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第22章 【番外編】松下千奈美

秘密の恋人

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 でも、そんなところに入って「何もしない」わけはない。

 部屋に入ると相原さんは、すぐに私を抱きしめてキスしてきて、「ごめんね――キミがあんまりかわいいから…。もうしないよ」って言われた。
 何だか相原さんが寂しそうな顔をしたので、思い切って「相原さんなら――いいですよ」って後ろから抱きついて…あとはご想像におまかせ。

 私、ヴァージンではないけど、そんなにたくさん経験はない。
 でも、「かわいい…きれいだ…」って言われて、愛撫されて、ちょっと気持ちいいかもって思ったけど、なんかあっという間に終わっちゃったし、気持ちいいとかよくわかんない。

 その後、一緒にお風呂に入っているうちにその気になって…えへへ。

 相原さんはすごく優しいし、私を褒めちぎってくれたから、ついつい「実は彼氏と別れたばかりだ」という話をしたら、「悪いけど俺はその彼氏に感謝したいな。こうして君と出会えたんだから」って言いながら、優しくおでこにキスしてくれた。
 年上イケメンにベッドに仰向けに寝かせられて、髪と頬をなでられて、おでこにチュッだよ?それもう絶対惚れるでしょ。何時間か前に別れ話してきた元彼氏なんて、本当にどうでもよくなった。

 どうだ、ざまーみろ。本当に「すぐ次」見つかったぞ!

+++

 「名前で呼んで」って言われて、幸助さんって呼ぶことにした。私も名前を教えたら、「じゃ、俺はチナちゃんって呼ぶね?」って。もうこれ実質恋人同士なんじゃない?
 奥さんがいるっていうのはちょっとひっかかるけど、パパとか学校の先生みたいに、くたびれた小汚いおっさんじゃないもん。こんなに優しくて素敵な人ならいいや。

「俺たちは秘密の関係だから――わかってるね?」
 そんなこと言われたら、自分がすっごくロマンチックな恋をしている気分になれる。人に自慢したりのろけたりできないけど、2人きりになると、幸助さんがいっぱい愛してくれるからそれでいい。

 私たちはその後、3回くらいデートした。秘密の恋だから、いつもラブホだし、次の回からは時間も4時までだったけど。
 私の家から500メートルくらい離れたコンビニで待ち合わせして、そこからラブホというのが定番になっていった。
 ベッドの中で奥さんのことを聞いた。「写真ないの?」って。そしたら「見せられるような女じゃないから」って。
 性格もよくなさそうだし、しかもブスなのか…。こんな素敵な人なのに、もったいない。私の方がずっといいじゃん。

+++

 仕方ないけど、デートはいつも幸助さんの予定に合わせなきゃいけない。1カ月くらい会えないでいたら、その間に生理が2週間遅れて、まさかなあと思ってチェッカー使ったら、妊娠してた!
 ちょっとビビッたけど、相手は社会人だし、邪魔な奥さんを何とかすればいいだけ。

 実は幸助さんはスマホ2台持っているんだよね~。
 「ちょっと疲れてるから、1時間したら起こして」って寝ちゃったとき、こっそり荷物を探ったから分かった。
 幸いどっちもロックかかってなくて、1台の方は「資産税《シサンゼー》課 タカハシ」とか、「児童教育《ジドーキョーイク》課 オオタ」とか書いてあるので、仕事で使うやつかな。あと「外部」っていう人が何人かいて、その中に私と同じ「マツシタ」って人がいた。
 もう1台のアドレス帳に「自宅」があった。詳しく見たら、家電イエデンっぽい番号だった。あのときちょっと思いついて、その番号メモっておいてよかった。
 幸助さんがどこにお勤めしているのか話してくれない(秘密が多い職場らしい)けど、平日の昼間なら自宅にいるのは多分奥さんだけだろう。まずは奥さんの方に連絡して、その後幸助さんに言うことにした。別な人と結婚してる状態で「妊娠しました」って言っても、幸助さんに迷惑かかっちゃうかもしれないし。

+++

 その奥さんに会ったら、幸助さんの話とは全然違って、すごくきれいで、しかも優しい人だった。私のことを心配して、いろいろ話を聞いてくれて、「妊娠のことを両親に話さなきゃ。私も一緒に行くから」って言ってくれた。
 こんなにすてきな人だけど、幸助さんには悪い奥さんなのかな?混乱しちゃう。
 奥さんが私の家に来て一緒に話してくれる約束をした次の日、幸助さんから連絡があった。「いつもラブホじゃかわいそうだから、違うところでデートしない?」って。

 断らなきゃと思ったけど、幸助さんにどうしても会いたい。
 奥さんが「日が近くなったら連絡するかも」って言っていたのを思い出して、思わずブロックしちゃった。状況が状況だから、「急用が入って」って言っても、「これより大切な用って何?」ってあの人なら言いそう。だって本当に心配してくれて、「あなたの味方だよ」って言うような人だもん。

 自分が間違ったことをしているのは分かる。
 それでも幸助さんの誘いは断れない。

 幸助さんは、自宅に私を連れていってくれた。
 リビングに結婚式のときの写真が飾ってあって、奥さん本当にきれいだった。
 おうちもきれいに掃除されてて、カーテンとかオブジェの使い方とかもおしゃれ。「何やらせてもダメな嫁」って、幸助さん、実は奥さんが2人いて、「悪い方」の人の話をしているんじゃないかと思うくらい、あの奥さんがいい奥さんだってことが分かる。

 私は幸助さんと、そのすてきなおうちでエッチなことをした。
 妊娠のことを言う勇気が出なくて、そのままされるがままになっていた。

 何だか幸助さんは、いつもほど優しくないし、玄関の外に出てからキスしたら、「何すんだよ!」って本気で怒られた。
 すぐ謝ったけど、「そういうふうに常識ないのは困るな」って、やっぱり冷たい。

 ひょっとして私、何か間違っちゃった?
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