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根古柳四丁目2番15号
おばあちゃんの質問
しおりを挟むさて、お祖母ちゃん孝行の私めは、お使いだけでなく、時にはお出かけに同伴することもあった。
その日はいつものように、何も考えないで行った。
そうしたら、お祖母ちゃんはどうやらお出かけするところだったみたいで、「1時間、2時間くらいかな?お留守番してて」と言った後、「あ、せっかくだから、一緒に来てもらおうかね」と言い直した。
それはどこかと聞くと、「行ったことはない」と言う。
そして、「さっき電話で予約したから、4時半には行きたいのよ」と、メモ片を渡された。
「根古柳四丁目二の十五って…あれ、うちの高校がある辺りの地名だよね」
「そうなんだよ。ひょっとして近くかね」
「うーん――あ、ちょっと待って」
私は生徒手帳を出し、学校の住所を確認した。すると、「根古柳四丁目2番23号」と書いてある。ご近所もご近所、何なら同じブロックのようだ。
「ここって誰かの家なの?街区表示見ながらなら、行けそうだけど」
「普通の家だとは思うけど、多分看板出てるから、近所に行ったら分かると思うんだ」
「看板?」
「それにアヤちゃんの高校の近くなら、意外と知ってるかもしれないよね」
「多分知らないけど…でも――うん、一緒に行ってみる」
私はちょっとした好奇心と、お祖母ちゃんが「行ったことはない」「よく分かっていない」場所に行こうとしていることに軽い警戒心を覚え、同行することにした。
もし怪しげな場所だったら、私が注意することもできるしなんて、生意気盛りらしく、不遜なことを無意識に思ったのだと思う。
ちょうどお年寄りを集めてミニ講演やらパーティーやらで関心を引いて、高額商品を売りつけるとかいう、「ナントカ商法」の話を聞いたことがあったし、少し心配だったのだ。
住所と電話番号はちょっと癖の強い達筆で、数字も全部漢数字だった。お友達の紹介らしい。
+++
まずは屋布高校の正門前まで行って、すぐ近所にあった大きな街区案内を見た。これで多分番地が分かるはずだ。
「ここが23だから、15は――あっちだね。多分この通りだ」
私は北を指さした。
「やっぱりアヤちゃんは賢いね。お祖母ちゃんは地図見るのは苦手だよ」
そこから何分も歩かないうちに、大きくて立派な家が目に入った。何と書いてあるかは近くまでいかないと見えないけれど、白い立派な看板が家の前に出ていた。道場か何かみたい。
「ここ…なの?」
〇〇宗(仏教の宗派名)とか△△院管長とか書いてある。
「拝み屋さんっていうのかね。巫女さんだっけ?」
「えーと…つまり霊媒師ってこと?」
「そういう言い方もあるんだね」
青森の恐山のイタコとかが有名だけど、こういう人、本当にいるんだ…。
何とか商法じゃなかったけれど、これはこれで大分怪しい気がする。大丈夫なのかな。
+++
中に入ってみると、玄関を上がってすぐリビングみたいな造りになっていて、そこでは2人の人が、ソファに腰掛けたり、カーペットの上にじかに正座したりして、麦茶を飲んでいた。玄関の開く音に一瞬少しだけ反応したが、特に私たちに関心はなさそうな様子が分かる。
家の奥から穏やかな雰囲気の初老の女性がやってきたので、お祖母ちゃんが「予約した者ですが…」と名前を言った。
大きな窓は開放され、とても風通しがよくて、特段怪しげな雰囲気もない。
小さい頃少しだけ習っていたエレクトーンの教室が、やはり先生個人の家だったけれど、やっぱりこんなふうにリビングで順番を待っていたなあ、なんて思い出した。
「拝み屋さん」はそんなに遠くないところで仕事をしているらしく、ぼそぼそという聞き取れない声の合間に「キーッ」とかいう奇声が少し混じったりして、ちょっとだけ怖かった。
+++
ここに着いたのが4時00分になったかならないかの頃で、お祖母ちゃんの名前が呼ばれたとき、待合場所の時計は長針が真下まで来ていないくらいの時刻だったから、ここにいたのは30分程度のようだ。
「その部屋」に入ると、いかにもな白装束に身を包んではいるものの、思ったより穏やかな顔立ちの、普通の老婦人がいた。
そして制服姿の私を見ると、「賢そうなお嬢ちゃんだね。屋布高校の生徒さんか。うちの息子も90期だよ」と言った。
屋布は結構古い伝統のある学校で、OBは大抵「僕は85期だ。君は何期だね?」などと確認し合ったりする。
私が109期なので、20年くらい先輩ということは、今36歳か7歳の人ということになる。そこからこの拝み屋さんの大体の年齢も、「60歳から70歳の間ぐらいの人かな」と、ざっくり推測できた。
そして多分、緊張をほぐす意図でだと思うけれど、「今日は涼しいが、明日あたりは気温が上がるようだ」とか、無難な話題から入り、徐々に本題に入っていった。
「あたしのつれあいがね――3年前に死んだんだけど…」
「そうでしたか。お幾つで?」
「70になったばかりだった。お腹の病気で手術してから、めっきり弱くなって」
「なるほどねえ…」
私もこれまで、お祖父ちゃんの話はそこそこ聞いているつもりだった。
映画俳優みたいな男前だったとか、家が貧しいから上の学校には行けなかったけど、物知りできれいな字を書く人だったとか、まあそのあたりの話は、聞くたびにスタンプカードを押してもらうシステムがあったら、5,000円分くらいの商品券もらってもいいレベルの回数聞いていたと思う。
「どちらで知り合われたの?お見合いで?」
「いえ、あたしはあの人が働いていた工場の食堂で働いていて…」
「それはこのお近く?」
「あたしは若い頃、ちょっと家を出ていたことがあって――あの人の郷里の近くでしたよ」
お祖母ちゃんはそこで県西部のある地名を出した。
「おそばで有名なところですね」
「そうそう。あの人もそばが大好きで…」
お祖母ちゃんは社交的で話し好きで、お友達とよく話しているし、私の話もよく聞いてくれるけれど、大好きだったお祖父ちゃんのことは、誰に何度話しても物足りないというくらい「したい」らしい。
まあそんな話が10分(体感)くらい続いた後、拝み屋さんが本題に入る発言をした。
「それで、亡くなったご主人に聞きたいことは?」
拝み屋さんの質問に、お祖母ちゃんは答えた――けれど、私は反射的に、「それさすがにいろいろ駄目なやつなんでは…」と思った。
「うちの金庫の鍵が開かないんで、ダイヤルの番号教えてほしくて」
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