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節約生活1章「どうしてこうなった!」

戦場へ【1】

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はっと目が覚める。
カーテンから朝日が差し込んできていた。

「あたたっ…いつの間にか寝しもたのか…さてと、今日の仕事の予定はどうやったかな…。」

二度寝をしたいところだったが、重たい体にムチを打って起き上がろうとする。

「あ、あれ?動かない…。」

なんでこんなに体が重いんだ?
まるで金縛りにあってるかのような重さだ。
実際の所は、金縛りに遭った事など無いのだが、きっとこんな感覚なのであろう。
首から上は自由に動かせる事に気付き、辺りを見える範囲だけ見渡してみる。
そこは、明らかに自分の部屋とは全くの別物だった。

「なっ、なんだこの高級そうな部屋は…。」

昨日の出来事をすっかり忘れて、どうしてこんな場所に居るのかが理解できず、内観だけで想像を膨らませていた。

「まさか!ラブホテル!!??」

急に眠気が覚める。

「俺…もしかしたら酒飲めへんのに、記憶吹っ飛ぶまで飲んでもうて、誰かと一夜を共にしてしまったんちゃうか???」

妄想しすぎな気もしたが、額から汗が噴き出してくる。
やばい…。
こんなスキャンダルのような事は、芸能生活に支障が出てしまう…。
…人気もクソも…あんまり売れてない3流芸人なんやけど…。
いやいや、今はそんな事を考えてる暇は無い!!!
寝ぼけながら、よくわからない妄想を巡らせつつ、一人で勝手にアタフタと焦っている。

焦れば焦るほどパニックになり、頭が真っ白になっていく。
動かない体をジタバタさせていると、ドアの開く音が聞こえてきた。
もしや、一夜を共にした美少女が帰ってきた?
スキャンダル目的で俺を拘束しているとしたら、この動かない体の理由も納得できる。
ドアの方向へと、器用に顔を向けた。

「お目覚めですか?」

うわぁ!やってしもた…。
メイド服を着た女性が、ゆっくりとこっちに近づいてくる。
俺はそんなコスプレとか特殊プレーとかは、あんまり好きやないねん…。

「す、す、すまん!俺!嫁いるねん!この事は、だ、だ、誰にも言わんといてくれ!!!金は無いから、体を使って何でもしたるから!!!」

俺は必死にメイドコスプレをした女性に、みっともなくひたすら顔だけを上下に無我夢中で動かし謝り続けた。

「どうなされましたか?悪い夢でも見ておられたのですか?額から汗が噴き出していますよ?」

それでも女性は近づくことをやめなかった。
俺の心音が周囲に飛び出しそうな程、一段階づつ強く太鼓を叩いた。
メイドコスプレをした女性が、やさしくハンカチで俺の額の汗を拭い取ろうと近づけた時。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

高級そうな部屋に、俺の雄叫びが響き渡った。
女性は驚いた顔をして、申し訳なさそうに丁寧に言葉を発する。

「わたくしは、なにかご無礼を働きましたでしょうか?勇者様…。」
「はぁ、はぁ…へっ?勇者?」

そこで我に返る。
心音が加速おをやめて、ゆっくりと正常値に戻っていくのが分かった。
俺は寝ぼけていて、昨日の記憶がすっ飛んでいることに、今頃気づく。
何もかも勘違いしていた事に、恥ずかしさを覚えた。

「せ、せや!寝ぼけてて、ちょっと悪夢から現実に戻るのが遅れただけやで…。びっくりさせてもうて、すまんな!」
「左様で御座いましたか。こちらも勇者様にご無礼があった場合は、王様の処罰を受けることになるので、一気に冷水を飲んでしまう気分でしたよ。それでは気を取り直して、朝食の準備が整っておりますので、大広間までご案内致しますね。」

メイドはこちらの様子を伺いつつ、俺の行動を待っていた。

「あ、あの~…大変、申し訳ないんやけど…体が一切動かないんですわ…。」

落ち着いて体を見てみると、昨日の鎧を身にまとったまま寝ていたらしい。
いつのまにか魔法の加護が切れているらしく、重量感がそのまま体にまとわり付いている。
気のせいでは無いと思うが、昨日よりも重い気がした。

