バッドエンドのその先に

つよけん

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第1章「反魔王組織」

封印

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 俺の脳裏には細切れになったナナの姿が映った。
 予知の結果を覆す事が出来ず……助ける事は無理なのか……。
 意識だけが加速した状態で、すべての物がスローモーションに見えてきた。
 ナナの体に爪が覆いかぶさる瞬間が、生々しく自分の目に飛び込んでくる。
 ダメだ!もう見ていられない……。俺はゆっくりと目を閉じだした。
 もう……あの悪夢と同等の情景を見るのは真っ平だ……。
 俺の視界は完全に光をシャットダウンする。

 ……。

 目の前が真っ暗なはずなのに、突然視界がクリアになっていく。
 瞼の裏側であの時の悪夢の情景が映し出されていた。

「もう……この方法しかないわ……」
「ダメだ!そんなのはダメだ!俺が策を考えるから待ってくれ!!」

 突き出す崖の上で、俺とアリシアが討論をしている場面である。
 彼女は唐突に走り出した。
 俺はそれを止める為に、彼女の腕を掴む。

「もう時間が無いの!あの魔力を封じられるのは私の魔力だけなの!」
「違う!君の魔力じゃ不完全なんだ!」
「じゃぁ……どうしろって言うのよ!!」

 アリシアのこの一言で、俺の心は動揺する……。
 俺は知っていたのだ……この後の展開でこの世界が救われる方法を……。
 だからこそ怖気づき……思考と行動がチグハグな状態に陥る。
 一瞬の隙をみてアリシアは俺の手を振り払った。
 彼女はそのまま突き出す崖の先端へと走り出す。
 俺も必死になって後を追いかけた。
 迷いは行動を鈍らせる……俺にこの時、勇気と覚悟が備わっていたならば……。
 アリシアは一気に崖から身を投げ出した。
 そして……俺の脳内では……。

『貴方は彼女の身代わりになりますか?』

『はい』
『いいえ』

 俺は必死になってアリシアが落下しないようにする為に手を伸ばした。
 『はい』と選択していれば手を掴み俺が落下する。
 『いいえ』と選択していればアリシアが落下する。
 死の恐怖は全くなかった事だが、落ちればどれだけの苦しみが自分に襲い掛かってくるのだろう……。
 永遠の苦しみがあるんじゃないのか?
 そんな恐怖心から俺の選択肢は……『いいえ』と選択していた……。
 俺の空を切る手を彼女は見ながら、ゆっくりと燃え盛る業火の中へと落ちていく……。
 最後に涙を宙に輝かせながら、俺に満面の笑みを浮かべて彼女は言った。

「またね……」

 ……。

 すべての映像は瞼を閉じた時の一瞬の出来事である。
 何故こんな映像が流れたのか……自分自身の戒めの為であろう……。
 もう2度とこんな参事は起こしてはならないと、アリシアが言っている気がした。
 俺に残された選択肢……。
 たとえ『不可能』だったとしても『救う』の一択しかないじゃないか!!
 俺はナナを救う!門左衛門も救う!わがままでもいい!
 それが出来るのは、この世界を作った俺しかいないじゃないか!
 あの悪夢のような二の舞は、もう絶対に踏むものか!踏んではならない!!
 そのように強く心に念じた時、口から勝手に言葉では表せない表現を口ずさんでいた。
 
『〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇』

 自分でも何を言っているのか意味が分からない……。
 だけど……1つ言える事はこの言葉が魔法である事実だけである……。

 パッと瞼を開けると不思議な光景が広がっていた……。
 人、物、情景の見る物すべてがバグが起きたように色が反転しており、まるで時間が止まっているように見えている。
 いや……実際に時間が止まっているのだ……。
 その証拠に目の前には少し門左衛門の爪が食い込んだナナの停止している姿があった。
 間に合ったのかと言われれば少し手遅れな気もするが、死んでいないのであれば回復は可能である。
 俺は自分の左手を動かして、この状況で動けるかどうかを確かめた。

