シンクの卵

名前も知らない兵士

文字の大きさ
上 下
2 / 46
第一夜

2. 死んだ父親から届いた手紙

しおりを挟む
 パルコの父親が交通事故で他界して、すでに二年が経とうとしていた。

 パルコが躊躇せずに父親のことを話せるのは、目の前の三人だけだ。クライミングネットの頂上にいる四人は、お互いに秘密を共有できる仲間だからだ。

 彼らには、四人の内だけしかわからない秘密のアダ名がある。秘密の時は、秘密の名前で呼び合うことを義務にしている。たった四人だけど、秘密組織を結成しているのだ。

 アンテナも閣下もキキも、三人とも真剣な表情でパルコを見つめていた。

「死んだ父親から手紙が届いた?」

 まず手始めに閣下が確かめるように言った。それからアンテナが言った。

「そんなことあるわけないじゃん!」

 二人とも顔を見合わせて、パルコがまた作り話を展開しようとしているのでは、と勘ぐりだした。
 キキはパルコの目をじっと見ている。いつになく真剣な表情だったからだ。

「本当なんだって! 昨日、お母さんが帰ってくる前にポストの中を覗いたんだ。毎月購読してる月刊ヴェルヌの懸賞が、今度こそ当たってると思ったんだ! そしたらコレが……」

 パルコは赤いダウンベストのポケットから黒い手紙を出して、中身を手の平に出した。

「手紙の中には銀貨が、ほら」

 三人ともパルコの手の平に注目した。

「銀貨っ⁈」

 閣下とアンテナは口をそろえて言った。キキは口元を両手でおおっている。
 パルコは三人の表情を見てニヤリと笑った。

「マケドニア王国の銀貨だよ」

「マケドニア王国って⁈ どこの国⁈」

 今度はアンテナが、本当に知りたそうな顔をして言った。

「今から二八〇〇年くらい前に、ヨーロッパにあった国なんだ!」

「何でその王国の銀貨って分かるんだ?」

 閣下が言った。またしても、パルコはニヤリと笑った。

「お父さんの書斎にアンティークコインの図鑑があるんだ。それで調べてみたんだ」

 閣下が銀貨を手に取り、裏返しにして、描かれている彫刻を見てからアンテナに渡す。アンテナもじっくり見たあと、キキに渡した。

 銀貨の表の彫刻は、翼を広げて座るグリフィンと葡萄の房だ。グリフィンというのは、鷲の翼と上半身、ライオンの下半身を持つ伝説上の生物のことだ。天上の神々の車を曳いたり、黄金を守る役目があるという。

 キキが銀貨をパルコに返して、耳打ちした。すかさずパルコは答えた。

「いや、手紙の中は銀貨の他に、一枚のバースデーカードがあった」

「なんていうか、パルコの親父さんは粋だよな。センスがいいっつうか」

 閣下が感服しながら言った。続けてアンテナが口を挟む。

「けど小学生に銀貨を贈る? ま、パルコはこういうの好きだもんね。オレなら断然ゲームソフトなんだけど」

「そこなんだ」

 パルコが神妙に言う。

「フツー、小学生に銀貨を贈らない。アンティークコインはとても高価なんだ」

 どのくらい? とアンテナが聞くより前にパルコが言うのが早かった。

「これは多分、暗号」

 校庭でサッカーボールで遊ぶ生徒たちが、ポツポツと校舎に戻り始めた。

「パルコの親父は作家だもんな」

 閣下が目を細めて言った。

「バースデーカードはなんて書いてあるの?」

 アンテナが時間を気にして、パルコを急かした。

 パルコはもう一方のポケットからバースデーカードを取り出した。縁に青銅色のラインが入っている黒いホログラムカードだった。というのも長い側面を縦にして、銀色で文字が書かれており、それを覆うように鷲の翼の絵が描かれている。絵と文字だけが、見る角度によって色鮮やかに光り輝くのだった。それ以外は漆黒だった。

「カッコいい!」

「スッゲ!」

 アンテナと閣下が興奮して叫んだ。
 カードに書いてある文章はこのようなものだった。

『銀貨は私からの贈り物である。「世界を変えるための不必要の部屋」にいる時は注意せねばならない。なぜなら、使用許可の代わりに貴方の所持する大切な一つの物を引き換えにしなければならないからだ。それが「シンクの卵」に課せられている秘密だ。』

