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「よくわかったね」

この能力について、わたしは誰にも打ち明けてはいない。両親に軽く言ったけれど、はっきりと能力者だと明言したわけではないし、そもそも親が娘を国に売るような真似はしないはず。

碓井さんは本物の官僚であることは間違いがない。だってわたし力があることを知っていたんだから。
となると、答えはひとつしかない。

「だってマコ、あなた以外にはわたし、誰にもあのことは言ってないから」

わたしは翌日の放課後に、中学時代の友人である会沢真琴を呼び出した。部活は仮病を使って休み、さっそく本人に問いただして見ると、マコはあっさりと認めた。

「ふーん、そうなんだ。てっきり橘くんには伝えてると思ったけど」

ここは近所の公園。わたしたちはベンチ横並びに座っていた。
放課後ではあるけれど、人の姿はない。児童公園がちょっと大きくなったくらいの規模で、散歩できるようなコースもない。
そもそも、国からあまり外には出歩くなと言われていることも影響しているのかもしれない。

「できるわけないよ。それはマコ、あなたがよく知ってることでしょ」

わたしの罪をこの世界で知っているのは、事前に相談をしたマコだけ。
わたしが部活を早めに終え、そうして事故を回避したことで、海斗くんが代わりのように事故に巻き込まれた、それをマコは知っている。

当時、マコはわたしのことは決して責めなかった。それもまた運命だよ、となにかを悟ったように言った。
いま思い返してみると、あのとき、マコが冷静でいてかれたから、わたしは海斗くんに向き合えるようになったのかもしれない。

「橘くんなら理解してくれるかもよ。彼、優しいからね」

海斗くんはもともと、サッカーのプロを目指していた。
中学生の子はみんなそういうかもしれないけど、海斗くんは本気だったように思う。少なくとも、それだけの努力をしていたことをわたしは知っている。

だからこそ、罪悪感は強いし、海斗くんの絶望も手に取るようにわかる。簡単には許してはくれないということも。

「そういう問題じゃないよ。海斗くんがわたしを好きになったのは、あの事故が遭ったから。わたしの献身さに引かれただけ。それがなかったら、海斗くんはわたしに特別な想いなんて抱かないはずだから」
「そうかな。だって、莉子のことが心配でわざわざ追ってきたんでしょ。どう考えても、その時点で橘くんはあんたのことが好きだったんだよ」
「それは、幼なじみとしてで」
「なわけないじゃん。よく考えてみてよ。橘くんがそこまでサッカーに熱中していたなら、幼なじみが体調悪いくらいじゃ中断したりしないでしょ。莉子のほうが重みがあったから、サッカーを手離すことができた。そうじゃないの?」

わたしは認めたくないだけなのかもしれない。海斗くんがわたしのことを純粋に愛しているとなれば、わたしのなかの後悔も薄れていってしまう。

もしそれがなくなってしまえば、わたしはもう、生きる意味を見いだせなくなってしまうかもしれない。

海斗くんのために、これだけがいまの、いままでのわたしの生きる気力を支えてきたもの。罪を償うためだけに、わたしは生きてきた。その罪を自覚することで、わたしは海斗くんを救うために働くことができた。
いま、それを否定することなんてできない。

「そもそも、仮に莉子の言う通りだったとしても、あの事故は莉子が狙ったものじゃないでしょ。たまたま橘くんが追ってきたから、事故に遭ったわけで」
「もう、その辺はどうでもいい」
「え?」
「あれはわたしのせいだって決めてるの。他の解釈なんていらない。わたしのせいで海斗くんは事故に遭い、それを償う責任がわたしにはある。これだけがすべてだから。わたしの答えだから」
「莉子?」
「それより、どうしてなのか、聞かせてもらえる?わたしの能力を国に訴えた理由」

マコがわたしの能力を知ったのは中学二年生のころだから、およそ四年ほどが経っている。それまでずっと秘密にしてきたのに、突然こんなことをするなんて不可解だった。

「どうしてなのか、莉子なら想像できるんじゃない?」
「どういうこと?」
「あえていまこのタイミングであることの意味、答えはひとつしかないと思うけど」

あえていま?どういうことだろう。
最近の大きな動きというと、隕石の落下くらいしかないと思うけど、それをマコが知ってるとは思えない。

「もったいぶらずに教えてよ。ここまで来たってことは、すべて話すつもりがあるからでしょ」
「そのつもり。わたしからも聞きたいことがあったし」
「で、なんなの?」
「この世界、滅亡するんでしょ」
「え?」
「ねぇ、莉子、あなたはこの世界、何回目なの?」

