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第11章 【番外編】妻を愛し過ぎている男
浮気疑惑
しおりを挟む甘い顔をしたのが悪かったのか、調子に乗ったマナちゃんは浮気をした。
妊婦だし、さすがに肉体関係はないんだろうけど、ある意味精神的な浮気の方がタチが悪い。
大学の同期で職場も同じ(部署違い)のやつと話してたら、「お前んちって給水池公園の近くだっけ?」と話を振られた。
「近くといっても歩いて10分前後かかるかな。僕は行ったことないけど」
「俺のサークルの後輩で、よくあそこにスケッチに行くやつがいてさ。
最近時々、1人でぼーっとしている妊婦さんを見かけるって言ってたんだ」
「妊婦?」
「時々水場まで近づいていることもあって、自殺でもするんじゃないかってひやひやしてる、とか言ってた」
「妊娠中はホルモンバランスがどうとかいって、気分にムラがあるみたいだから、あるかもな」
「てか、その妊婦ってお前の奥さんって…ってことはないよな?」
「まさか!」
だってマナちゃん、家でどてっと横になったりできる、気楽な身分だよ?
仕事とかほかにストレスがあるなら分かるけど。
でも心配になって、マナちゃんの写真を渡してその後輩の男に見てもらったら、どうやらその妊婦、本当にマナちゃんだったみたいだ。
死なれたりしたら夢見が悪いので、その男にそれとなく様子を見るように、同期のやつを通して頼んでもらった。
「様子を見るように」というだけで、話しかけろだの、スケッチしろだの言った覚えはないんだけど、その男、ちゃっかりマナちゃんにちょっかいをかけていた。
様子を見てもらっているお礼がてら、ちょっと話を聞こうと思ってコーヒーに誘ったら、背がちょっと高いだけのぼーっとした男がやってきた。
そして1枚のヘタクソな絵を差し出して、「これ、奥様があまりにもかわいかったので、つい描いてしまいました」って言った。
萌え絵っていうの?なーんかキモヲタが好きそうな絵柄でさ。にこにこしながらたい焼きを食べているマナちゃんの絵だった。
「奥様に差し上げようとしたら断わられてしまったので、ご主人に渡せてよかったです」って、いかにも何も考えてなさそうな顔で言った。
僕は大人だから、「妻をこんなにかわいく描いてくれてありがとう」とお世辞を言ったんだけど、「本当にかわいい奥様でうらやましいです」だってさ。
こんな気持ちの悪い絵を描くやつに褒められてもうれしくない。
というか、体重が増えすぎだからおやつは控えろって注意したのに、たい焼きなんか食べてたんだ。
でも、マナちゃんは何でこれを断ったんだ?
気持ちの悪い絵だから要らなかったのかもしれないけど、マナちゃんも高校時代文芸部だったりして、ちょっとオタクっ気あるし、こういうのも嫌いじゃないと思うんだけど。
ひょっとして、ほかの男と口利いたことがバレるのを恐れたのかな。
確かにいい気持ちはしないけど、この男を何とも思っていないんだったら、そこまで警戒しなくてもいいのに。
ひょっとして、妊娠してからなかなか「お相手」できていないから、欲求不満でこんなのによろめきそうになったとか?
だとしたら、許せないなあ。
僕はマナちゃんが妊娠してから、職場のバイトの子たちと時々遊んでる。
最初は夫婦間のマナーとして隠していたけど、夫婦なのにヤリたいときにヤレないのは辛いんだから、大目に見てもらってもいいはずだよね。
実際マナちゃんにそう説明したら、僕を責めなかった。
「風俗に行くよりマシでしょ」って付け加えたのも大きかったと思う。
ちなみに、そのとき遊んで子たちとは、その子たちがバイトの契約終了になったときに関係も解消した。
どうせカレシのいる子ばかりだったので、後腐れもなかったし。
今は新しく入ってきた子と付き合ってる。ヤるしか能がないような女なら、やっぱり1歳でも若い方がいい。
みんな悪くはないんだけど、マナちゃんの方がずっと美人だと思う。僕ってホントに愛妻家だよね(笑)。
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