「………」

「ね? さっぱりでしょ? カードの裏面もさっぱりなんだ」

 バースデーカードの裏面を見ると、マス目が並んだブロック図のようなものが描かれており、いくつかのグループらしきマス目同士で色分けされていた。不自然な図形のようなものが何を表しているのか、皆目、見当もつかなかった。

 また、カードの縦と横の縁の隅っこに、不規則なローマ字が書かれている。大文字と小文字のアルファベット、それに数字を織り交ぜてある。

 縦の縁に〈HRb.0HgCdCr〉

 横の縁に〈Se.AmRaPdH〉

 とある。

「これが暗号だな。色分けされている図形と関係がありそうだな」

 閣下が得意げに言った。キキもすぐさまパルコに耳打ちして、パルコが代弁する。

「こんな小さく書かれてて、すごい怪しいって」

「一体どういう意味なんだろう?」

 アンテナはパルコの顔を見た。

「僕もわからないんだ。あと、もう一つ疑問に思うことがあって」

 三人とも、またもやパルコに注目する。

「僕の誕生日は三日後なんだ。お父さんは何か意図があってこれを送ってきたんだよ!」

 パルコは三人に話しながらも、自分が興奮しているのがわかった。パルコの話を聞いた三人も興奮していた。
 今からまさに、秘密組織のメンバー四人は、力を合わせてこの謎の解明に取りかかろうとしていた。

 その矢先、昼放課の終わりのチャイムが青空に響いた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

魔法アプリ【グリモワール】

阿賀野めいり
児童書・童話
◆異世界の力が交錯する町で、友情と成長が織りなす新たな魔法の物語◆ 小学5年生の竹野智也(たけのともや) は、【超常事件】が発生する町、【新都心:喜志間ニュータウン】で暮らしていた。夢の中で現れる不思議な青年や、年上の友人・春風颯(はるかぜはやて)との交流の中でその日々を過ごしていた。 ある夜、町を突如襲った異変──夜にもかかわらず、オフィス街が昼のように明るく輝いた。その翌日、智也のスマートフォンに謎のアプリ【グリモワール】がインストールされていた。消そうとしても消えないアプリ。そして、智也は突然見たこともない化け物に襲われる。そんな智也を救ったのは、春風颯だった。しかも彼の正体は【異世界】の住人で――。 アプリの力によって魔法使いとなった智也は、颯とともに、次々と発生する【超常事件】に挑む。しかし、これらの事件が次第に智也自身の運命を深く絡め取っていくことにまだ気づいていなかった――。 ※カクヨムでも連載しております※

鬼と猫又のお話

ももちよろづ
絵本
鬼の伊吹と、猫又の明石と、仲間達のお話。 ※表紙・本文中イラストの無断転載は禁止

タイムリープ探偵、時巻モドルの事件簿

寝倉響
児童書・童話
時巻モドルは普通の小学校に通う小学五年生。 そしてモドルは探偵だった。 それもタイムリープすることができるタイムリープ探偵! モドルのおじいちゃんから貰ったタイムメガネをかけることで指定の時間に3分間だけ戻ることができる。 その力を使って小学校で起きる事件をモドルは解決していく!

「羊のシープお医者さんの寝ない子どこかな?」

時空 まほろ
児童書・童話
羊のシープお医者さんは、寝ない子専門のお医者さん。 今日も、寝ない子を探して夜の世界をあっちへこっちへと大忙し。 さあ、今日の寝ない子のんちゃんは、シープお医者んの治療でもなかなか寝れません。 そんなシープお医者さん、のんちゃんを緊急助手として、夜の世界を一緒にあっちへこっちへと行きます。 のんちゃんは寝れるのかな? シープお医者さんの魔法の呪文とは?

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

テレポートブロック ―終着地点―

はじめアキラ
児童書・童話
「一見すると地味だもんね。西校舎の一階の階段下、色の変わっているタイルを踏むと、異世界に行くことができるってヤツ~!」  異世界に行くことのできる、テレポートブロック。それは、唯奈と真紀が通う小学校の七不思議として語られているものの一つだった。  逢魔が時と呼ばれる時間帯に、そのブロックに足を乗せて呪文を唱えると、異世界転移を体験できるのだという。  平凡な日常に飽き飽きしていた二人は、面白半分で実行に移してしまう。――それが、想像を絶する旅の始まりとは知らず。

二人の神様

マー坊
児童書・童話
おとぎ話の筋書きを考えています。 お父さん神さまはお母さん神さまと同じように人間の成長を望んでいます。

処理中です...