……知ってる?
マコはわたしが何度も死んでいるということを。
しかも、隕石が落ちてくることまで。
でも、なんで?
マコはいたずらでもするかのような笑みを浮かべている。

「その反応見る限り、やっぱり正解なんだね。この世界が近いうちに滅亡して、そのときの死によって莉子はループを繰り返しているということが」
「どうして、そのことを?」
「いきなりすぎて、驚いた?説明が必要よね。実はわたしもあなたと同じ能力者なの」
「マコが、能力者?」
「そう。あなたに能力を相談されたあと、中学を卒業してから目覚めたの。というか、わたしたちを結びつけたのがそれぞれの力だったのかもね。能力者は引かれあう性質があるって聞いたことがあるから、必然的な組み合わせだったのかもしれない」
「じゃあ、マコも同じ一週間を繰り返しているの?」
「わたしのは違う。わたしの能力は未来予知なの」
「未来、予知」
「そう。だからこの先に何が起こるのかを事前に知ることができる。おそらく近いうちに、隕石が衝突して地球が滅亡するという未来が、わたしには見えたの」

おそらく、ということはそこまではっきりとしたビジョンではないのかもしれない。
生活な日付はわからないようだし、地球が滅亡するとも言っているけど、それも言い切ることは本来はできない。
隕石が衝突するのは日本で、その裏側の状況なんて誰にもわからないんだから。

「実際に経験したのなら、いつ起こるのかも莉子にはわかるよね。正確な日付、教えてよ」

マコは自分の力を確信しているようだった。それだけはっきりとしたビジョンなのかもしれない。おそらく、これまで何度も未来を当ててきたのだろうと思う。

「隕石が落ちてくるのは、7月の24日のことだよ」
「ふーん、あと6日後のことなんだ。思ったよりもすぐだったかな」

マコは平然と受け止めている。ビジョンを見たからと言って、こんな絶望的な未来を簡単に受け入れられるものかな?

「怖くはないの?」
「怖がっても仕方ないでしょ。どうせ一瞬で死ぬんだから、運命だと思って諦めるしかないよ」

マコは確かにこういう人だった。なんでも割り切るのが早い、さっぱりとした性格をしていた。
だからこそ、今回の密告が必ずしも悪意によるものだとは思えないのだけれど。

「そうなんだ。わたしなんて最初にその報道を見たときは、怖くて仕方なかったけど」
「莉子は何回目なの、この世界は?」
「六週目、かな。たぶん、そんな感じだと思う」
「六回も?体調は大丈夫なの?」
「どうかな。そろそろ、まずいかもしれないけど」
「中学のときのやつもあるからね。寿命は確実に削られている。気をつけないといけないよ」
「気をつけても、どうにかなることじゃないんだよ。この国が一時的かもしれないけど、滅びるのは間違いないし」
「それはそうだけど、どうにか回避はできないの?具体的な日時を知っているなら、できることってあると思うんだけど」

「無理だと思う。わたしが助かることは、もう、諦めてるし」
「なんか意味深に聞こえるけど、どういうこと?」
わたしはこれまでのことを、一からマコに説明した。
「橘くんを救うために、生きてきたの?」
「うん、それがいまのわたしのすべて。でも、思い付くことは全部失敗した。そろそろ結果を出さないと、わたしの命も危うい感じなんだけれど」
「自分だけが生き残ることは考えてないのね」
「もちろんだよ。これはわたしの罪ほろぼしでもあるし、海斗くんを見殺しにしたら、どのみち生きてなんかいけないから」
「二人だけで逃げようとは思わなかったの?」
「無理だよ。学生だから最初から限界がある。安全な場所に逃げるなら大人の協力が不可欠だけれど、そうすればわたしが能力者だってことも周辺に知られてしまう」