「これはいったい……」

 自分の喋った言葉はやまびこのように辺りに反射して消えていった。
 この状況に驚いた表情をしていると更に驚く事が起こる。
 自分の許可なく脳内で数字の羅列が勝手に侵入してくるのだ。
 別に苦しくも痛くもない……ただ記憶として刷り込まれているだけ。
 気が付いた時にはその刷り込み作業はすべて終了していた。
 今のはいったいなんだったんだ?
 その答えはすぐに理解が出来る。
 俺は頭に浮かんできた言葉をそのまま口に出して読み上げた。

「封印魔法?」

 要するにモンスターを強制的に従えさせる事が出来る魔法らしい……。
 封印する際に宿り場所が必要であるらしい……。
 使用回数は1回までで魔力を大量に消費するので注意が必要との事らしい……。
 と……そのような説明が頭の中で渦巻いていた。
 これでたぶん門左衛門を封印しろと言われてる気がするが、正直言って気味が悪い。
 さっきも訳も分からず強く念じて言葉には表せない魔法を唱えたと思ったら時が止まり。
 はたまた都合よく封印魔法なんて物を授かって……。
 これは自分が創造者として作った魔法でもない、第3者が作った魔法である……。
 ……くそ!考えても答えは見つかりそうにないな……。
 門左衛門を操った主犯の事も気になるが……そいつが俺に魔法を与えるわけもないだろう……。
 考えるのはもうやめよう……。
 使えるのなら有難く使ってやろうじゃないか!!

 俺は思い立ったように突き刺していたクレアのツーハンドソードを手に取り、そのままナナの目の前に立った。
 頭に食い込んだ爪が少し生々しく見えるが、深く入っていないのでまだ致命傷ではない……。

「痛い思いをさせてごめんね……」

 ナナには聞こえていないだろうが軽く声をかけて、俺はツーハンドソードを門左衛門の爪へ攻撃する為に下段で構えた。
 左手一本でこの爪を跳ねのけられるかどうかは賭けだったが今はこれしか思いつかない。
 まだ効力が持続している肉体強化魔法を確かめると、一気に爪に向かって剣を振り上げて叫んだ。

『〇〇〇〇!!』

 言葉には表せない表現で、たぶん解除と言っているのだと思う……。
 剣と爪がタイミングよく重なりあった瞬間に、色の反転は通常の色へと戻った。
 金属と金属のぶつかる高音域の音が鳴り響き、門左衛門の爪はナナの頭から遠ざかった。
 片手でもなんとかなるものだな……。

「まあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 門左衛門は鳴きながら、体制を崩している。
 血を頭から吹き出して崩れ去ろうとしているナナの姿を見ながら、俺は門左衛門の方へ剣の振り上げの反動を使いながら振り返った。
 そのままツーハンドソードに魔力を注ぎ始めて、門左衛門の固い皮膚へと軽く突き刺した。
 この魔法もきっと言葉には表せない表現を使うのだろう……。
 剣に自分の魔力を根こそぎ吸い取られるように、激しい脱力感が全身を巡った。
 そして俺はさっき覚えたての封印魔法を頭に浮べて気合を入れて詠唱を始める。
 まさかこんな言葉が出てくるとは予想していなかったがな……。

『目玉焼きは醤油派ですか?それともソース派ですか?私達は塩派です!!』

 ……は?
 
