1 / 33
合計金額「777円」のレシートのつくり方
税抜720円(240×3)
しおりを挟む
ねえ、その数字が素数かどうか確かめるときって、みんなどうしてる?
あ、断っておくけど私はド文系だから、正確な計算方法は知らないよ。
私だけでなくて、大抵の人がやってると思うけど、「3か7で割れたら素数ではない」って判断してるよね、ね?
そもそもその数字が素数かどうかを確かめなければならないなんて場面、普通に生活してたら「ない」でしょ。
3ケタの適当な数を3か7で割ってみたら、ぱきっと割れた――みたいなのって、なんか脳がすっきりしない?
それでですね。
「777」は素数か否か。
言うまでもないけれど、素数ではありません。それは暗算が苦手でも分かる。
一目瞭然、7と111で割れるもんね。
ちなみにこの数字、実は3でも割り切れます!
暗算が苦手な人は電卓使ってみて。「259」ってスッキリ表示されるから。
◇◇◇
私は今、国内最大手コンビニの、住んでいるアパートからいちばん近い店舗に来ている。
今日は学校の友達のサトちゃんとシノちゃんが遊びにくることになっているのだ。
部屋に買い置きのお菓子やお茶はあるけど、せっかくだから何かスイーツでも買おうかなと思って。
ちょうど「春のいちごフェア」とかやってて、スイーツの棚は赤やピンクで華やいだ雰囲気になっているし、どれもおいしそう。
で、少し悩んで「クリームチーズとイチゴのもちもちクレープ」っていうのを選んだ。
見た目は地味だけど、値段も一つ240円と手頃だし、中身がみっちりしていて、意外と食いでがありそうだし、フレイバーの組み合わせからして「これ絶対おいしいやつじゃん」だったから。
会計したら「777円」って出たから、ちょっと気分が上がった。
レジの女性も、「あ、何だかおめでとうございます」って言ったから、2人でちょっと笑っちゃった。
そうか、240円の食べ物を買うと、税込み259円になって、三つなら777円ってことか。これはいいことを覚えた。
買い物の合計がぞろ目とか、きっかり1,000円みたいなキリ番って、何かアガるよね。そういうレシートって、ついつい取っておいちゃう。
◇◇◇
駐輪場まで戻ると、タバコ吸っているおっさんがいて、ちょっと「うわあ…」って思った。
ここのコンビニは県道沿いにあって、道に対して垂直?に建っているんだけど(ニュアンス伝わるかなあ)、お店の両側のスペースが、それぞれ駐輪場と喫煙所になっていて、県道側の方が駐輪場、向こう側が喫煙所だ。ついでに出入り口も、駐輪場の方が圧倒的に近い。
そのせいか、面倒くさがって駐輪場でたばこを吸う人はたまに見かける。
吸うなとは言わないけど、マナーくらい守ってほしいもんだ。
そんな人のためにせっかくの気分が下がるのは嫌だし、気を取り直して帰ろうと、自分の自転車に鍵を挿したら、背後から、「おい、あんた!」という声がした。
「はい、何でしょう?」
振り向くと、60歳くらいのおじさんが立っていた。
「あんた、俺の自転車にぶつかったぞ」
「え?」
いやいや、そんなはずはない。そんな硬いものにぶつかったら、さすがに気付くもの。
「何の話ですか?」
「あんたのそのバッグが、俺の自転車に当たったんだよ!」
私は大き目のトートバッグをたすき掛けにしていた。
その中には買ったばかりのクレープが入っている。
ちなみに財布やスマホはポシェットで別持ちしているし、こちらは体に密着している。
トートの中に硬いものは入っていないし、当たった――というか、布地がおじさんの自転車に触れたことに気付かなかったようだ。
というか、どう考えても駐輪場のエリアからはみ出してとめている自転車があったので、「邪魔だなあ」と思ったのだが、それがおじさんの愛車だったようだ。
迷惑駐輪しておいて何言ってんだよと不本意だったけど、私は割と簡単に頭を下げる方なので、「あ、すみません」とだけとりあえず言った。
「“すみません”じゃ、すみませんよ!」
えーっ、何その反応、その丁寧語。
しかし、どう対処するのが正解かわからない。
「金払え、金!」
「何でですか、嫌ですよ」
さすがに(どちらかといえば)小心者の私も、こんな理不尽には耐えられない。
「何だこのアマ、当て逃げする気か?」
「当て逃げって…」
もう一回状況を整理すると。
おじさんはあくまで「私のものが自分の自転車に当たったのだから、(謝罪以外の)誠意を見せろ」と主張し、私にはそもそも何かが当たったという自覚もないし、トートの一部分が当たった(というかかすった)くらいで何だという話だ。
ほかに目撃者がいないかと思い、(あ、あのタバコ吸ってる人)と思って目をやると、あろうことかそっぽを向きやがった!私たちに関わりたくないのだろう。
ついでにそのまま喫煙所に移動すればいいのに。
怠惰で役に立たない喫煙者だな、もうっ!