そうなればわたしは国に身柄を拘束されてしまい、海斗くんたちはそのまま死んでしまう。

「わたしは海斗くんを救えれば、それでいい。両親や友達には申し訳ないけど、わたしの願いはそれだけなの」
「そこまでの想いがあるなら、もうわたしはなにも言えないな。わたしも死んじゃうけど、莉子のことは恨まないでおくよ」

やっぱり、マコは昔のまま。何も変わってはいない。
だとすると、さらに疑問は膨れ上がる。
マコは隕石の落下を未来予知によって知っていた。そしてそれがわたしへの密告に繋がったらしい。
その動機は全然わからないまま。

「わたしね、実は橘くんのことが好きだったんだよね」
「え?」
「気づいてなかった?言ったことなかったからね。莉子に悪いと思ったから、そんなそぶりもみせないようにしてたんだよね」

知らなかった。マコは本ばかり読んでいるような生徒だったから、恋愛事には関心があまりないのかなと思い込んでいた。

「ああ、この地球はもう、終わっちゃうんだと知ったとき、わたしは自分のやりたいことをしようと思った。それが橘くんへの告白。もしくはその日に一緒にいること。でも、彼のそばには莉子、あなたがいる。さすがにわたしもそこまで厚かましくはないから、最初は諦めようとしたんだけれど」

気づいてしまった、らしい。わたしと海斗くんを引き離す方法を。

「莉子を能力者だと告発すれば、あなたは国に連行されて二人は離ればなれに。そうなればわたしは自由に橘くんと会える。莉子が能力者だと知っていた、という過去で距離を詰めることができる。莉子への罪悪感はあまりなかった。わたしは自分に言い聞かせたの。これは莉子を救うためでもあるって」

少し間をおいて「ごめんなさい」とマコは続けた。

「本当はわかっていた。莉子がそんなことを望んでいないって」

不思議なくらい、わたしは怒りを感じてはいなかった。むしろ、逆かもしれない。
マコの恋心に全然気づいてあげられなかったことに、申し訳なさを感じていた。

「いつからなの?海斗くんのことが好きになったのは」
「一年生のころ。中学に入ったばかりのころは、わたしいじめられていたの。あまり友達を作らずに本ばかり読んでいたから、根暗だってバカにされて。でも、それを一緒のクラスだった橘くんが止めてくれたんだ」

なら、わたしと海斗くんが付き合う前から、マコはそういう気持ちを抱いていたということになる。

わたしとマコは二年生のときに同じクラスになって、親しくなった。いま思えば、会ってすぐに海斗くんのことをあれこれ聞かれたような記憶もある。

あの事故が遭って、わたしと海斗くんが付き合うと聞いたとき、マコはどんな気持ちでいたのだろう。悔しさのあまり、わたしを憎んだこともあったのかもしれない。

「そう。なら、謝るのはわたしのほうかもね。マコの気持ち、全然気づいてあげられなかった。わたしが鈍感すぎたから、マコはこういう行動に出ざるをえなかったんだよね」
「怒らないの?」
「怒らないよ。官僚の人は無視すればいいだけだしね」
「……大人、だよね、莉子は。昔からそう思っていたよ」

同じ一週間を繰り返しているぶん、わたしは実際に同年代の人たちよりも年をとっているといえるのかもしれない。
記憶は引き継がれるから、少なくとも経験という意味では先輩なのかもしれない。

「マコのほうはひとりで助かろうとは思わなかったの?マコの未来予知は、わたしのに比べればそんなに寿命を削る能力でもないように思う。政府に保護してもらえばよかったんじゃないの?」
「隕石が衝突したあとなんて、どうせまともな生活なんてできない。海外だって無理そうだし。だったらこれまですっとためていたこの想いを一気に吐き出したいって、そう思ったの」

