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第30章 石を投げる
恥知らず
しおりを挟む私は念のため、両親と相談した。
「彼」が我が家に殴り込みにきかねないが、状況次第では警察を呼んでくれて構わない、と。
彼が私にしたしうちは、自分でできる範囲だが記録を残した。
暴力をふるわれて体にできた傷、投げたものが当たってへこんだドア、傷ついた床、壊れた器物などなどの写真。
日記は紙とデジタルの両方に残したし、間に合えば暴言を録音もした。
どんなに世間体を気にする親でも、自分の娘が傷つけられて平静ではいられない。あのおとなしい父が「お前は絶対にここにいろ!」と声を張った。
母もおろおろして、とりあえず私に謝ってきた。
「お母さんが悪いんじゃないよ。妊娠中実は彼は浮気していることを自分で認めたの。でも、「風俗行くよりマシだろう」と言われて口をつぐんだのは私自身だから」
「何てこと…」
そう。彼が私にしたことは、どれもこれも許しがたい。
が、効果的なアクションも起こせずに受け入れたのは、絶対に自分のせいなのだ。
アレとコレをちゃんと切り分けて考えないと、先々また人のせいにばかりするようになってしまう。
「離婚しようと決めたのは、女性を妊娠させたからなの」
さすがにそれが高校生のお嬢ちゃんだとは言えなかったが、これははっきりさせておきたい。
「もし責任を取って、その人と結婚しようというなら、私は出すものさえ出してくれれば、むしろ喜んで離婚しようと思った。でも、その女性は結局堕胎したみたい。『だから』戻っておいでって、さっき電話が来たの」
「何て恥知らずな…」
「そう、それだ!」
私はすかさず父の言葉を拾った。
彼に頭を抑えつけるように生活していた私にはなかったボキャブラリー。
そう、彼は「恥知らず」なんだ。
+++
ふと、「お前は彼に石を投げられるような人間か?」という問いが脳内に響いた。
イエスかノーかでいえば、もちろん「ノー」だ。
私は結婚後、二度も夫以外の男に抱かれている。
例えばそれを彼に知られたとして、「ピルを飲んでいるのをいいことに」と言われれば、ぐうの音も出ない。
だから私は千奈美と違って妊娠しなかった、それだけだ。
「飛ばす」か「受け入れるか」の違いで、不貞には違いない。
(下品ですみませんな。しかし不倫なんて下品なものですよ)
私もまた恥知らずだ。
今、幸奈を幸せにするために、まず自分が幸せになりたい。
それは端的に言うと、まずは彼から解放されることだ。
「罪の償いは後で幾らでもするから、今は見逃して」
そんな気持ちだった。
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