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第1章「反魔王組織」
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『地上の闇夜に浮かぶ円鏡に反射し踊り舞う一乱の聖霊よ……今ここに力を震わす事を願う……』
俺は状態異常回復系魔法の発動条件をスムーズに読み上げた。
何も問題は無く魔法が構築し起動を始めて、すべての五感を通じて魔力が高まっているのが分かる。
この魔法はメタルバインドとは違って、元々この世界に既存する魔法だ。
ただ……回復系魔法同様に熟練度は上げていない為、詠唱省略などの時短は出来ない。
再三言うようだが……めんどくさがらずに熟練度は上げとくべきだった……。
元パーティに居たヒーラーが優秀だったお陰だけどな……。
などとアリシアの事を少し思い出す。おっと今はそれどころじゃない……。
実践向きではない魔法だが動けない門左衛門相手ならば、簡単に落ち着いて詠唱が可能と言うわけだ。
さっきまで鎖を解こうと暴れていたコイツも、俺の温かい魔法にあてられて動きを穏やかに沈めている。
そして俺は優しく語りかける様に魔法を唱えた。
『……我の前へ顕現せよ……ルナ!!』
突然昼間だったにも関わらず、天地をひっくり返したように辺りは夜の暗闇に包まれる。
「な、なんじゃ!」
「ど、どう言う事?」
「あれ?私はどうしてココに?」
遠くの方でストロガーヌとクレアの驚いた声と、ナナの不思議そうな声がこちらまで聞こえてきた。
そちらの状況を一切見ていないので盗賊達の件がどうなったかわからない……。
3人の声がハッキリと聞こえた事と盗賊の声が聞こえない事で推察するに、ストロガーヌが盗賊達を何とかしてくれたと認識しよう。
これで心置きなく、門左衛門の対処に集中出来る……。
……。
「えっ!?なんでナナの声が!!」
俺は声が裏返りながら、言葉を口に出して声の聞こえる方向へ目を向ける。
当たり前の事なのだが自分で暗闇を作ったんだ……見えるはずがない……。
一方で聖霊召喚が次の場面へ移行していた。
暗かった周囲は門左衛門の体の上辺りで、ほのかに優しい光を放ちながら闇を侵食していく。
ウィルの光とはまた違っていて、いつまでも見ていられる安心した淡い黄色い光。
徐々にその光の中心に、小さな妖精の姿が膨れ上がるように現れていた。
「ちょっと!トモちゃん!何で召喚早々に私の事見てないのよ!」
俺はプンプンと怒る声が聞こえる門左衛門の上を反射的に振り向いた。
どうやらルナが召喚されて、俺に見てもらえなかった事を嫌悪しているらしい……。
「あ、あぁ……。ちょっと気になる事があって……」
「それは私より大事な事なの?私を呼んどいて他の女?私よりサラちゃんやウィルちゃんの方が可愛いもんね?だからって本命の私を放って他の女とイチャイチャする気?ねぇ?イチャイチャする気なの???」
うわっ……思い出した……。
他の聖霊も同様に癖の強い性格をした奴ばかりだが、ルナの場合はめちゃくちゃ嫉妬深くてめちゃくちゃ面倒くさい聖霊の1匹である事に間違いない。
確かにサラマンダーも面倒くさい聖霊の1匹だが、求婚してくるだけであってまだ節度があってマシな方だ……。
一方でルナの場合は本性を剥き出しにした猛獣の如く、好きの押し売りをして自分しか見て欲しくない欲望を全面的に前へだし、自分の思う様にいかなければそうなるまで粘着し続ける……いわばヤンデレと言うカテゴリーを強調した象徴的な奴なのだ……。
設定を考える上でヤンデレは一部ファン層の武器になるなどと言った事を、実際に体験した事で前言撤回したくなった事は言うまでもない……。
「ねぇ?ちゃんとこっち見てる?私だけを見てる?目を逸らしてるんじゃない?ちゃんと見て?ねぇ聞いてる?私の声しか聞かないで?何で私を無視するの?ねぇ、トモちゃん?」
ルナは俺を質問攻めにしながら温かい光を周囲にまき散らし、美しい透き通った背中の羽をパタパタとさせていた。