あれ、でもおかしくない?
わたしはそのとき、ひとつの単純な矛盾に気がついた。
これまでと、どうして流れが変わっているのか、ということ。

ループのなかでの行動というものは、ほとんどの日とが前回をはじめのものを踏襲する。未来を変えられるのはわたししかいない。

碓井さんがわたしたちの前に姿を現したのは、今回がはじめてのことだった。
つまり、前回までのマコは、政府への密告なんかしなかったということ。

わたしの近くにいれば、その影響によって、マコの言動も変わる可能性はある。でも、わたしとマコの間には、少なくともここ最近は接点と呼べるものはなかった。

「どうかしたの、莉子?」
「ひとつ、疑問があって」

わたしがさきほどの矛盾を口にすると、マコはすぐに理解したらしい。

「たぶんそれは、週によってビジョンが変わるからと思うよ」
「ビジョンが変わる?」
「そう。未来予知って、必ずしも完璧じゃないの。見えるものと見えないものがあるし、大きいイベントだから見えるというものでもない。それがどんな基準で決まるのかはわからないし、もしかしたら偶然なのかもしれない。だから、莉子がこれまで過ごしてきた世界では、わたしは未来のビジョンを見ていなかったんだと思う」

以前のマコには、未来予知の能力が発動はしなかった。だから隕石の落下も知らず、海斗くんと二人きりになりたいという願望が沸いてくることもなかった。

でも、今回は見えた。
ランダムな能力だからこそ、前回との違いが生まれた、ということらしい。

「もしかしたら、わたしがループをしているうちに、マコの記憶にも刻まれたものがあったのかもしれない」

海斗くんがわたしの死ぬところをぼんやりと覚えていた、ということをわたしはマコに伝えた。

「なるほどね。それでわたしの能力が発動しやすい環境が生まれた、ということもあるのかもしれない。わたしは莉子が能力者であることを知っているから、ほんのりと影響を受けた部分があったのかもしれない。もしそうなら、次の週では、また同じことをしちゃうのかもね」

次の週。そこまで行くということは、わたしがまた海斗くんを救えなかったということでもある。

「できれば、今回を最後にしたいんだよね。いつまで体が持つかわからないし」
「橘くんを救う方法、か。莉子が失敗を繰り返してきたなら、簡単には思い付かないのかもね」
「何かあるような気はするの。だからわたしは諦めずにいられるんだと思う」
「もし、橘くんが能力者だったなら、話は簡単なんだけどね」

そう言った直後、マコはハッとしたような顔になった。

「そうだよ、それがあったじゃない!」
「え、なに?」
「だから、橘くんを能力者に仕立てあげるんだよ」
「ど、どうやって?」
「そんなの簡単じゃない。わたしがやったみたいなことを真似すればいいだけ。莉子はもう未来を知ってるでしょ。それを橘くんが能力で見た未来にすればいいんだよ」

なるほど、とわたしは思った。
例えばわたしの彼氏が来週辺りに隕石が落ちてくるっていってるんですけど、これって本当なんですか、みたいな感じで書き込みをすれば、国のほうも黙ってはいられなくなるのかもしれない。

この国には残された時間が少ない。
もし仮に能力者である疑いがあれば、その真偽は脇に置いてでも人材の確保を優先するのかもしれない。実際に碓井さんは直接わたしのところまで来たわけだし。

「あ、でも、そうとも言えないかも。わたしの元に来た官僚の人は、無理矢理連行するような真似はしなかった。もしかしたら、隕石の落下直前にでもなれば強引にでも連れていくのかもしれないけど、いまの段階では様子見という感じだったんだよね」
「政府の内部から、外に情報が漏れていると考えるかもしれないよね。それを予言として使っていると疑っている部分があるのかもしれない」 

海斗くんの性格を考えると、そもそも拒否するということもあり得る。わたしや家族を置いてひとりだけ助かるなんて嫌だと言って逃げ出すかもしれない。

「ということは、もうひとつ上のインパクトがあればいいってことだよね。政府が橘海斗は確実に能力者だから、いますぐ確保せよ、そう命令する状況までもっていく」
「うん」
「二回、やってみたら?」
「二回?」
「そう、予言を二段階にするの。隕石以外の予言を事前にしていたら、政府もさすがに信じるんじゃない?」

マコはこんな提案をした。まず最初に、スポーツなんかの試合結果を当てる。スポーツの結果なんて、さすのに政府でも事前には知らない。そしてそのあと、今度は隕石の落下を予言する。

二回連続で正確な予言をすれば、政府としても黙ってはいないはず。強引にでも連れ去って人材確保に走るはずだと。

「でも、いまは研究所の事件のせいで、スポーツはやってないよ」
「そういえば、そっか。運が悪いよね、ほんとに。じゃあ、海外とかは?」
「海外でも結構中止になってるらしいよ」

