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第15章 エンディングα

今はそれで

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 さて、その後。
 私とレイは「付き合い始めることにした」ことを部活でみんなに報告した。
 優香と喜多川君は「やっとかー」「安心したよ」と言って喜んでくれた。
 日高君は「俺はまだ諦めてないから、油断するなよな」と言って、本気とも冗談ともつかない調子で笑った。

 付き合うといっても、関係自体は今までとそんなに変わらないと思うし、こんなものかな。

◇◇◇

 うれしいことがあった。

 全員分の2年次三者面談が終了して、優香と今のところの希望進路を話したら、「私、実はあかつき(高校)に行きたいんだ」と言う。

 暁はもと女子高で、10年前に共学化した。
 レイが志望する片山中央の次に偏差値が高く、優香のお母さんも卒業生だそうだ。

「そもそも私、暁の合唱部に憧れてて、まずは中学でもって合唱部に入ったんだよなって思い出して」
「あー、全国大会金賞の常連校だもんね」

「でも、あんな情けないやめ方して、結果的に今の部活楽しいけど、暁にはゆうゆうじてき部なんてないでしょ?」
「多分どこの中高探してもないよね」
「だったらもう一回合唱やってみようかなって。人間関係はまた新しく築けるからね」
「そうか、よかった」

 優香が自分で考えて決意したのか、日高君から何か言われたのかは分からないけど、前向きになっているならどっちでもうれしい。

「まつりはどうするの?」
「そうだなあ…保留にしてた塾、3学期から行くことにした。数学だけだけど」
「じゃ、市立いちりつ受けるの?」
「どこに行くにしても数学の基礎できてないのはヤバいし、それは後で考える。成績がもっと伸びたら、それこそ暁だってねらえるかもしれないし」
「いいね。そしたらまた一緒に合唱部入らない?」
「あ、そうしようかな。いいかも」

◇◇◇

 高校受験まではまだ1年以上あるので、まだいろいろジタバタするかもしれない。
 勉強だけじゃなく、レイとだってケンカもすれ違いもあるかもしれない。
 何なら私がほかの人に目移りする可能性だってある――と言ってみただけで、まあないだろうと思っているけど。

 「てっぺんに届かないから目指さない」じゃなく、「てっぺんじゃなくてもいい」んだ。
 それに、どんなに失敗してもどん底まで落ちることはそうそうないって、ここ数カ月で嫌というほど知った。

 今はそれで十分。

【エンディングα おわり】

引き続き「第16章 エンディングβ」があります。
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