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第16章 「人生これから」
未知の場所
しおりを挟む私は相変わらず、彼の雑な工作に突っ込むこともなく、浮気に気付かない間抜け妻を演じているのだが、以前と違うのは、「真相を知ることが怖い」という気持ちがほぼないことだ。
以前みゆきが言っていた「5ちゃん」や、そのまとめ的なページを読んだ。
「【不倫】旦那が怪しい3日目【許すまじ】」なんてスレッドタイトルで、日付が10年以上前のものもあるし、比較的最近のものもある。
単に「服の趣味が変わった」「妙に気を遣ってケーキ買ってきたりする」という軽い疑惑から、具体的に証拠集め中の人までさまざまで、読み物として面白いなと思った。
「泳がせて核心を突く!これよ、これ」
「慰謝料とか要らないからゴミ旦那とマジ縁切りたい
ガチ離婚になったらふんだくるけどねww」
みんな私から見たら、まぶしいほどにたくましい。
奥さんの不倫に目を光らせている人や、離婚まで持ち込んで相手の男からも多額の慰謝料をせしめ、独身生活を謳歌しているという男性の書き込みもあった。
さすがに「借金まみれの元汚嫁を風呂稼業に沈めてやった、ザマァwwww」なんて、ヤクザ屋さんみたいなことを言い出すと、ネタだろうなと思ってしまうけれど、かつて愛したはずの人をそんなふうに料理しても心が痛まないほど、追い詰められているということだろう。
こうして書いている人たちに思いをはせてみる。
みんな公明正大、清廉潔白な人ばかりではないだろう。
何なら自分の浮気を棚に上げてって人だっているかもしれない。
そうは書いていなくても、相手の不貞が許せないというよりも、とことん嫌いになってしまったから、むしろ弱点をつかんで万々歳――が本音の場合だってあるだろう。
多分、今の私の心理状態は「それ」だ。
具体的にどうしていいかはまだ分からないけれど、明らかに以前の自分とは違う心持ちになっているのだけは分かる。
◇◇◇
「彼」は8時頃帰ってきた。
いい香りのはずなのに、どこか清潔感のない独特のにおいをまとっている。
これはラブホテルコースかな?フリータイムだと安いらしいし。
5ちゃんねるやまとめの記事で、ラブホテルについて詳しく書いている人もいたから調べてみた。
何だかおいしそうな料理やスイーツが食べられるところもあるらしいし、部屋もカラフルでおしゃれだったりして、妙に楽しそうなのだ。
いいなあ、私もちょっと行ってみたい。
ただしもちろん、「彼」とではない。
漠然とした像すらないけれど、この先ひょっとしたらできるかもしれない「すてきなカレシ」とだ。
「彼」との付き合いが長過ぎて半分忘れていたけれど、私はまだ20代なのだ。
いつだったか宗太が言った「人生これから」って、ある種の予言だったのかもしれない。
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