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シャッターの中の仏像
お調子者の朝
しおりを挟む「何だ?今の夢…」
シャッターにしろバスのチャージカードにしろ、リアルで経験したら、焦りはしたとしても、絶体絶命というほどでもない。
それでも目が覚めたとき、心臓は早鐘を打つようだったし、額に汗も浮かんでいた。
◇◇◇
あおいはその日、10時にアルバイトに行く予定だったが、目が覚めたのは7時だった。
キッチンでは母親が朝のしたくをしていて、あおいが顔を出すと、おはようの代わりに「あら、珍しい。コーヒーでも飲む?」と言った。
「ん……ちょうだい」
「どうしたの?よく眠れなかった?」
「でもないと思うんだけど…なんか変な夢見てさ…」
あおいは記憶がフレッシュなうちに、母親にぽつぽつと語り始めた。
「この間ラジオだったかで、睡眠の専門家の先生が言っていたんだけどね」
「うん……?」
「夢を見ている間ってね、前頭葉の働きが鈍ってて判断力が下がるから、どんな不条理でも受け入れちゃうんだってさ」
「へえ……」
「だっておかしいじゃない?シャッターがそんな開き方すると思う?」
「まあ、そうだよね」
◇◇◇
あおいは高校時代の現国の教科書に載っていた、夏目漱石の『夢十夜』の一エピソードを思い出した。
「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中に埋まっているのを、鑿と槌の力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない」
シャッターがあんなふうに開くのを受け入れ、納得してしまった自分は、きっとこんな話を聞いたら、仁王像の一つも彫ってみようと考えるおっちょこちょいだろう。
何しろ「なんだ夢か……」と思いつつも、それはそれで、何かいい感じの幻想小説でも書けないかな?などと、あさっての方向に色気が出たくらいだ。
◇◇◇
まあ、そんな感じで書かれたのが本編でございます。
お目汚し失礼いたしました。(筆者)
【『シャッターの中の仏像』 了】
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