「加護を起動されれば、動けると思いますが?」
「恥ずかしながら、その発動方法が今ひとつ理解できてないんや…。」

納得してくれたメイドは、うつ伏せで寝ていた俺を仰向けにひっくり返す。

「発動方法は、この胸に付いている模様を手でかざして見て下さい。」

俺は言われたように、鎧の胸辺りに付いている模様に、その気になれば動かすことが出来た重い手を必死で動かし、その模様に触れてみた。
模様が昨日と同じように光だし、だんだんと体の自由が効くようになっていく。
軽くなった体の実感を確かめるために、行動を起こそうと仰向けに寝る俺は、頭の横に手を付いてブリッジした状態から一気に体を持ち上げた。
そんなアクション俳優や肉体系の体操選手並みの事が、普段の自分には出来る訳も無いのに、今なら出来ると妙な自信を持ち合わせている。
感覚的には天井がスローモーションのように近づいてきた。
ふわりと飛んだ感覚や感触がひしひしと全体に伝わってくる。
空中で妙な自信が、根拠のある自信へと変わっていった。

そして、天井に勢いよくぶつかった。

「ぐへっ…」

天井から真っ逆さまに床へと、音を立て無造作に落下した。
心配そうにメイドが声をかけてくる。

「勇者様?大丈夫でしょうか?」
「だ、大丈夫だ…問題ない…。」

いくら鎧のおかげで動きやすくなったと言っても、ダメージはそのまま残るらしい。
力の加減は覚えておいた方がいいかもしれない。

「それでは大広間までご案内します。」

メイドに連れられて、無駄に大きい通路を5分程進んで行くと、また一段と大きい扉の前まで案内される。
ノックを2回すると、扉は勝手に開いた。

「よくぞ、参った。」

王が無駄にでかいテーブルの奥に、堂々と腰を掛けて既に食事を始めている。
テーブルの上には、朝食のはずなのだが、今から宴を始めますと言わんばかりの、様々な料理が並べられていた。

「昨日は疲れて突っ伏して寝てしまったと聞く。夜の勇者歓迎パーティを急遽きゅうきょ取りやめて、朝食時に変更した。思う存分に味わうがよい。」

俺の口が開きっぱなしで言葉にならない事を察してくれた様で、王は気前よく喋りかけてきた。

「ほ、ほな、遠慮なく頂きます。」

メイドに促されるままに席へ着く。

「食べたい物があれば、私達にお申し付けください。」
「ほ、ほなら、何があるかわからんし、君のオススメをお願いしようかな。」
「かしこまりました。」

この系統のバイキング形式なら自分で取っていくスタイルで理解が早いのだが、自分で取らずにメイドに頼むとなると、妙に緊張をしてしまう。

「勇者よ。」

メイドが食事を取りに動いたすぐ後に、王が話しかけてくる。

「お前には3000人の我が軍の部隊を用意した。煮るなり焼くなり好きに手駒として使ってくれたまえ。」
「俺は指揮を取るだけでええんかいな?」
「お前には戦って欲しい相手がいる。共和国側の異世界人『リエッタ』だ。」

向こう側にも同じ境遇を持つ人がいるのかよ…。

「リエッタは、ほぼ一人の力で3000人の軍力を押し返す程の力を持っている。お前も異世界人ならそれぐらい出来て当たり前だろう?」
「え?ちょ、ちょっとまって!無理!無理やて!」

慌てて意見を申し立てる。

「こっちの軍力は3000人と俺1人って事になるやん?もしかして、リエッタを押さえ付ける役目が俺ってこと?」
「理解が早いな。」

メイドがテーブルに食事を運んできた。
見たことのない料理だったが、綺麗に盛られていて、とても美味しそうだった。
俺は昨日のたこ焼きもどきを食べてから、何も食べていないので心底腹が減っていたが、今はリエッタの事の方が優先順位が高い。

「俺は戦い方も知らない、ど素人やぞ!めっちゃ強い規格外の奴を抑える事なんか不可能やで!」

王はフォークで最後の肉を口に頬張り、一呼吸おいて口元を拭きながら落ち着いて回答した。

「安心しろ、その辺に関しては、先に手は打ってある。リエッタ自身の戦力はガタ落ちになるはずだ。検討を祈っているぞ。」

本当に大丈夫なんだろうか…。
今は信じる事しか無いと思い、とりあえず目の前に出された料理を食べよう…ってあれ?

