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第3章 The day before
あの日の一日前の日
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もしも「あの日の一日前の日」の戻れたら、一体何ができるだろう。
今日が「あの日の一日前の日」だと知っていたら、人は何をするだろう。
***
明けて2011年、辛卯、いわゆるうさぎ年。
私たちは春には2年生に進級する。ついでにゆうゆうじてき部員全員遅生まれなので、そろって年内に14歳になる。
初詣はみんなで近所の神社に出かけた。
レイに「何をお願いしたの?」って聞いたら、「姉貴が杉妻医大に行きたいって言うから、合格祈願」って。
杉妻医大というのは、私たちの街から電車で40分ほどのところにある県立の医科大学のことだ。
「あれ?今年3年なら入試は来年じゃない?」
「推薦で決められたら年内もアリだから、一応ね」
「なるほどね。明日香さんは高校でも頑張ってるんだね」
明日香さんもまた、桃花学園に行かずに九中に入り、地元で最難関の県立高校に入ったのだった。
この街には一応、「四天王」といわれる公立高校がある。
明日香さんが在学中で、たぶんレイや、ひょっとしたら優香も行くかもしれない県立片山中央高校を筆頭に、その次ぐらい難しい片山暁高校、片山市立高校、県立片山南高校と続く。
ちなみに私のお姉ちゃんは今、南高の2年生だ。自虐的に「四天王最弱」とか言ってる。
南高が模試なんかの偏差値が「60」くらいなら割とイケそうというレベルで、たぶん私や喜多川君は、進路指導では「南高あたりはどうだ」と勧められそうな位置にいる。
実は少し厳しいんだけど、私はもう1ランク上の市立高校に行きたい。片山中央から一番近いからだ。うまくいけばレイと一緒に登校できる。
南高も制服がかっこいいし、イメージは悪くないんだけど、私やレイの家を中心に見たとき、片山中央とは方向が全く逆になってしまうのだ。
ちなみに優香のお願い事は、「ゆうゆうじてき部に新入部員がきま…せんように」で、喜多川君は「家業が繁盛しますように」だったとか。
優香のは半分本音、半分冗談だろう。彼女はオトナだから、新入部員が入ったら、内心はさておいて、歓迎するはずだ。
レイも人に悪感情を向ける方じゃないし、喜多川君はもともと誰に対してもフラットで親しげだ。
私自身も、よく知らない人相手に敵意むき出しにはなれない。本当は誰よりも「嫌いな人」や「苦手な人」がいるのに。
そんな私は「このまま何一つ変わりませんように」って、漠然としているけれど、思えば最も重たい願いを神頼みした。
どう考えたって無理だよ、それ。
時が経てば、私たちも嫌でも卒業し、たぶんバラバラになる。
怜はまた少し背が伸びた。2年生になる頃には、180超えそうな勢いだ。
成績優秀でジェントルなのは相変わらずで、顔立ちは少し大人っぽさというか男っぽさも出てきた。この分だと、新入生の女の子もザワザワする存在になるだろう。
かわいくて運動部のレギュラー候補で優等生、みたいな子がレイと同じクラスにいる。
周囲はそういう子とレイが付き合ったら納得するんだろうな。
その子は割と意地悪なので、私はあまりその子が好きではない。レイと優香が付き合った方がまだ納得する。意外と面白いカップルになりそう。
もっとも優香はレイに対して、「斉木君って存在にリアリティがないんだよね。いい人だし目の保養にはなるけど、付き合うのは違うかな」と、本人の目の前でばっさりだった。
レイも負けていなくて、「そうだね、南原さんはバスケ部の畠中君みたいなタイプが好きなんでしょ?俺なんか彼に比べたら、もやしかエノキダケってところかな?」と言い当て、いつも落ち着いている優香をあわてさせていたけれど。
◇◇◇
そんなこんなでガチャガチャと、3学期はあっという間だった。
貧弱なおせち料理で荒稼ぎしていた業者が大問題になったり、外国で大きな地震があったり、有名な大学でカンニング事件があったり、いろいろあったけれど、私たちは相変わらずだった。
雪が積もったとき、近くの公園で雪合戦をしていたら、小学生たちも勝手に合流してきた。
動いているうちに体がポカポカして、調子に乗ってアウターを脱いだので、制服がびしょ濡れになった。
レイがそれがもとで風邪を引き、2日学校を休んだ。
様子を見にいこうとしたら、レイの家にプリントを届けに来た女の子とすれ違い、ちょっとにらまれた。
レイのお母さんからは、「大したことはないんだけど、あの子熱出しやすいから――まつりちゃんは風邪ひかなかったのね」と言われた。
「よかったわね」と言われたので、あまり悪意には取りたくないんだけど、ついつい深読みしてしまう。
昔はただ「優しくてすてきなレイのお母さん」だったのに、言い知れぬ威圧感というか、緊張感を覚えるようになったのって、いつぐらいからかな。
◇◇◇
気付けば卒業式は明日、3月11日。
在校生も早く帰れるし部活もできないから、みんなで遊ぼうか? なんて話しながら帰宅した。
3年生は、卒業のしんみりした気持ちとは別に、公立高校入試の合格発表待ち。