「大体、自転車のくせにそんなヒラヒラした服着てんのも気に入らねえんだよ」
私が着ていたのは、おしりが隠れるくらいのチュニックとジーンズだった。
別に自転車に乗るのに支障があるとも思えない。言いがかりもいいところだ。
私は開き直り、無視して自転車にまたがって帰ることにした。
「バーカバーカ、くそ女!」
なんかおっさんが後ろで喚いているが、追ってくる気配はない。
私は県道の向こう側に渡り、念のために少し遠回りして、後ろを窺いながらアパートに戻った。
もし追ってくるようなら、公園の隣の交番に駆け込もうと考えていた。
そこはうちから歩いて2、3分なんだけど、「ひとり暮らしの若い女の子だから、交番の近くがいいんじゃない?」と部屋探しのとき親に勧められたのが、嫌なところで役に立っちゃったりするのだろうか。
◇◇◇
サトちゃんたちが来てすぐ、「ついさっき、頭わいたオッサンに絡まれた」話をした(本当は「777レシート」の話をするつもりだったんだけど)。
心配性のシノちゃんは、「キエちゃん、大変だったね。次にそういうことがあったら、お店の人に声かけるか、警察呼ぶかした方がいいよ」と、眉根にしわを寄せていった。多分この反応、実の母のように優しいと思う。
サトちゃんは「トートの端っこ?が自転車に少し当たったら、どういう名目で幾ら払ったらいいんだろうね?相場とかあるのかな?」と疑問を投げかけた。確かにそれは私も気になる。
気を取り直して、買ってきたクレープを渡すついでにレシートを見せた。
「おおっ」と素直に反応する2人。
「せっかくこんな縁起のいいレシートだったのに、災難だったね」
「ひょっとして、合計金額がコレだった時点で運使い果たしちゃったんじゃないの?」
「ちょっとお、嫌なこと言わないでよ(自分でもちょっとは思っているんだから)」
ま、ちょっと虚勢張っただけの小汚いクソジジイに暴言吐かれただけで済んだのは、777レシートのおかげかもしれない――と考えることにした。
【『合計金額「777円」のレシートのつくり方』了】
あ、断っておくけど私はド文系だから、正確な計算方法は知らないよ。
私だけでなくて、大抵の人がやってると思うけど、「3か7で割れたら素数ではない」って判断してるよね、ね?
そもそもその数字が素数かどうかを確かめなければならないなんて場面、普通に生活してたら「ない」でしょ。
3ケタの適当な数を3か7で割ってみたら、ぱきっと割れた――みたいなのって、なんか脳がすっきりしない?
それでですね。
「777」は素数か否か。
言うまでもないけれど、素数ではありません。それは暗算が苦手でも分かる。
一目瞭然、7と111で割れるもんね。
ちなみにこの数字、実は3でも割り切れます!
暗算が苦手な人は電卓使ってみて。「259」ってスッキリ表示されるから。
◇◇◇
私は今、国内最大手コンビニの、住んでいるアパートからいちばん近い店舗に来ている。
今日は学校の友達のサトちゃんとシノちゃんが遊びにくることになっているのだ。
部屋に買い置きのお菓子やお茶はあるけど、せっかくだから何かスイーツでも買おうかなと思って。
ちょうど「春のいちごフェア」とかやってて、スイーツの棚は赤やピンクで華やいだ雰囲気になっているし、どれもおいしそう。
で、少し悩んで「クリームチーズとイチゴのもちもちクレープ」っていうのを選んだ。
見た目は地味だけど、値段も一つ240円と手頃だし、中身がみっちりしていて、意外と食いでがありそうだし、フレイバーの組み合わせからして「これ絶対おいしいやつじゃん」だったから。
会計したら「777円」って出たから、ちょっと気分が上がった。
レジの女性も、「あ、何だかおめでとうございます」って言ったから、2人でちょっと笑っちゃった。
そうか、240円の食べ物を買うと、税込み259円になって、三つなら777円ってことか。これはいいことを覚えた。
買い物の合計がぞろ目とか、きっかり1,000円みたいなキリ番って、何かアガるよね。そういうレシートって、ついつい取っておいちゃう。
◇◇◇
駐輪場まで戻ると、タバコ吸っているおっさんがいて、ちょっと「うわあ…」って思った。
ここのコンビニは県道沿いにあって、道に対して垂直?に建っているんだけど(ニュアンス伝わるかなあ)、お店の両側のスペースが、それぞれ駐輪場と喫煙所になっていて、県道側の方が駐輪場、向こう側が喫煙所だ。ついでに出入り口も、駐輪場の方が圧倒的に近い。