行動制限を行っているのは、日本だけではないらしい。他の国でもスポーツやコンサートなどのイベントが中止になっている。

「なら、地震とかは?震度と時刻を正確に予測したら向こうも信じるんじゃない?」
「たぶん、この一週間では起こってない」

マコは腕を組んで難しそうな顔をした。

「やっぱ、スポーツが一番なんだよね。サッカーが9試合、野球が6試合、この勝敗を点差も含めて全部当てたら、相当なインパクトになるはずなんだけど」
「そもそも、ゲームがあっても難しいかもしれないよ。全部の試合の得点まで覚えるのは大変だと思うから」

このチームがこのチームに何点取って、何点取られたか、なんてことを覚えるのは簡単じゃない。
かなりの情報量で、メモなんかも引き継ぐことはできないから、頭で覚えるしかないけど、正直、一度死んだら勝敗はともかく、得点や失点なんてほとんど忘れているかもしれない。

「そんなことないよ。簡単に覚える方法はあるんだから」

そう言ってマコは携帯を取り出して、何かをチェックした。

「いい、莉子。まずはこれを見て」

マコの携帯を覗いていると、そこに写し出されていたのはプロサッカーの順位表。

「これが最新の順位ね。この情報はまあ、いまは覚えなくてもいい」
「うん」
「じゃあまずは、これを三分割するの。つまり、1位から6位、7位から12位、13位から18位までのグループを作る」
「それで?」
「あとはそれぞれに数字を割り当てる。1位のチームは2点取って勝ってるから2、2位のチームは0点で引き分けてるから0。3位のチームは0得点で負けてるから0。4位のチームは1点取って勝ってるから1。この法則を当てはめていくと」

200132という数字が出来上がる。

「この数字は日付に見えるでしょ。2001年の3月2日。その日に生まれた有名人か、出来事を覚えておく。そうすればサッカーの試合の結果は三人、もしくは三つの出来事だけで把握することができる」
「え、でも、対戦相手とかも覚えないといけないんじゃ」
「そんな必要、全然ないよ。だって対戦相手は公表されてるんだよ。これはすぐに出てきたから最新のやつを使ったけど、当然一試合少ない順位表だって確認することができる。そっちのほうにまずは数字を当てはめ、そして公表されている対戦相手を組み合わせていけば、はい答えの出来上がりってわけ」

そっか。どのチームが何点取ったのか、これを覚えておけば、必然的に試合結果もわかるんだ。
一位のチームが三の数字、五位のチームに一の数字があって、この二つのチームが戦う予定があれば、結果は3対1で一位のチームが勝つことになる。

なるほど、これなら忘れることはなさそう。プロ野球の結果も同じようにして覚えれば、完璧な予言になる。

「もし数字がうまく行かない場合、分割の方法を別にするってのもアリ。4分割のほうが覚えやすいかもしれないし」
「でも、手遅れなんだよね」

そう、どんなにいい作戦でも、行えなければ意味がない。

「ほんと、ギリギリアウトなんだよね。先週の土曜日にプロ野球とサッカーはやってるから、3日くらい遡れればいいんだけど、自殺じゃ無理だからね」

わたしはすでに未来を知っている。この状態では、どんなに巧妙に事故に遭ったとしても、自殺という認定が下るに決まっている。

「残されているのは、あえて殺されるってことくらいかな。明日にでもそういうことが起これば、充分に土曜日の試合の予言には間に合う。でも、誰かに殺してくださいなんて頼んだら、それもまた自殺扱いになるんだろうね」

自然な流れで殺される、そんな方法があればいい。
いつもの起点である7月17日から、サッカーと野球の行われる7月15日以前の日に戻れれば、強烈な予言は成功する。

「犯罪者の知り合いでもいれば、殺すように仕向けることもできるのかもしれないけどね」
「さすがにわたしの周りにはそんな人なんて……」
わたしは最後までいい終えずに、空中を見つめた。
「ん?どうした?」

犯罪者の知り合い?
そういえば、わたしは犯罪者を知っている。
そう、ひとりだけ。

以前に、電話でコミュニケーションを取った、爆弾の犯人がいる。
彼を、使う?
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