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7月13日に生まれて Born on the 13th of July
カセットテープとアイスクリーム
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その日は結局、朝のクラスメート2人の会話と、英語の先生の雑談で、「13日の金曜日」というトピックが出てきたくらいだった。
まあまあこんなもんでしょと思いつつ、少し温まった懐に気が大きくなって、学校帰りに繁華街のレコード屋さんに寄った。
3,000円なので、LPレコードなんか買っちゃったら一遍にお金がなくなっちゃう。
気になっていた音楽ユニット・ゲルニカの『改造への躍動』のカセットテープ版(2,000円)の方を買った。残りはプールしておこう。
いわゆる「自分へのプレゼント」を買い、店を出ようとしたところで、中学時代の同級生と出くわした。
「…よお、久しぶり」
「…うん、だね」
私は中学時代、その男子のことを「ムラカミ」と姓で呼び捨てにしていて、口喧嘩する程度の間柄だった。
ちなみにムラカミはA菜ちゃんのファンで、誰かが持ち込んだ芸能雑誌の水着グラビアを見て、「あーあ、こんな子がクラスにいたらなあ」とか、無責任な雑談をでっかい声でしているのを教室で見かけたことがあった。
「もう帰るのか?」
「欲しいもの買ったし」
私が買ったばかりのテープの入った袋を軽く上に持ち上げて見せ、その場を離れようとすると、ムラカミは「あの、さ。ハンバーガー食わねえ?おごっから」と、背後から声をかけてきた。
「え、別におなか空いてないし」
「じゃ、ジュースでもアイスでも、何でもいいよ。とにかくおごる」
と、言葉を重ねられた。
まあそういうことなら――と、特に予定もなかったので、同じ建物の1階フロアに入っていたハンバーガーショップに行き、ムラカミはチーズバーガーとポテトとコーラ(M)、私はラムレーズンのアイスクリームを注文した。
◇◇◇
一応「口喧嘩する程度の仲」だったし、卒業してから4カ月というほどよいブランクでもあった。
ムラカミは、場所的にも部活なんかのつながりも、うちの学校とはそこまで接点の多くない男子校に行っていた。
同じ中学から自分と同じ高校に来たあいつは今何部だとか、あの子はたった4カ月ですっかり派手になっちゃったとか、それなりにうわさ話の種はある。
私が何を買ったのか知りたがったので見せたら、「こういうの聞くのか」と意外そうに言われた。
「ていうか、お前が“ジェニーズ”がどうのみたいな話してんの、そういや聞いたことなかった」
「そうだね。確かにあんま興味ないや」
「それさ――今度ダビングさせてくんない?何かちょっと興味湧いてきた」
「いいけど、私が一回聞いてからね」
「もちろんそれで」
ムラカミは、ゲルニカの戸川純のことは知っていた。
『玉姫様』という狂気に満ちた曲が夜の歌番組で披露されたときは、「あの女、絶対キ○ガイだ」と言う男子のグループに加わって話していたはずだけど、キ○ガイじみたものというのは、ある種の魅力もある。そういう意味で興味が湧いたのだろうか。
私はアイスクリームだけだったので、すぐ食べ終わってしまい、ムラカミに勧められたポテトも食べなかった。
そんな感じで私にだけ少しだけ「ゆとり」ができてしまったせいか、ある疑問が湧いた。
「そういえば、今日何でおごってくれたの?」
「だってお前、今日誕生日だろう?」
「えー、覚えてたんだ。あ、A菜ちゃんの誕生日だからか」
「バカ、逆だよ!」
「逆?」
「いや、何でもね…」
そのままムラカミは、恥ずかしそうにうつむいてしまった。
家が比較的近所だったから、帰りは送ってくれたけど、次はカセットのダビングの件で会うことになるのかな?
具体的な日程は決めなかったけど、もうすぐ夏休みだし、いつでもいいか。
――などと、ちょっと鈍感ヒロインを気取って、ムラカミの細かい言動については深く考えないことにした。
まあまあこんなもんでしょと思いつつ、少し温まった懐に気が大きくなって、学校帰りに繁華街のレコード屋さんに寄った。
3,000円なので、LPレコードなんか買っちゃったら一遍にお金がなくなっちゃう。
気になっていた音楽ユニット・ゲルニカの『改造への躍動』のカセットテープ版(2,000円)の方を買った。残りはプールしておこう。
いわゆる「自分へのプレゼント」を買い、店を出ようとしたところで、中学時代の同級生と出くわした。
「…よお、久しぶり」
「…うん、だね」
私は中学時代、その男子のことを「ムラカミ」と姓で呼び捨てにしていて、口喧嘩する程度の間柄だった。
ちなみにムラカミはA菜ちゃんのファンで、誰かが持ち込んだ芸能雑誌の水着グラビアを見て、「あーあ、こんな子がクラスにいたらなあ」とか、無責任な雑談をでっかい声でしているのを教室で見かけたことがあった。
「もう帰るのか?」
「欲しいもの買ったし」
私が買ったばかりのテープの入った袋を軽く上に持ち上げて見せ、その場を離れようとすると、ムラカミは「あの、さ。ハンバーガー食わねえ?おごっから」と、背後から声をかけてきた。
「え、別におなか空いてないし」
「じゃ、ジュースでもアイスでも、何でもいいよ。とにかくおごる」
と、言葉を重ねられた。
まあそういうことなら――と、特に予定もなかったので、同じ建物の1階フロアに入っていたハンバーガーショップに行き、ムラカミはチーズバーガーとポテトとコーラ(M)、私はラムレーズンのアイスクリームを注文した。
◇◇◇
一応「口喧嘩する程度の仲」だったし、卒業してから4カ月というほどよいブランクでもあった。
ムラカミは、場所的にも部活なんかのつながりも、うちの学校とはそこまで接点の多くない男子校に行っていた。
同じ中学から自分と同じ高校に来たあいつは今何部だとか、あの子はたった4カ月ですっかり派手になっちゃったとか、それなりにうわさ話の種はある。
私が何を買ったのか知りたがったので見せたら、「こういうの聞くのか」と意外そうに言われた。
「ていうか、お前が“ジェニーズ”がどうのみたいな話してんの、そういや聞いたことなかった」
「そうだね。確かにあんま興味ないや」
「それさ――今度ダビングさせてくんない?何かちょっと興味湧いてきた」
「いいけど、私が一回聞いてからね」
「もちろんそれで」
ムラカミは、ゲルニカの戸川純のことは知っていた。
『玉姫様』という狂気に満ちた曲が夜の歌番組で披露されたときは、「あの女、絶対キ○ガイだ」と言う男子のグループに加わって話していたはずだけど、キ○ガイじみたものというのは、ある種の魅力もある。そういう意味で興味が湧いたのだろうか。
私はアイスクリームだけだったので、すぐ食べ終わってしまい、ムラカミに勧められたポテトも食べなかった。
そんな感じで私にだけ少しだけ「ゆとり」ができてしまったせいか、ある疑問が湧いた。
「そういえば、今日何でおごってくれたの?」
「だってお前、今日誕生日だろう?」
「えー、覚えてたんだ。あ、A菜ちゃんの誕生日だからか」
「バカ、逆だよ!」
「逆?」
「いや、何でもね…」
そのままムラカミは、恥ずかしそうにうつむいてしまった。
家が比較的近所だったから、帰りは送ってくれたけど、次はカセットのダビングの件で会うことになるのかな?
具体的な日程は決めなかったけど、もうすぐ夏休みだし、いつでもいいか。
――などと、ちょっと鈍感ヒロインを気取って、ムラカミの細かい言動については深く考えないことにした。
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