そのままゆっくりと近づいてくると、俺の頬の隣で肩に座り羽を休ませる。
「わ、わかった。わかったから……手始めにそこのドラゴンに『フルムーンドロップ』を使ってくれないか?」
「あぁ……私、トモちゃんに頼られてるのね♪愛されてるのね♪」
俺が指示した事によって表情が一変して、暗い顔から明るい顔へとシフトチェンジした。
とりあえず指示した事をちゃんとやってくれるので良しとしよう。
キャラクターデザイン的にはブロンズ色のロングヘアでツリ目は好みではあるが、本当に性格の設定を間違えた事をいつも後悔している気がする……。
「それじゃ『フルムーンドロップ』使うよ?使っちゃうよ?」
「あぁ……頼むぞ」
「ちゃんと見ててね?見ててね?」
俺は言われたとおりにルナを真剣な眼差しで見つめる。
ルナは見られている事で頬を赤らめながら、門左衛門の頭上へと肩から飛び出した。
「いっくよ~」
ルナは両手を空に掲げると、手に魔力を集中させ始める。
チラチラとこちらの顔を伺いながら、必死になって行動しているのが何とも可愛らしい。
俺はちゃんと見てるアピールをしながら心の中で深く頭を下げた。
ヤンデレ設定さえ無ければ聖霊の中で、ウインディ―ネと同等の可愛さは持ち合わせていただろうに……。
本当にそんな設定を植え付けてしまい……すみませんでした……。
その後直ぐにルナの手には魔力が溜まったのか、エネルギーが集約して丸くなり輝きを増していた。
見た目は真ん丸お月様。流石、月の聖霊だな。
そのまま掲げていた両手を、何かを含ませたままゆっくりと胸元まで降ろしてくる。
手を器代わりとして中に入った液体を零さないようにしていた。
ルナはまたもやこちらの顔を確認するように見てくる。
俺もちゃんと見ているよっと、アピールしながらニコッっと微笑みかけた。
「トモキ兄ちゃん!!」
突然ナナの声が聞こえてきて、俺の腕のない右手側の横腹に衝撃が走る。
何事かと思って顔をそっちの方向へと向けると、そこには自由に動いているナナが横腹にくっ付いていた。
どういう訳か動けるようになり、聖霊のルナの明かりを頼りに俺と門左衛門のいる場所へと来たらしい……。
ナナは半泣きになりながら喋りだす。
「うぇっぐ……門左衛門をどうする気なの?うぇっぐ……殺しちゃうの?」
「いや、殺さない……ぞ……」
俺がナナに半分回答を済ませた辺りで、ルナのどす黒いオーラを感じ取った。
そりゃずっと見てるよアピールしていたのに、目を逸らせば怒るわな……。
それも他の女の子に抱き付かれている事も、火にダイナマイトを入れているようなものである……。
「ま、まて!ルナ!落ち着け!これは不可抗力だぞ?」
俺は必死にルナに弁解をするが、彼女は魔力の籠った液体を手の力を抜いてばら撒いた。
やばい!これだと魔法の効力が得られないんじゃないか?
フルムーンドロップの効力は、この異世界での死以外の状態異常を完治する効力を持っている。
門左衛門が掛かっている状態異常が自分の知らない異常な為、仕方なく神級魔法を使ったというのに……これでは魔力を無駄にしてしまうじゃないか!
「トモちゃん?その女だれ?誰なの?」
ルナはプルプルと体を震わせて、白目が血走って鬼の形相と化していた。
「トモキ兄ちゃん?」
聖霊の声にナナは不安そうに俺の顔を見ている。
今すぐ逃げ出したい……穴があったら入りたい……もう、なるようになるしかない……。
とりあえず聖霊のルナに状況説明しても埒が明かないだろうから、優先順位的にナナへ説明しよう。
そう思った瞬間……それは一瞬の気のゆるみだった。
「まあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
急に門左衛門が苦しみだして、その気迫だけで俺達は吹っ飛ばされる。
俺はナナを庇いながら地面を転がった。
止まったところで、ナナに一早く声をかける。
「大丈夫か?」
「へ、平気だよ」
さっきまで穏やかだった門左衛門が、また暴れだすなんて……。
ルナの温かい光は健在だったが、マイナスオーラに感化されての事か?
それとも不発した魔法が悪影響を及ぼしたのか?
俺は一緒に飛ばされてきたルナに尋ねる事にした。
「おい!ルナ!これはどういう事かわかるか?」
「不自然よ……不自然な事が起ってるわ……」
ルナは明らかに今まで見せた事のない表情を見せていた。
これは他の聖霊にも言える事だが……聖霊達は別の世界で人間や魔族などに魔力を貰って伸び伸びと生きている。
それがどれだけ安全で安心出来る物か……。
俺みたいに聖霊を具現化できる能力があるならまだしも、一般的に具現化は不可能な事なのでほぼ危険とは皆無である。
そういう設定を考えたのも自分なわけで、聖霊達は一生生命の危機に縁がない生物であった。
だからこそこの表情は絶対的に生まれないはずだったのだ……。
そう……ルナはこの状況に恐怖していたのである……。
俺は咄嗟にルナへと、その真意を確かめてみた。
「どういう事なんだ?」
ルナの身体は発光を始めていた。
サラマンダーの時と同じ様に、タイムリミットがきてしまったらしい……。
「私の魔法は完璧に発動したのよ?でもなんで?なんで?どうして?どうしてなの?」
ルナは頭を抱えながら、消えていく寸前まで口を動かしていた。
どういう事だ……フルムーンドロップが成功していたという事なのか?ならば彼女の魔法は門左衛門には通用しなかったと言うのか?
少しでも多くの情報を仕入れないとダメだ!
俺は感情的にルナに問いかける。
「少し落ち着け!頼むから消える前に何が起こっただけでも教えてくれ!」
「私の魔法の効力が発動する前に、何らかのエラーが発生してすべて無効化させられたのよ!!」
ルナはその言葉を残して、元の世界へと戻っていった。
暗闇だった周囲は光を取り戻して、先程と同様にして夜と昼が入れ替わった。
効果がなかったわけじゃなく、魔法その物がエラーにより無効化……。
考えれば理解できないわけじゃないが……自分が生きているこの異世界でも、エラーって発生する物なのか……。
「まあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ルナの言葉を落ち着いて考えさせてもらえそうにない状況になった……。
門左衛門の気迫の籠った重低音の叫び声と共に、メタルバインドを自力で粉砕したのである。
かなり強固に設定した魔法だったはずなのに……破られるなんて……。
もしかしたらエラーと何か関係があるのかもしれないな……。
考えている暇もないのにまた考えを巡らせていると、門左衛門が弱った体に鞭を打って俺とナナの方向へとがむしゃらに襲い掛かってきた。
くそっ!予想以上に速い!気付いた時にはもう数十メートルを切っている。
ナナだけでも逃がして俺だけ犠牲になる方法しか……って、いない!
前を向きナナの姿を確認する。
「なっ!何をしてる!」
既にナナは俺から離れており、目の前で両手を広げて門左衛門を静止しようとしていた。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
俺の必死の叫びも虚しく、門左衛門の爪は今まさにナナを捕えようとしていた……。
俺は状態異常回復系魔法の発動条件をスムーズに読み上げた。
何も問題は無く魔法が構築し起動を始めて、すべての五感を通じて魔力が高まっているのが分かる。
この魔法はメタルバインドとは違って、元々この世界に既存する魔法だ。
ただ……回復系魔法同様に熟練度は上げていない為、詠唱省略などの時短は出来ない。
再三言うようだが……めんどくさがらずに熟練度は上げとくべきだった……。
元パーティに居たヒーラーが優秀だったお陰だけどな……。
などとアリシアの事を少し思い出す。おっと今はそれどころじゃない……。
実践向きではない魔法だが動けない門左衛門相手ならば、簡単に落ち着いて詠唱が可能と言うわけだ。
さっきまで鎖を解こうと暴れていたコイツも、俺の温かい魔法にあてられて動きを穏やかに沈めている。
そして俺は優しく語りかける様に魔法を唱えた。
『……我の前へ顕現せよ……ルナ!!』
突然昼間だったにも関わらず、天地をひっくり返したように辺りは夜の暗闇に包まれる。
「な、なんじゃ!」
「ど、どう言う事?」
「あれ?私はどうしてココに?」
遠くの方でストロガーヌとクレアの驚いた声と、ナナの不思議そうな声がこちらまで聞こえてきた。
そちらの状況を一切見ていないので盗賊達の件がどうなったかわからない……。
3人の声がハッキリと聞こえた事と盗賊の声が聞こえない事で推察するに、ストロガーヌが盗賊達を何とかしてくれたと認識しよう。
これで心置きなく、門左衛門の対処に集中出来る……。
……。
「えっ!?なんでナナの声が!!」
俺は声が裏返りながら、言葉を口に出して声の聞こえる方向へ目を向ける。
当たり前の事なのだが自分で暗闇を作ったんだ……見えるはずがない……。
