルにつかなければならない」

 パルコの好奇心は抑え切れず、書かれていた文章を口に出していた。

「何それ……?」

「テーブル? ……どこの? ここ?」

「待って、まだ何か書いてある」

 ゴクンッと誰かが唾を飲み込む音がした。

「……本が開いていれば、物語を書く著者に。本が閉じていれば、新しい物語を書く著者になる、だって」

「どういうこと?」

 アンテナがいぶかしげに首をかしげている。

「このデカい本のことを言ってるのか?」

「僕たちが部屋に入った時は、本は開いてた……」

 急に、閣下がパルコを制止した。

「静かにしろっ」

 閣下のその一言で、水を打ったようにランプの部屋が静かになった。

 かすかに階下の扉が閉まる音がした。誰かが屋内に入って来たのだ。

「誰か来た……」

 声にならない声で、アンテナがうろたえた。
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