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タカの帰り道

慎重な少年

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 とある地方の新興住宅地に住む中学生のタカは、学校の行き帰りは国道バイパスの脇の自歩道を通っていました。

 2年生の秋から学習塾に通うようになり、いったん家に帰ってから自転車に乗って塾に向かうときも、やはり同じ自歩道を使っていたのですが、タカを自分が行っている塾に誘った近所の幼なじみによると「塾までは、裏道を使った方が近いのに」とのことです。

 タカが遠回りになるバイパスの自歩道を通っているのは、幼なじみがオススメするルートには坂道が多かったからでした。
 その点、バイパスから西に折れ、塾の面した別の幹線道路を行くルートなら、遠回りではあるものの、起伏はほとんどありません。

 「行きはちょっときつい上りでも、帰りは下り坂だから楽だぜ」と幼なじみは言いますが、そもそもタカは下り坂を下るのも、あまり得意ではありませんでした。

 小学生の頃、学校の何人かの友達と一緒に下っているとき、ちょこちょこブレーキバーをおっかなびっくり握っていたら、みんなに「弱虫!」と笑われ、嫌な思いをしたのです。
 それでもブレーキをかけずに一気に下るのは怖かったので、半泣きで集団からはぐれたりしていました。

 中学校に入ると、「自分はそういうことが苦手だ。それが弱虫というなら別にそれでも構わない」と開き直り、やたら度胸試ししたがるタイプの人とは距離を置くようになりました。
 ちょうどその頃読んだ本に、「匹夫ひっぷゆう」という言葉が出てきたことも、タカの背中を押してくれました。
 考えなしの勇気、カラ元気みたいな意味らしいので、自分は弱虫呼ばわりされるより、そんなふうに思われる方がずっと嫌だなと思ったのです。

 普段から穏やかな性格で、「平坦まったいらな道を自分のペースで行くのがいいんだ」と言うタカに、「お前らしいな」と、そのうち幼なじみも何も言わなくなりました。

 しかし実はタカには、どうしてもバイパスの自歩道を行き来したい理由がもう一つあったのですが、それを幼なじみに――というよりも、誰にも言う気になれませんでした。

「僕はあの道で妖精を見たんだ」

 こう言われて、何の疑いも揶揄からかいもなく、「へえ。どんな妖精?」などと反応してくれる人間でなければ、タカが自歩道にこだわる理由を理解しないでしょう。

 もしタカが5歳の少年だったら、無邪気にそんな話をしていたかもしれませんが、もうすぐ14歳で、知的で思慮深い彼には、それは誰にも話すべきことではないと分かっていました。
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