そのせいか、面倒くさがって駐輪場でたばこを吸う人はたまに見かける。
吸うなとは言わないけど、マナーくらい守ってほしいもんだ。
そんな人のためにせっかくの気分が下がるのは嫌だし、気を取り直して帰ろうと、自分の自転車に鍵を挿したら、背後から、「おい、あんた!」という声がした。
「はい、何でしょう?」
振り向くと、60歳くらいのおじさんが立っていた。
「あんた、俺の自転車にぶつかったぞ」
「え?」
いやいや、そんなはずはない。そんな硬いものにぶつかったら、さすがに気付くもの。
「何の話ですか?」
「あんたのそのバッグが、俺の自転車に当たったんだよ!」
私は大き目のトートバッグをたすき掛けにしていた。
その中には買ったばかりのクレープが入っている。
ちなみに財布やスマホはポシェットで別持ちしているし、こちらは体に密着している。
トートの中に硬いものは入っていないし、当たった――というか、布地がおじさんの自転車に触れたことに気付かなかったようだ。
というか、どう考えても駐輪場のエリアからはみ出してとめている自転車があったので、「邪魔だなあ」と思ったのだが、それがおじさんの愛車だったようだ。
迷惑駐輪しておいて何言ってんだよと不本意だったけど、私は割と簡単に頭を下げる方なので、「あ、すみません」とだけとりあえず言った。
「“すみません”じゃ、すみませんよ!」
えーっ、何その反応、その丁寧語。
しかし、どう対処するのが正解かわからない。
「金払え、金!」
「何でですか、嫌ですよ」
さすがに(どちらかといえば)小心者の私も、こんな理不尽には耐えられない。
「何だこのアマ、当て逃げする気か?」
「当て逃げって…」
もう一回状況を整理すると。
おじさんはあくまで「私のものが自分の自転車に当たったのだから、(謝罪以外の)誠意を見せろ」と主張し、私にはそもそも何かが当たったという自覚もないし、トートの一部分が当たった(というかかすった)くらいで何だという話だ。
ほかに目撃者がいないかと思い、(あ、あのタバコ吸ってる人)と思って目をやると、あろうことかそっぽを向きやがった!私たちに関わりたくないのだろう。
ついでにそのまま喫煙所に移動すればいいのに。
怠惰で役に立たない喫煙者だな、もうっ!
「大体、自転車のくせにそんなヒラヒラした服着てんのも気に入らねえんだよ」
私が着ていたのは、おしりが隠れるくらいのチュニックとジーンズだった。
別に自転車に乗るのに支障があるとも思えない。言いがかりもいいところだ。
私は開き直り、無視して自転車にまたがって帰ることにした。
「バーカバーカ、くそ女!」
なんかおっさんが後ろで喚いているが、追ってくる気配はない。
私は県道の向こう側に渡り、念のために少し遠回りして、後ろを窺いながらアパートに戻った。
もし追ってくるようなら、公園の隣の交番に駆け込もうと考えていた。
そこはうちから歩いて2、3分なんだけど、「ひとり暮らしの若い女の子だから、交番の近くがいいんじゃない?」と部屋探しのとき親に勧められたのが、嫌なところで役に立っちゃったりするのだろうか。
◇◇◇
サトちゃんたちが来てすぐ、「ついさっき、頭わいたオッサンに絡まれた」話をした(本当は「777レシート」の話をするつもりだったんだけど)。
心配性のシノちゃんは、「キエちゃん、大変だったね。次にそういうことがあったら、お店の人に声かけるか、警察呼ぶかした方がいいよ」と、眉根にしわを寄せていった。多分この反応、実の母のように優しいと思う。
サトちゃんは「トートの端っこ?が自転車に少し当たったら、どういう名目で幾ら払ったらいいんだろうね?相場とかあるのかな?」と疑問を投げかけた。確かにそれは私も気になる。
気を取り直して、買ってきたクレープを渡すついでにレシートを見せた。
「おおっ」と素直に反応する2人。
「せっかくこんな縁起のいいレシートだったのに、災難だったね」
「ひょっとして、合計金額がコレだった時点で運使い果たしちゃったんじゃないの?」
「ちょっとお、嫌なこと言わないでよ(自分でもちょっとは思っているんだから)」
ま、ちょっと虚勢張っただけの小汚いクソジジイに暴言吐かれただけで済んだのは、777レシートのおかげかもしれない――と考えることにした。
【『合計金額「777円」のレシートのつくり方』了】
1
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる