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ビートルズと紅茶と…
カフェ「rencontre 」にて
しおりを挟むそんなこんなで紅茶派になった私は、ある日小さな小さなかわいらしいカフェで、シフォンケーキと紅茶を楽しんでいた。
そして、「なんで今…」というタイミングで急にお腹が痛くなった。
切ない…けど、背に腹は代えられない。
幸いお客さんはほかにいなかったし、「トイレ、お借りします…」って言いながら入って、しばらく頑張った。それを3回繰り返したら、ドアが開いたところで、すごく背の高い人とぶつかった。
「あ、ごめんなさい…」
白いシャツに黒いスラックスで、顔の雰囲気とか若いし、高校生かな。
全体に色素が薄目で、顔立ちも薄目。鼻の頭にちょっとそばかすが目立つ。
その「薄い」彼が、心配そうな顔で言った。
「あの…あ、その――大丈夫?」
「え…?」
「その…お腹の調子が悪いのかなって…」
え?ずっと見られてたの?それって大分恥ずかしいんだけど。
「おい、純、デリカシーのないことを言うな!」
カウンタからマスターが声を張った。
▽▽
「お客さん、ごめんね。そいつは俺の甥っ子なんですよ」
「はあ…」
「あ、そのさ、俺は別に君が出てくるのをここで待ってたわけじゃないよ?偶然、偶然。それだけは分かってほしいんだけど!」
「声、おっきい…」
私は普段、初対面の人にため口を聞くことはないんだけど、年齢もそんなに変わらなそうだし、状況が状況だしで、かなり率直に思ったことを口に出した。
「あ、ごめんね――えと、薬のむ?」
この人、どれだけ私のお腹の心配してるの?初対面なのに。
何だかもう笑うしかない。
「大丈夫だよ、もうお腹も平気そうだし、薬も自前のがあるから」
「よかったあ…あ、おじさん、ぬるい水ちょうだい。この子が薬飲むからさ」
どこにも悪意や嫌味さがない話し方、所作。
私は「水なしで飲める薬なので」と言う気になれなかった。
▽▽
そばかすのっぽの「純君」は、勝手に私の向かいに座り、私が薬をのむのをじっと見ていた。
「あ、俺は三戸部純っていいます。M高校の2年」
「私は――名乗らなきゃダメ?」
「あ、ごめん。ええと、どっちでも…」
「うそうそ。私は新田まりえ。J女子高の2年だよ」
本当ならばすぐに立ち去りたい(そしてしばらく来たくない)くらいの心境のはずなのに、「純君改め三戸部君」がいろいろと気を使ってくれるので、私は席を立てずにいた。
「俺もお腹弱くて、高校入試とか、肝心なところで結構ひどい目に遭ったんだよね」
「それでM高受かっちゃうなんて、すごいね」
「もう朝は遅刻するんじゃないかってヒヤヒヤしたし、テスト中は調子よくても、いつか波が来るんじゃないかって気が気じゃなかった。嫌な汗かいたよ」
「ふふ。災難だったね」
「だから君がトイレを行ったりきたりしているのを見て、何だか他人に思えなくて…」
なるほど、マスターの言うとおり、この子にはデリカシーが足りないな。
でも、不思議と不愉快ではなかった。
「ひょっとして三戸部君は、精神的なものがお腹に来る方?」
「きっとそうなんだろうね」
「私は水分いっぱい摂ったり、何か体調のバランスが崩れたりかな」
「そうなんだ。あ、じゃ、腹巻とかするといいよ。今は夏でもつけられるのがあるし」
▽▽
よく言えば親切だけど悪く言えばお節介で、一言多くて――三戸部君ってお母さんみたいな子だな。
初対面でこんなふうに話せちゃうのも、そのせいかもしれない。
そこでマスターがやってきて、三戸部君に軽くチョップを振り下ろした。
「いたっ」
「純、女の子にそんな話ばかりして何のつもりだ。貴重なお客さんを減らす気か」
「ああ、つい…ごめん。まりえちゃん話しやすいから…」
おっと、いきなり名前呼びか。
いろいろ規格外で、いろいろ予想外で。
「気にしてないよ。“純君”もこのお店、よく来るの?」
「来たのは今日初めてなんだけど…まりえちゃんは?」
「私も初めて。でも、また寄らせてもらおうかな」
マスターが私たちの会話を聞いて、すっとカウンターに戻っていった。
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