「飯…、あらへんやん…。」

王が席を立った瞬間に、まだ山盛りに盛られているテーブルの料理をメイド達が全て回収作業していた。
俺の目の前にあった、ご飯も含めて。

「ちょ、ちょっとまちいな!俺の飯をどこ持っていくんや?」

メイドが笑顔で回答する。

「王様の食事が終わられた後は、直ぐに食事をお下げしなければならない仕来りがありまして、勇者様には申し訳ないのですが、お食事をお下げ致しました。」

俺はもしやと思い、メイドに追って聞いてみる。

「その引き上げた食事はどうなるんや?」
「全て廃棄処分となります。」

なんと勿体無い!
俺のドケチ精神が沸騰を始めて、王に一言文句を言ってやろうと、ズカズカと近寄っていった。
途中まで行った所で急に腕を掴まれて、引き止められる。

「な、なんや!」
「ひぃっ!!!ご、ごめんなさいぃ!」

俺の怒鳴り口調にビビり腰の小柄な執事が、腕を両手で持ちフルフルと震えていた。

「王に話したい事があるさかい、この手を離してもらえるか!」
「そ、それは出来ません。」

小柄の男はビビりながらも、手を離そうとはしなかった。

「今は抑えて下さい。お願いします。」
「…なんや、深い事情でもありそうやな…。」

意図として引き止められている事を察して、俺はひとまず小柄の男の指示に従う事にする。
場所を変えて小柄の男に理由を尋ねる為に、俺はイラつきながら喋り出した。

「で、あんな勿体無い事をミスミス見逃して、どう説明してくれるんや?」
「突然のご無礼をお許し下さい。きっと、あのまま王に近づけば、確実に命を落とされていたと思います。」

あの王ならやりかねないだろう…。
それでも、勿体無い事をする奴は、本当に許せない…。
小柄な男は淡々と話し続けた。

「私は、とある魔法使いの使い魔でございます。主人あるじの命により、貴方の護衛を陰ながら努めさせて頂きます。」
「ん?何で俺の護衛?話の全容が意味不明なんやけど?」

何故、魔法使いの使い魔が俺を護衛するのか、意味がわからなかった。

「理由は後々わかると思います。今は答えるべき時ではないと、主人あるじが申しているので。」

イライラが少し爆発してしまう。

「言えば、済むことやんけ!」
「ひぇっ!!ごめんなさい!ごめんなさい!!!!」

小柄の男は謝りながら、反対方向へ逃げ出してしまった。

「お、おい!ちょっとまてよ!!!」

ちょっと怒鳴っただけやのに、なんなんやあいつ!
ちゃんと説明してくれても、ええやんけ…と思いつつ辺りを見渡す。

「やっべ…ここどこや…。」

完全に道に迷ってしまっている。
そこへ甲冑を着た者が、こちらへと歩み寄ってきた。
少し安堵をしたのも束の間、甲冑を着た者は唐突に話し始めた。

「勇者様、出撃の準備が整いました!」
「え?もう出撃なん?」

急な告知に俺は戸惑いを隠しきれない。
そんな事をお構い無しと言わんばかりに、2人の甲冑野郎が左右に散らばり、俺の肩を持ち上げて強制的に運ばれ出した。

「え?ちょ、ちょっとまちいな!何してんのお前ら!自分で歩くって!」
「王の機嫌が損なわれそうなので、少し早めに出発となりました。我慢してください。」
「あいつ、どんだけ気分屋やねん!!!」

キレ気味の俺の言葉を無視しながら、2人の甲冑野郎は突然走り出し城内の集合場所へと急いで向かった。
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