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第1章 私には「彼」がいるから
淡々と執着
しおりを挟む彼は学校の先輩だった。
私が15歳の高校1年生、彼が16歳の2年生のときに知り合った。
同じ園芸委員だったんだけど、植物の世話の仕方に詳しくて、物静かで優しい人だと思った。
知的な一重の切れ長の目をしていて、鼻筋が通って「薄くてきれいな顔」だと思った。
そしてきっと、私に好意を持ってくれているんだと思った。
――全部「思った」。
私は結構男の子にもてた。顔がかわいいくて、性格の黒さを隠すのがうまかったからだ。
女の子たちはその辺の嗅覚が働くのか、私が嫌いだったみたいだ。
いじめられたことはないけれど、私と積極的に親しくしようとする人はいなかった。
2年の2学期、体育の授業を一緒に見学していた隣のクラスの子と仲良くなったことがあった。
あんまり好かれていないというか、悪口が耳に入ってきがちな子だったけれど、話してみると、少しおどおどしているだけで、別に感じの悪い子ではない。
私はそのとき文芸部部長で、鍵を預けられることが多かったので、無許可でこっそり外に持ち出して、ホムセンで合鍵を作ってもらった。
何の罪悪感もなかったし、先生に指摘されたときも、「念のためですよお」と言っただけで許され、没収もされなかった。
本当は昼休みに彼と2人きりになれると思っていたんだけど、彼は文芸部室が好きじゃないといって入ろうとしなかった。
細長くて狭くて、窓が1つしかなくて薄暗いので嫌だという。
入ったこともないのに、何でそんなこと知っているの?と思ったけど、
「だって写真部の上の部屋でしょ?
写真部に仲のいいやつがいるから、いろいろ聞いているんだ。
同じ造りならそうなるよ」
と言われて、納得するしかなかった。
仲のいい人って、花が咲くと頼んで写真を撮ってもらっているあの先輩だなってすぐわかったし。
仕方がないので、昼休みは部室で昼ご飯をひとりで食べた。雰囲気のよくない教室にいるのが嫌だったからだ。
体育の見学で仲良くなった子は、あまり人が寄り付かない校舎の階段に腰かけて食べていると言っていたので、部室に来ないかと誘った。
問題はあったかもしれないけれど、ほかの部員は下級生ばかりだったので、問題があると思っても言いづらかっただろう。
最初は他愛のないおしゃべりが楽しかったけれど、彼女はテレビドラマが大好きで、そういう話を振ってくることが多かった。
私はドラマが嫌いなので、ほとんど見たことがなかったけれど、その話が面白ければ興味も持ったかもしれない。
もともと好きでもないものを、絶妙にイラつく話術で延々と披露されるので、だんだん「この子うっとうしいな…」と思うようになっていった。
そして、彼女のことを好きだとか友達だとか思う前に嫌いになってしまった。
私はそのとき既に彼とお付き合いを始めていて、それなりに目立つカップルだったと思う。
彼女はそのことについて、私にこう言った。
「いつまでもその人と付き合っているわけじゃないでしょ?いつ別れるの?」
どうしてそんなこと言うんだろうって悲しくなったけど、彼女にとっては、高校生のお付き合いってそういうものだったらしい。
後々、いもしない妄想彼氏の話をだらだら聞かせたりするから、彼女はクラスで嫌われているのだと知った。
「いもしない彼氏」というのは、彼女を嫌っていた人たち「の「あんなブスに彼氏なんかできるわけないじゃん」という思い込みから来るものだったらしいので、本当に「いもしない」だったかどうかは分からない。
私は昼休み、部室には相変わらず行っていたけれど、鍵をかって電気を消して居留守を使うようになっていた。
「いるんでしょ?」ってドアをどんどんノックされることもあったけれど、それも5回やり過ごしたら来なくなった。
廊下や合同授業で会っても無視を決め込んだ。
彼女がその後、どうなったのかは知らないし、興味もなかった。
彼女も彼女を嫌う人たちも、みんな同類で大嫌いだと思った。
私には彼さえいてくれればいい。
好きというよりある種の執着だったかもしれないけれど、そんなふうに思っていた。
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