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第24章 独占欲
オレも同じ
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「2年のときか。ハンドボール部だった西野君、だっけ?君と仲がよかった」
「え、ええ…」
正直、名前も部活も忘れていた。
「暗いところで後ろから蹴られて転倒したって言っていたよね。オレも自転車通だったからすぐ分かった。学校の東側の道路だよね」
「恐らくね」
「学校の塀の形のせいか、変なところで不自然に曲がり角があったり、死角ができやすいし、他の人と下校時間がかぶらないと目撃者も出ない。本当にスキを突かれたんだと思う」
「そうだったんだ…」
「その後、あの素行の良くなかった彼…村上君かな。やったことの是非はともかく、完全に悪意の密告だったでしょ?」
居酒屋バイトと飲酒写真の彼か。
「その後がオレだ。相原さんにすれ違いざま意味不明のことを言われ、財布を盗んだと騒がれた――けど、覚えてる?」
「何を?」
「無関係だったんだから、覚えてるわけないか。財布は100均で買えそうな安っぽいやつで中身も1,000円程度。正直、『何が悲しくてわざわざこんなの…』って思ったよ」
私はそのときのことをうっすらと思い出した。
そういえば、盗まれた子(完璧に誰だか忘れた)が「別にあんな財布惜しくはないけど」と、なぜか何度も繰り返していたっけ。盗まれたことが困ったとか腹が立つというよりも、盗まれたことを印象づける、周りに喧伝することに熱心だったという言い方もできる。順一を陥れることが一番の目的だったということか?
「そして何より、オレがそう思った」
「…そう、思った?」
「西野君や村上君について、オレは直感的に「天野さんを好きな人が、天野さんと仲のいいひとたちを妬んでやったこと」って思ったんだ。どちらも故意にやらないと、ああはならないことだったし」
「…」
「オレにその発想があったってことは、あの人と同じことをする可能性もあったってことじゃないかな。ただの「個人教授」の分際で」
「考え過ぎだよ。ただ考えるのと実行に移すことの間には、大きな隔たりがあるでしょ?」
「…何だかオレたち、もうあの人の仕業だって前提で話してるね」
順一が苦笑いしながら言った。
「仕方ないよ。そういう人だもん」
「どっちにしても、言い方が悪かったね。あの人に復讐するために真奈美を利用するみたいに思われても仕方ないことを言った」
「そんなふうには思っていないけど…」
「オレはずっと君が好きで、君は今、相原さんにひどい仕打ちを受けている。だからオレが助けたいって気持ちなんだけど――おこがましいかな」
順一にそう言われ、私は結局、またも宗太のときと同じ愚を繰り返していることに気づいた。
しかもこの人は、私がぼんやりと返事もせずに聞いている間も、「お子さんが小さいうちは、ここでも十分暮らせる」「追々引っ越すとして…」「もしケーキ屋さんの仕事に興味があれば、ここで仕事も…」と、やたら発展的なことを話している。
しかも、展望がぼんやりしたままの宗太のときとは違う。この人は「なんなら今日にでもおいで」と言っているのだ。
そうすんなりとはいかないだろうけれど、本当に私にばかり都合がよすぎる。
その上、もっと大事なことがある。
やはり宗太のときと同じだ。「好きだけど、愛していない」
関係を持ってしまったことは、もう取り返しがつかないけれど、今、差し伸べられた手を取ってはいけない。それだけは、いくら私が頭が悪くても分かる。
「え、ええ…」
正直、名前も部活も忘れていた。
「暗いところで後ろから蹴られて転倒したって言っていたよね。オレも自転車通だったからすぐ分かった。学校の東側の道路だよね」
「恐らくね」
「学校の塀の形のせいか、変なところで不自然に曲がり角があったり、死角ができやすいし、他の人と下校時間がかぶらないと目撃者も出ない。本当にスキを突かれたんだと思う」
「そうだったんだ…」
「その後、あの素行の良くなかった彼…村上君かな。やったことの是非はともかく、完全に悪意の密告だったでしょ?」
居酒屋バイトと飲酒写真の彼か。
「その後がオレだ。相原さんにすれ違いざま意味不明のことを言われ、財布を盗んだと騒がれた――けど、覚えてる?」
「何を?」
「無関係だったんだから、覚えてるわけないか。財布は100均で買えそうな安っぽいやつで中身も1,000円程度。正直、『何が悲しくてわざわざこんなの…』って思ったよ」
私はそのときのことをうっすらと思い出した。
そういえば、盗まれた子(完璧に誰だか忘れた)が「別にあんな財布惜しくはないけど」と、なぜか何度も繰り返していたっけ。盗まれたことが困ったとか腹が立つというよりも、盗まれたことを印象づける、周りに喧伝することに熱心だったという言い方もできる。順一を陥れることが一番の目的だったということか?
「そして何より、オレがそう思った」
「…そう、思った?」
「西野君や村上君について、オレは直感的に「天野さんを好きな人が、天野さんと仲のいいひとたちを妬んでやったこと」って思ったんだ。どちらも故意にやらないと、ああはならないことだったし」
「…」
「オレにその発想があったってことは、あの人と同じことをする可能性もあったってことじゃないかな。ただの「個人教授」の分際で」
「考え過ぎだよ。ただ考えるのと実行に移すことの間には、大きな隔たりがあるでしょ?」
「…何だかオレたち、もうあの人の仕業だって前提で話してるね」
順一が苦笑いしながら言った。
「仕方ないよ。そういう人だもん」
「どっちにしても、言い方が悪かったね。あの人に復讐するために真奈美を利用するみたいに思われても仕方ないことを言った」
「そんなふうには思っていないけど…」
「オレはずっと君が好きで、君は今、相原さんにひどい仕打ちを受けている。だからオレが助けたいって気持ちなんだけど――おこがましいかな」
順一にそう言われ、私は結局、またも宗太のときと同じ愚を繰り返していることに気づいた。
しかもこの人は、私がぼんやりと返事もせずに聞いている間も、「お子さんが小さいうちは、ここでも十分暮らせる」「追々引っ越すとして…」「もしケーキ屋さんの仕事に興味があれば、ここで仕事も…」と、やたら発展的なことを話している。
しかも、展望がぼんやりしたままの宗太のときとは違う。この人は「なんなら今日にでもおいで」と言っているのだ。
そうすんなりとはいかないだろうけれど、本当に私にばかり都合がよすぎる。
その上、もっと大事なことがある。
やはり宗太のときと同じだ。「好きだけど、愛していない」
関係を持ってしまったことは、もう取り返しがつかないけれど、今、差し伸べられた手を取ってはいけない。それだけは、いくら私が頭が悪くても分かる。
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