2年生は3年生を送り出し、「さあ、次はお前たちだぞ」って、先生方にハッパをかけ始められる。
私たち1年生は、まだのんきそのものだ。
今日が「あの日の一日前の日」だと知っていたら、人は何をするだろう。
***
明けて2011年、辛卯、いわゆるうさぎ年。
私たちは春には2年生に進級する。ついでにゆうゆうじてき部員全員遅生まれなので、そろって年内に14歳になる。
初詣はみんなで近所の神社に出かけた。
レイに「何をお願いしたの?」って聞いたら、「姉貴が杉妻医大に行きたいって言うから、合格祈願」って。
杉妻医大というのは、私たちの街から電車で40分ほどのところにある県立の医科大学のことだ。
「あれ?今年3年なら入試は来年じゃない?」
「推薦で決められたら年内もアリだから、一応ね」
「なるほどね。明日香さんは高校でも頑張ってるんだね」
明日香さんもまた、桃花学園に行かずに九中に入り、地元で最難関の県立高校に入ったのだった。
この街には一応、「四天王」といわれる公立高校がある。
明日香さんが在学中で、たぶんレイや、ひょっとしたら優香も行くかもしれない県立片山中央高校を筆頭に、その次ぐらい難しい片山暁高校、片山市立高校、県立片山南高校と続く。
ちなみに私のお姉ちゃんは今、南高の2年生だ。自虐的に「四天王最弱」とか言ってる。
南高が模試なんかの偏差値が「60」くらいなら割とイケそうというレベルで、たぶん私や喜多川君は、進路指導では「南高あたりはどうだ」と勧められそうな位置にいる。
実は少し厳しいんだけど、私はもう1ランク上の市立高校に行きたい。片山中央から一番近いからだ。うまくいけばレイと一緒に登校できる。
南高も制服がかっこいいし、イメージは悪くないんだけど、私やレイの家を中心に見たとき、片山中央とは方向が全く逆になってしまうのだ。
ちなみに優香のお願い事は、「ゆうゆうじてき部に新入部員がきま…せんように」で、喜多川君は「家業が繁盛しますように」だったとか。
優香のは半分本音、半分冗談だろう。彼女はオトナだから、新入部員が入ったら、内心はさておいて、歓迎するはずだ。
レイも人に悪感情を向ける方じゃないし、喜多川君はもともと誰に対してもフラットで親しげだ。
私自身も、よく知らない人相手に敵意むき出しにはなれない。本当は誰よりも「嫌いな人」や「苦手な人」がいるのに。
そんな私は「このまま何一つ変わりませんように」って、漠然としているけれど、思えば最も重たい願いを神頼みした。
どう考えたって無理だよ、それ。
時が経てば、私たちも嫌でも卒業し、たぶんバラバラになる。
怜はまた少し背が伸びた。2年生になる頃には、180超えそうな勢いだ。
成績優秀でジェントルなのは相変わらずで、顔立ちは少し大人っぽさというか男っぽさも出てきた。この分だと、新入生の女の子もザワザワする存在になるだろう。
かわいくて運動部のレギュラー候補で優等生、みたいな子がレイと同じクラスにいる。
周囲はそういう子とレイが付き合ったら納得するんだろうな。
その子は割と意地悪なので、私はあまりその子が好きではない。レイと優香が付き合った方がまだ納得する。意外と面白いカップルになりそう。
もっとも優香はレイに対して、「斉木君って存在にリアリティがないんだよね。いい人だし目の保養にはなるけど、付き合うのは違うかな」と、本人の目の前でばっさりだった。
レイも負けていなくて、「そうだね、南原さんはバスケ部の畠中君みたいなタイプが好きなんでしょ?俺なんか彼に比べたら、もやしかエノキダケってところかな?」と言い当て、いつも落ち着いている優香をあわてさせていたけれど。
◇◇◇
そんなこんなでガチャガチャと、3学期はあっという間だった。
貧弱なおせち料理で荒稼ぎしていた業者が大問題になったり、外国で大きな地震があったり、有名な大学でカンニング事件があったり、いろいろあったけれど、私たちは相変わらずだった。
雪が積もったとき、近くの公園で雪合戦をしていたら、小学生たちも勝手に合流してきた。
動いているうちに体がポカポカして、調子に乗ってアウターを脱いだので、制服がびしょ濡れになった。
レイがそれがもとで風邪を引き、2日学校を休んだ。
様子を見にいこうとしたら、レイの家にプリントを届けに来た女の子とすれ違い、ちょっとにらまれた。
レイのお母さんからは、「大したことはないんだけど、あの子熱出しやすいから――まつりちゃんは風邪ひかなかったのね」と言われた。
「よかったわね」と言われたので、あまり悪意には取りたくないんだけど、ついつい深読みしてしまう。
昔はただ「優しくてすてきなレイのお母さん」だったのに、言い知れぬ威圧感というか、緊張感を覚えるようになったのって、いつぐらいからかな。
◇◇◇
気付けば卒業式は明日、3月11日。
在校生も早く帰れるし部活もできないから、みんなで遊ぼうか? なんて話しながら帰宅した。
3年生は、卒業のしんみりした気持ちとは別に、公立高校入試の合格発表待ち。
2年生は3年生を送り出し、「さあ、次はお前たちだぞ」って、先生方にハッパをかけ始められる。
私たち1年生は、まだのんきそのものだ。
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