一方で聖霊召喚が次の場面へ移行していた。
暗かった周囲は門左衛門の体の上辺りで、ほのかに優しい光を放ちながら闇を侵食していく。
ウィルの光とはまた違っていて、いつまでも見ていられる安心した淡い黄色い光。
徐々にその光の中心に、小さな妖精の姿が膨れ上がるように現れていた。
「ちょっと!トモちゃん!何で召喚早々に私の事見てないのよ!」
俺はプンプンと怒る声が聞こえる門左衛門の上を反射的に振り向いた。
どうやらルナが召喚されて、俺に見てもらえなかった事を嫌悪しているらしい……。
「あ、あぁ……。ちょっと気になる事があって……」
「それは私より大事な事なの?私を呼んどいて他の女?私よりサラちゃんやウィルちゃんの方が可愛いもんね?だからって本命の私を放って他の女とイチャイチャする気?ねぇ?イチャイチャする気なの???」
うわっ……思い出した……。
他の聖霊も同様に癖の強い性格をした奴ばかりだが、ルナの場合はめちゃくちゃ嫉妬深くてめちゃくちゃ面倒くさい聖霊の1匹である事に間違いない。
確かにサラマンダーも面倒くさい聖霊の1匹だが、求婚してくるだけであってまだ節度があってマシな方だ……。
一方でルナの場合は本性を剥き出しにした猛獣の如く、好きの押し売りをして自分しか見て欲しくない欲望を全面的に前へだし、自分の思う様にいかなければそうなるまで粘着し続ける……いわばヤンデレと言うカテゴリーを強調した象徴的な奴なのだ……。
設定を考える上でヤンデレは一部ファン層の武器になるなどと言った事を、実際に体験した事で前言撤回したくなった事は言うまでもない……。
「ねぇ?ちゃんとこっち見てる?私だけを見てる?目を逸らしてるんじゃない?ちゃんと見て?ねぇ聞いてる?私の声しか聞かないで?何で私を無視するの?ねぇ、トモちゃん?」
ルナは俺を質問攻めにしながら温かい光を周囲にまき散らし、美しい透き通った背中の羽をパタパタとさせていた。
そのままゆっくりと近づいてくると、俺の頬の隣で肩に座り羽を休ませる。
「わ、わかった。わかったから……手始めにそこのドラゴンに『フルムーンドロップ』を使ってくれないか?」
「あぁ……私、トモちゃんに頼られてるのね♪愛されてるのね♪」
俺が指示した事によって表情が一変して、暗い顔から明るい顔へとシフトチェンジした。
とりあえず指示した事をちゃんとやってくれるので良しとしよう。
キャラクターデザイン的にはブロンズ色のロングヘアでツリ目は好みではあるが、本当に性格の設定を間違えた事をいつも後悔している気がする……。
「それじゃ『フルムーンドロップ』使うよ?使っちゃうよ?」
「あぁ……頼むぞ」
「ちゃんと見ててね?見ててね?」
俺は言われたとおりにルナを真剣な眼差しで見つめる。
ルナは見られている事で頬を赤らめながら、門左衛門の頭上へと肩から飛び出した。
「いっくよ~」
ルナは両手を空に掲げると、手に魔力を集中させ始める。
チラチラとこちらの顔を伺いながら、必死になって行動しているのが何とも可愛らしい。
俺はちゃんと見てるアピールをしながら心の中で深く頭を下げた。
ヤンデレ設定さえ無ければ聖霊の中で、ウインディ―ネと同等の可愛さは持ち合わせていただろうに……。
本当にそんな設定を植え付けてしまい……すみませんでした……。
その後直ぐにルナの手には魔力が溜まったのか、エネルギーが集約して丸くなり輝きを増していた。
見た目は真ん丸お月様。流石、月の聖霊だな。
そのまま掲げていた両手を、何かを含ませたままゆっくりと胸元まで降ろしてくる。
手を器代わりとして中に入った液体を零さないようにしていた。
ルナはまたもやこちらの顔を確認するように見てくる。
俺もちゃんと見ているよっと、アピールしながらニコッっと微笑みかけた。
「トモキ兄ちゃん!!」
突然ナナの声が聞こえてきて、俺の腕のない右手側の横腹に衝撃が走る。
何事かと思って顔をそっちの方向へと向けると、そこには自由に動いているナナが横腹にくっ付いていた。
どういう訳か動けるようになり、聖霊のルナの明かりを頼りに俺と門左衛門のいる場所へと来たらしい……。
ナナは半泣きになりながら喋りだす。
「うぇっぐ……門左衛門をどうする気なの?うぇっぐ……殺しちゃうの?」
「いや、殺さない……ぞ……」
俺がナナに半分回答を済ませた辺りで、ルナのどす黒いオーラを感じ取った。
そりゃずっと見てるよアピールしていたのに、目を逸らせば怒るわな……。
それも他の女の子に抱き付かれている事も、火にダイナマイトを入れているようなものである……。
「ま、まて!ルナ!落ち着け!これは不可抗力だぞ?」
俺は必死にルナに弁解をするが、彼女は魔力の籠った液体を手の力を抜いてばら撒いた。
やばい!これだと魔法の効力が得られないんじゃないか?
