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第8章 日常
スーパーにて
しおりを挟む彼が休みの日、
「一緒に買い出しにいこう。僕がいればまとめ買いもしやすいんじゃない?」
と言われ、必要はなかったけれど買い物に行くことになった。
洗剤とかトイレットペーパーとかのかさばる日用品や、缶詰みたいに保存できるものを買えばいいし、子供が座るいすのついたカートも使える。
――と思っていたら、何もついていないカートを入り口のところであてがわれて、「幸奈は僕が抱っこするから、君は必要なものをこれに入れて」と言われた。
幸奈を座らせたカートを彼が押して、私が必要なものを入れていくというのをイメージしていたんだけど、どうやら彼は、かわいい娘を見せびらかしたくて仕方ないらしく、顔が前を向くように抱っこした。
彼曰く、
「カートのいすだと、高さ的に大人の目線が行きにくいんだよね。うるさいガキに『赤ちゃんかわいいー』とか騒がれても、ウザいだけでうれしくもないしさ」
だそうだ。
確かにすれ違う人の中には、「まあ、かわいい」って話しかけてくる女性もいる。
「マナちゃん、自由に買い物していて。僕は幸奈を抱っこして、店内を“散歩”してくるから」
そうしたら、若い女性に声をかけられ、話し込んでいる姿が遠くに見えた。
子供をダシにナンパでもする気だったのかな?
こんな近所で下手なことしないでほしいよって思ったけど、いつもより機嫌がよかったので、とりあえず放置した。
私が中華の合わせ調味料のコーナーにいたとき、棚を挟んで隣の通路から、彼が「マナちゃん、そこにいる?」と大声で話しかけてきた。
「いるけど…何ですか?」
「ちょっと見てて!ほれ、「高い高ーい」」
そのかけ声とともに、棚の向こうで幸奈が宙を舞った。
彼がそれを何度も繰り返しながら、「見える?すごいだろう!」とか言うので、私は思わず悲鳴を上げてしまった。
「何するの!落っことしたりしたら…」
私は最近、努めて丁寧な言葉で彼と話すように気を付けていたけれど、さすがにこのときはそんな余裕はなかった。
「やだなあ。そんなことするわけないじゃん」
「するとかしないとかじゃなくて!危ないって言ってるの!」
「だからさ、落としてないでしょ?ほら、幸奈だってご機嫌だよ」
私たちがもめていると、後ろから70歳くらいの男性が声をかけてきた。
「あんた、奥さんの言うとおりだぞ。俺の知り合いで、胴上げされて下に叩き落されて、全治6カ月のケガをした者もいる。そういうのはよくない。危ないぞ」と、私を援護してくれた。
彼は外面がいいので、その場では「軽率でした」と言ったけど、車の中では、家に着くまで男性の悪口を言い続けた。
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