SS集「高校生」

あおみなみ

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アオい思い

【終】美術部 仮入部

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 あの学園祭から半年後、私は風祭高校普通科を受験し、無事合格した。
 ちなみにヨリちゃも一緒だ。

 アキちゃんは実はかなりマジで美術に取り組むことにしたらしく、30キロ離れた街の高校の芸術科に行った。
 公立高校で学費も安いせいか、結構競争率高いけど、頑張って合格した。すごい。
 いろいろ忙しくなって、あんまり遊べなくなりそうだけど、応援したいと思う。

 ヨリちゃんはわりと難関大学を今から志望していて、将来は弁護士になりたいらしい。だから勉強頑張るって張り切ってる。

 何か私だけ中途半端だなあ。
 2人にはとても言えないけど、風高を受験するのだって「滝田さん」を追いかけた結果だし。

 ま、でも、いろいろこれからだよね。

◇◇◇

 ヨリちゃんはいろいろ悩んだけれど、部活には入らないことにしたらしい。
 中学まではバレー部で頑張っていたけど、「練習キツくなるだろうし、高校で通用するとは思えないし」って、見切りをつけることにしたって。

 私が美術部に入るって言ったら、「え、アンタが!?」と、とってもとっても傷つく反応をした。
 まあでも、そう言いたくなる気持ちは分かるよ。

「だって美術ずっと3だったよね」
「それはどうでもいいじゃん」
「うん、いいけど…意外だなって」

 美術は俗に真ん中の成績、すなわち5段階なら3が実質「1」だって聞いたことがある。
 4とか5を取る人は普通に優等生だし、1や2の人は教師が理解できない芸術性がある可能性がある、とか何とか。
 優等生でもなく、個性も芸術性もなきゃ、そりゃ「3」になるわな。凡人万歳だよ。

 入学式の日にもらった美術部の勧誘チラシに「初心者大歓迎。一緒にアートしませんか?」と書いてあったことで、少しだけ勇気が出た。
 あれがしたい、これが創りたいっていうより、あの絵を描いた「滝田さん」に会いたい。
 そう、滝田さんと一緒にアートするのが、私の高校生活の当面さしあたりの目標ってことだ。

◇◇◇

 まずは仮入部して、よさげだったら正式に入部届を出すことになっている。

 最初の会合は、美術部の部長さんがいるクラスの教室だった。
 10人くらいで、女子の方が多い。
 (10人程度なんだから厳密に言ってもいいんだけど、正直そんなに興味ないからなあ…)

 先輩部員の人たちも、名前とクラス程度の簡単な自己紹介をしたけれど、初日に「滝田さん」はいなかった。
 でも、いきなり「今日は滝田さんはお休みですか?」って聞くわけにもいかない。何しろ知り合いでもないんだし。

(文化祭のとき、受付のところにあったノートに「『樹木』って絵が大好きです」とだけ書いたのは私です。
あの絵に一目ぼれして、風高受験、美術部にも入ろうと思って…
絵とかあんまり得意じゃないけど、アートしたいんです!)

 言いたいことがいっぱいある。実際には言えないだろうけど。
 滝田さん、ほんと、どんな人だろう?

 その日の夜、「細長くて、メガネで、頭のよさそうな」滝田さん」に「(制服の)ネクタイ曲がっていますよ。ちゃんとなさい」って直してもらう夢を見た。
 後輩相手に丁寧語。これが私の中の「滝田先輩さん」なのだ。

◇◇◇

 仮入部の期間は1週間。
 とにかく滝田さんに会えるまでは顔を出そうと思ったら、2日目に会えた。
 厳密にいうと「遠くから見た」。

 滝田さんは背が高くてやせ型で、髪色が薄くて色白で、眼鏡はかけていない。
 顔は、多分大抵の女の子が「イケメン」っていうタイプだ――と思う。
 女子部員に囲まれて、軽口を飛ばして明るく笑っていて、人気者なんだろうなってすぐわかる。
 部長さんが「お前、昨日来てなかったからな」って、仮入部中の私たち1年生に紹介してくれたけど、「よろしく。ぜひ正式に入部してね」って笑顔を浮かべて言った。ちょこっと八重歯が見えた。

 女の子の何人かは、「滝田さんかっこよくない?」「私、絶対入部する!」「八重歯がかわいいよね」とかって盛り上がっていたけれど、私はその翌日から顔を出すのをやめた。

◇◇◇

 細長い体型、優等生タイプ、眼鏡の奥の知的で優しい眼差し、黒く癖のないロングヘア――それが私の中の「滝田薫さん」だった。
 し、ましてやあんなチャラッとした人だったなんて…。

 勝手に想像して勝手にゲンメツしてれば世話ないんだけど、まあ、今のところ誰にも迷惑かけてないもんね。

 さようなら、滝田薫さん。
 私はイケメン――というか、男性には全く興味がないのです。

◇◇◇

 美術部通いを2日で見切った翌日、アキちゃんから、「ヨリに聞いたよ。美術部に入ったんだって?」「絵とか好きだったっけ?」「部活頑張ってね」とかってメッセージが来たけど、さて、どう返事したらいいんだろ?

【了】
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