フルムーンドロップの効力は、この異世界での死以外の状態異常を完治する効力を持っている。
門左衛門が掛かっている状態異常が自分の知らない異常な為、仕方なく神級魔法を使ったというのに……これでは魔力を無駄にしてしまうじゃないか!
「トモちゃん?その女だれ?誰なの?」
ルナはプルプルと体を震わせて、白目が血走って鬼の形相と化していた。
「トモキ兄ちゃん?」
聖霊の声にナナは不安そうに俺の顔を見ている。
今すぐ逃げ出したい……穴があったら入りたい……もう、なるようになるしかない……。
とりあえず聖霊のルナに状況説明しても埒が明かないだろうから、優先順位的にナナへ説明しよう。
そう思った瞬間……それは一瞬の気のゆるみだった。
「まあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
急に門左衛門が苦しみだして、その気迫だけで俺達は吹っ飛ばされる。
俺はナナを庇いながら地面を転がった。
止まったところで、ナナに一早く声をかける。
「大丈夫か?」
「へ、平気だよ」
さっきまで穏やかだった門左衛門が、また暴れだすなんて……。
ルナの温かい光は健在だったが、マイナスオーラに感化されての事か?
それとも不発した魔法が悪影響を及ぼしたのか?
俺は一緒に飛ばされてきたルナに尋ねる事にした。
「おい!ルナ!これはどういう事かわかるか?」
「不自然よ……不自然な事が起ってるわ……」
ルナは明らかに今まで見せた事のない表情を見せていた。
これは他の聖霊にも言える事だが……聖霊達は別の世界で人間や魔族などに魔力を貰って伸び伸びと生きている。
それがどれだけ安全で安心出来る物か……。
俺みたいに聖霊を具現化できる能力があるならまだしも、一般的に具現化は不可能な事なのでほぼ危険とは皆無である。
そういう設定を考えたのも自分なわけで、聖霊達は一生生命の危機に縁がない生物であった。
だからこそこの表情は絶対的に生まれないはずだったのだ……。
そう……ルナはこの状況に恐怖していたのである……。
俺は咄嗟にルナへと、その真意を確かめてみた。
「どういう事なんだ?」
ルナの身体は発光を始めていた。
サラマンダーの時と同じ様に、タイムリミットがきてしまったらしい……。
「私の魔法は完璧に発動したのよ?でもなんで?なんで?どうして?どうしてなの?」
ルナは頭を抱えながら、消えていく寸前まで口を動かしていた。
どういう事だ……フルムーンドロップが成功していたという事なのか?ならば彼女の魔法は門左衛門には通用しなかったと言うのか?
少しでも多くの情報を仕入れないとダメだ!
俺は感情的にルナに問いかける。
「少し落ち着け!頼むから消える前に何が起こっただけでも教えてくれ!」
「私の魔法の効力が発動する前に、何らかのエラーが発生してすべて無効化させられたのよ!!」
ルナはその言葉を残して、元の世界へと戻っていった。
暗闇だった周囲は光を取り戻して、先程と同様にして夜と昼が入れ替わった。
効果がなかったわけじゃなく、魔法その物がエラーにより無効化……。
考えれば理解できないわけじゃないが……自分が生きているこの異世界でも、エラーって発生する物なのか……。
「まあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ルナの言葉を落ち着いて考えさせてもらえそうにない状況になった……。
門左衛門の気迫の籠った重低音の叫び声と共に、メタルバインドを自力で粉砕したのである。
かなり強固に設定した魔法だったはずなのに……破られるなんて……。
もしかしたらエラーと何か関係があるのかもしれないな……。
考えている暇もないのにまた考えを巡らせていると、門左衛門が弱った体に鞭を打って俺とナナの方向へとがむしゃらに襲い掛かってきた。
くそっ!予想以上に速い!気付いた時にはもう数十メートルを切っている。
ナナだけでも逃がして俺だけ犠牲になる方法しか……って、いない!
前を向きナナの姿を確認する。
「なっ!何をしてる!」
既にナナは俺から離れており、目の前で両手を広げて門左衛門を静止しようとしていた。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
俺の必死の叫びも虚しく、門左衛門の爪は今まさにナナを捕えようとしていた……。
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