 な、なんだこの呪文は……。
 一瞬だけ沈黙が流れたが、魔法は正常に作動しているようだ。
 魔力を注ぎ込んだツーハンドソードは、魔力を光のリボンに変化させて回転させながら包まれて見えなくなった。
 光のリボンは何重にも何重にも重なっていき、次第に大きさを増していく。
 その光のリボンを不快に思った門左衛門は、爪を立てて攻撃をしかけてきていた。
 しかし、その攻撃を受けた光のリボンは、爪へと纏わり付き門左衛門の行動を制限させ始める。
 必死に逃れようとする門左衛門だったが、もがけばもがく程にリボンは絡みついた。
 やがて絡みついたリボンは、大きい門左衛門を軽々と宙へと持ち上げる。
 魔法は次のステージに入ったのか、俺が持っていた柄の部分が消えてなくなったのが分かった。
 柄を持っていないからと言って、依然として魔力は垂れ流し状態である……。
 これ……俺の魔力が持つかが心配になってきた……。
 光のリボンは更に大きさを増していき、門左衛門と同等の大きさまで拡大する。
 ここでやっと魔力供給がストップした。
 俺の手が光のリボンを放すと、門左衛門と共に少しずつ上昇を始める。

「あ、あれ?」

 自分の意識はまだしっかりしているが体の自由が奪われたようで、そのまま後ろに倒れそうになった。
 やばい!後ろにはケガを負ってるナナが倒れているはずだ……。
 そう思いながらも為す術なくして、ドサッと何かに支えられるようにして後ろへと倒れ込んだ。

「トモキ兄ちゃん……だ、大丈夫?」

 そこには頭から血を流しながらも、しっかりと意識があるナナの姿があった。
 後でちゃんと治療してやるからな……。
 ナナは片目を瞑りながら、弱々しい声で質問を問いかけてきた。

「門左衛門……殺しちゃうの?」
「いや……ちゃんと生きて次も逢えるぞ……」

 今度はしっかりと最後まで言う事が出来た。
 それを聞いたナナは安心した顔を見せて、そのまま光のリボンと門左衛門の行方を追って空へ顔を上げた。
 だめだ……完全に魔力切れだ……。
 自分の瞼が石のように重くなってきた……。
 でも俺には最後まで見届ける義務がある。
 遅れた感じで安全を確認しつつクレアとストロガーヌは、俺達の傍まで駆け寄って来ていた。

「これはどういう状況なの?」
「ナナ!大丈夫か!!」

 クレアの質問に答えてやりたいが、もう口も動かせそうにない状態だ……。
 ストロガーヌは相変わらず娘しか見えてないな……。

「娘にこんな思いをさせよって!!もう一押しなら、ワシがとどめを……」
「ダメ!!」

 ストロガーヌが最後まで言葉を言う前にナナが必死に喋り釘を刺した。

「トモキ兄ちゃんを……し、信じて……」
「な、なぜじゃ……」

 ストロガーヌは弱々しいナナの声に、とてつもなく困惑をしている。
 仕方がない表情を見せた後、俺を睨みつけて上を見上げた。
 それにつられてクレアも上を見上げる。

 もう最終段階だ……。
 光のリボンは門左衛門が動けば動く程に、大きい体を呑み込んでいく。

「まあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 最後の鳴き声を響かせてリボンが全身を覆い隠し、門左衛門の姿は完全に見えなくなった。
 あー瞼が重い……目が明けてられない……。
 も、もう少しだけ……俺の意識よ保ってくれ!
 俺は目を細めながら必死に最後まで意識を抗わせた。
 次第に大きかった光のリボンは収縮を始め、明らかに門左衛門の大きさとは異なる大きさへと変化を見せる。
 徐々に徐々に収縮していき、やがてその光のリボンは細長い物へと形を変えていった。
 最後にあっけない形で光のリボンが消え失せて、棒状の物が縦回転をしながら空から降ってくる。
 数秒後……地面にサクッと音を立てて突き刺さった。
 それはクレアのツーハンドソードだった。
 姿形は前のままの剣その物だったが、前の物より存在感があり威圧感が半端なくオーラとして出ている。
 これはきっと……うまく封印が完了したと言う証だろう……。

 俺はそう思った瞬間に安心したのか、テレビのコードを引っこ抜かれたようにプツンと意識がそこで途切れた。
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